エピローグ 見えてきた『皇帝』


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



「第7師団団長が言うには、帝都で今回来た3人の様子を見てる奴がいたみたいだな」


「『罪の牢獄』に入った時点で無効化されているとは思います」



 帝国騎士団の幹部格を3人迎え撃ち終わって、ポラールと一緒に3人の情報をメモ帳に記しているところだ。

 

 あの3人をわざわざ孤立させて迎え撃ったのはソラにスキルをメモらせるためなのと、孤立させたほうが色んな情報を得ることができると思ったからだ。

 人間は集団でいるときと、孤立するときで考え方や精神力が大きく変わってくるからやりやすいところである。



「第9師団副団長『恋人ザ・ラバース』クピドを使った人間爆弾作戦は面白いと思ったけどな」


「かなり惨いことをしますね。帝都上空に転移させましたが、特に被害は無かったようですが、帝都の警戒度が上がったようです」


「帝国皇帝様との隠れんぼは俺の惨敗だったからな……さすがに勝たせてもらわないと」


「再度帝都住民を傷つけないように……等の注意事項は皆に伝えておきますね」


「助かるよ。ありがとう」



 帝国皇帝を暗殺するのが1番手っ取り早いと思って、どうにか探し回ったが見つからず、帝都を囲んで引きずり出すところまで来てしまった。

 今回『罪の牢獄』にやってきた3人の騎士団幹部格がどういう意図で送り込まれたかは知らないけれど、今のところ俺が好んだ展開になってはいないってことだけは確かだ。


 さすがに今回やってきた3人を無駄死にさせるような無能者じゃないだろうし、『運命の輪フォーチュン・ロール』とやらが指定した者の視点をどこにいても覗ける力を持っていたらしいが、まぁ見られたところでって感じだな。


 ミネルヴァから知っているだけの騎士団幹部格の情報は貰っているが、思った以上に仲良くないようで、ミネルヴァの立場であった人間ですら、他者の情報をそこまで知らないという徹底っぷり……不気味な集団だ。



「帝国皇帝の首を獲る上で……問題は誰が邪魔をしてくるかだな」



 帝都周辺の魔王は粗方抑えることができていると思う。


 短期決戦の奇襲を仕掛けるつもりでいるけれど、確実に誰かしら介入は覚悟しておかなきゃいけない。

 さすがに若僧魔王に帝都を易々と渡すなんて他魔王のプライドが許さないだろうし、帝国側も騎士団だけでどうにかなるだなんて思っていないだろう。


 どうにか帝国皇帝の首だけ獲って、さっさとバイバイしたいもんだ。



「帝国騎士団の各団が帝都に揃いつつある……本当は余計な戦いはしたくないけれど、報復されるのも面倒だから、力の差を存分に見せつけて終わらせよう」


「大胆な作戦ですね」


「住民は逃がしたいけど、帝都の城は残そうなんて思ってないからな。相手の能力を知れたら十分……面倒だったら不意打ちで殺せばいいからな」


「ご主人様は、本当に他者の能力に興味津々ですね」


「色んな力を見ておけば、どこかしらで役に立つだろうって思ってるからさ……それに皆強いから、相手の力を見てから戦うことができるっていう安心感が大きいかな」


「ご期待に応えられるよう励みます」


「誰が介入してくることやら……油断したとこ掻っ攫いに来そうな予感がプンプンする」


「ご主人様がやりそうなことですね」


「……そりゃ……それが1番良い気がするからな」



 アークの守り組、帝都や周辺地域警戒組、帝国騎士団奇襲組の3つの構成で大丈夫だとは思うが、油断ならないもんだ。

 もしかしたら『皇龍』みたいなヤバいのが介入してきた場合、全部ぶち壊される可能性だってあるし、『七元徳』は魔王戦争、『原初』の爺さんは記憶の欠片を手にすること事体はどうとも思ってなさそうだから、少しは安心できるけど、世の中に絶対は無いから警戒は必須。


 女神側から何かしてくる可能性だって大いにあり得る。

 人間戦力は昔ほど警戒していないが、隠されているだけで、とんでもない化け物が控えている可能性だってあるからだ。



「あぁ……未知だらけのことに突撃するのは本当に嫌だけど、やらなきゃいけないときもあるもんだな」


「ご主人様の嫌う「見通し不安」というものですね」


「逆に好きな奴なんているのかって話だけど……俺は普通よりもビビりだから、心底震えてるよ」


「ご主人様の見通し不安を解消できるように働きますので、ご安心ください」


「頼りがいありすぎて泣けちゃうよ。もちろん俺だってやれるだけのことはやるよ」



 見通し不安・漁夫の利を狙われる可能性大・女神が敵になりそう……不安要素がとても多いもんだが、今回ばかりは仕方ない。

 ウチの戦力が不安なんて一蹴してくれると信じてるからこその決断だし、皆が行けると言ってくれたから踏み込むことができた。


 やれることを徹底的にやっておいて、少しでも不安を解消しなきゃ寝られないな。



「誰が誰と戦うってのは大丈夫そうか?」


「ご主人様がまとめてくださった資料は、全員目を通してあります。ご主人様の勉強になるよう立ち回りを意識します」


「無理しなくて良いからな? できたらでいいんだ、ちょっと見ておきたいくらいの気持ちだからさ」


「もちろんです」



 帝国騎士団幹部格ってのは面白い能力の宝庫だって言われているらしく、現に俺が出会って来た数人も変わった力の持ち主ばかりだ。


 勝手ながら騎士ってのは腕っぷしが強くて、剣技や武技に特段秀でているジョブみたいに思っていたが、帝国騎士団はどちらかと言えば、個人の能力がどれだけ秀でているかって部分が強い気がする。

 四大国の他騎士団と比べたらの話だけど…。



「聖国は大半『七元徳』の手が加わってるから論外か」



 国を守る騎士の大半を魔物化させておくっていう選択は、聖国を実質支配していた立場である『七元徳』側で考えれば、正直良いやり方って言えるものだったのかもしれない。

 

 俺は今回の戦いで帝国皇帝の首を獲るつもりだが、帝国を支配しようだなんて考えていないのであれだが、もし支配しなきゃいけないってなってしまうのならば、似たようなやり方をすると思う。



「本当……知りたいことが多すぎる。まだまだ活かせてるわけじゃないけど、魔王として、もっともっと成長できるってのは嬉しい話だ」


「いかに相手が嫌がるやり方で抑えるかを追求する……実にご主人様らしいですね」


「……褒めてるよな?」


「大絶賛ですよ♪」



 ポラールに揶揄われてる気がするが、今後とも方針を変える気は無いので良しとしておこう。

 

 『女神』『原初』『大魔王の頂きゴエティア』『魔王八獄傑パンデモニウム』『他魔王』、どこの誰が何をしてくるのか分からない状況になってきているので、とにかく他者と俺の力の差を埋めるには、勉強しておくしか無いと思っている。


 戦力ではなく戦略の差で負けました……なんてなったら最悪だからだ。



「さぁ……残り少しの詰めをして、大舞台に繰り出そうか」


「ご主人様の晴れ舞台になるように精進致します」



 隠れんぼには惨敗したが、帝国皇帝の度肝を抜いてやるために、最後の準備をするとしよう。

 

 魔王として生きてきて、今のところは結果的に圧勝できるような戦いばかりではあったが、油断なんてしてられないなと自分に刻み込まなきゃいけない。


 すんなり行ったなってときに邪魔しにくる奴に良い思いを絶対にさせないためにもな!



 

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