第22話 『心躍る戦争を』


 いつ頃から感じていたかは正直覚えていない。

 今まで戦ってきた敵や『原初』に『女神』、特に目の前でニコニコしている『七元徳』もそうだ。正々堂々力と力のぶつかり合いで戦うってのが美しい、当たり前みたいな考え方。


 『七元徳』はこんなアツい展開まで来て、こんな勝ち方を掴みに行く戦法を続けるのかなんて思ってるんだろうな。『七元徳』ってよりも観戦して酒でも飲んでいる『女神』が思ってるんだろう。


 そんな戦い方でいつまでやるつもりだっていう考えを……まさかこんな場面まで来てぶつけられるなんて正直驚きではある。



「覚悟を持ってこの世界に来た身だからな……戦い方に拘ってる余裕なんて無いんだよ」


「役者は美しく踊ってこそですよ?」


「勝たなきゃいけないからな……醜くても踊るさ」


「これが妾たちの戦い方でのぅ」



――ゴゴゴゴゴゴッ!



 デザイアの眷属たちが身体をデザイアのほうを向け、ブツブツ呟き始めながら小刻みに揺れ始める。

 今更何を言われようと俺たちが最強勇者様みたいに手に汗握る殴り合いなんていう戦い方に変えるなんてありえない。『不意打ち初見殺し』をモットーにここまでやってきてるんだ。


 デザイアばかりに働かせてしまってはここに出てきた意味が無い。

 俺もしっかりと役割を果たさせてもらおうと思っているけど、なんかメンタルが突き抜けてそうな『七元徳』が不気味すぎる。


 『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』の中ってのもあるけど、なんだかホラーな感じだ。



「『真原罪之アマルティア・烙命印アドヴェント』」


「『罰を下す神々の鉄拳グランドアンガー』」


「『闇より出でし女神の夢ニュブ=ニグラス』」



 『原罪』の力を解き放つために左手に魔力を溜め込む。

 そんな大きな隙を見逃してくれるわけもなく、『七元徳』から放たれたのは巨大な拳の雨だった。降り注いでくる巨大な拳たちが展開されるスピードも、迫りくるスピードも恐ろしく速くて危険かと思った瞬間にデザイアのフォローが入る。


 歪んだ空間から這い出てきた女型の眷属たちが巨拳を受け止めてくれた。拳を受けた『闇より出でし女神の夢ニュブ=ニグラス』たちの身体から赤い靄が噴き出してきて視界を塞いでくれている。



「主ッ! それはあまりにも油断しすぎじゃぞ!」


「デザイアありがとう大好きだ! 『堕落カロス』の『原罪』」


「『宙を割る星の爆ぜりスーパーノヴァ』」


「『無窮無限の牢獄』」



――ゾゾゾゾゾゾッ!



 俺がレーラズの『原罪』である『堕落カロス』を解放した瞬間、『七元徳』から眩い光が発せられ、『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』を塗り替えるんじゃないかと思うような勢いで光が迫ってきたと思えば、デザイアとニャルラトホテプが巨大な黒渦を創り出して光を飲み込む。


 デザイアたちが『七元徳』のスキルを閉じ込めてくれたから助かったが、今のはガラクシアの最大威力の禁忌魔導レベルの危なさを感じた。


 ……そんな感想は後にしなきゃか。



「……まさか『宙を割る星の爆ぜりスーパーノヴァ』がこんなにアッサリ止められるとは思いませんでした」


「デザイア舐めすぎかもな。やる気を出すことは少ないけど、本気出したら最高だからな」


「……妾を褒めるのはえんじゃが、次は咄嗟に守れる怪しいもんじゃぞ」


「先ほどのΔとγを終わらせた魔力ですね。今の私はそう意識を揺さぶられません?」


「……『女神』の解析速すぎるだろ!」



 なんで先見せたばかりの『堕落カロス』の力が暴かれてるんだよ!

 全貌が知られたかどうかは不明だが、こんなにもスムーズに暴かれて真似られると本当にやりにくいし、『女神』がどんな戦い方してくるかは謎だけど、こっちの手札が知られ過ぎているのはデメリットにしかならない。


 レーラズのように相手の意識を簡単に奪えるような能力セットではないが、『七元徳』はデザイアとニャルラトホテプの恐ろしさをまだまだ理解できてないみたいで助かった。



「今この結界のような世界を創られていたら危険だったかもしれませんね。この闇は本当に危険です」


「この短時間で克服されたのは妾としては理解できんことなんじゃがのぅ」


「これは私の元々の力でもあります。天使の長は闇には屈せず我を失うこともありませんので」


「……デザイアの主である俺ですら特性耳栓無いとダメなのに……」


「主の強さには今更誰も期待しとらんじゃろ。妾たちは搦め手で戦うチームとかいう奴じゃ」


「いいでしょう♪ ここまで来て殴り合いは期待しません……殺すだけの心躍る戦争をしましょう」


「申し訳ないんじゃが、それは敵わんかもしれんのぅ」



 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のLv上位勢、ウチの面々誰もが認める最強たちには能力に大きな特徴がある。

 結界だとかそういうレベルじゃない『世界』を創り出すことが出来るという点だ。ガラクシアの『狂空領域ラストヘブン・終極ノ星フィナーレスター』やメルの『宵明けにて煌めくマーキュリー・オブ水面の中の水星・ケリュケイオン』も、もちろん強力なのには間違いない。



「……『世界』を創れるんだ。なんでも捻じ曲げられる」


「何を言っているのですか?」



 俺にはそこまで違いは分からなかったんだが、ガラクシアやメルといった本人たちが認めているから確かなんだろう。

 ポラール・阿修羅・シャンカラ・デザイア・ハク・イデアが創り出す『世界』は少しばかりレベルが違うのだと、そんな中でもポラール・デザイア・ハクのが創り出す世界は同じ『枢要悪の祭典クライム・アルマ』からしても理解ができないんだと……。


 『深奥の虚空・マウス・無明の閨房・オブ・無窮の宮廷マッドネス』、この世界はアザトースの見る夢の中、この深淵に足をつけたその時から俺も含めて無限無窮の王の夢である。



「適応したのはさすが天使の長じゃ、じゃが妾の見る夢の存在として適応したとも言えるのじゃ」


「……大丈夫だ。俺もデザイア&ニャルを理解できてないから」


「これは……すでに夢ということなのですか?」


「『欲夢パッシオン』と『怠惰スロース』は相性抜群なのじゃ」



 デザイアが発現を終えた瞬間、『七元徳』は何も発することもできずに瞼をゆっくりと閉じ、深淵の最奥へと沈んでいった。

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