第8話 世界は『理不尽』だ
――聖国 とある山奥
デザイアとウロボロスによって転移させられた聖国騎士団の一部。
聖国にあるとある山奥に跳ばされてしまった騎士団員たちは
転移する直前よりも暗くなり、広がるのは不自然なほどに満点の星空。
「天使と悪魔の激戦だね♪ 頑張るぞー!」
不意に響き渡る声に騎士団員たちは身構える。
どこから聞こえてくるのか、まったく分からないのだ。
どこか艶やかであり、自分たちの魂を鷲掴みしているかのように冷たい声。
団員たちの様子を見て3人の
「『
真なる姿、
しかし、
――ドサッドサッ!
団員たちが倒れ伏していく。
こんな状況でも
そんな3体の真上に姿を現す影が1つ。
「聖都を守る……主を守るか~、そんだけしか頭にない生涯つまんないよ?」
「『大罪』の魔物だ! やはり仕掛けてきたぞ!」
「我らが部下に何をしたのだ!? 下賤な悪魔め!」
「かなりの魔力だ! 注意しろ!」
配下の天使たちを強化することで真価を発揮する
そんな3体を見ながら、夢の世界へと旅立った団員たちの心の内を少し覗いているのは『
すでに『
「天使と堕天使ってのは面白いね~♪」
「卑怯者が! 正々堂々戦え!」
ガラクシアの影響でスキルを使用としても上手くいかない状況が続いている。
『
3体の
「本当に命令されたこと以外は何も無いんだね~、それはそれで幸せなのかもしれないけどね」
「何を言っている? 我らの存在意義は主の命を守ることだ」
『
ガラクシアからすれば『七元徳』のやり方は不思議に思うことだらけだ。
こんなにもたくさんの魔物を捨て駒のように扱う。確実に敵わないと想定されているのにも関わらず……死ぬことをなんとも思われていない行為にガラクシアはあまり良いようには感じられなかった。
ソウイチの話では、普通の魔王はコアでDEを消費すれば魔物を好きなように呼び出せるそうだが、記憶を引き継げないと聞いてガラクシアからすれば、そのコアを使って呼び出した魔物は完全に元の魔物とは別の存在であると感じていた。
「ん~、マスターとは違うね。マスターは笑っちゃうくらい私たちの命に敏感だからねぇ♪」
この天使たちの処理はガラクシアに完全に一任されている。
どうしたものかと少し悩むガラクシアだったが、洗脳したところで、この状態で使役してもそこまで良いことが無さそうだと判断し、闇魔導を使用するための魔力を自身に集中させる。
「光すらも飲み滅ぼす深き闇 “闇魔導”『
――ズズズズズズズッ!
何故自分たちが攻撃されているのかを考える間もなく、永遠の深淵へと引きずり込まれて行ってしまった。
「すっごく強い魔物は勇者ちゃんたちと一緒にはいないってマスターが言ってたけど、本当だったなー、さっすがだー♪」
ガラクシアはソウイチから、そこまで恐れるような奴らじゃないと思うけど、準備だけは念入りにして好き放題やっていいぞと命じられている。
『七元徳』と距離感を保ちつつ、戦力が整うまでは敵意の欠片すら見せないように、仲良くしようと頑張っていたソウイチを思い出して少しだけ面白くなってきたガラクシアだが、今のところは自分たちの主が想定していた通の流れになっていることに少し驚きも感じる。
戦闘力が低い癖に好奇心と自身の考えのままに、無謀にも前線に出ていく癖。
ソウイチはその癖を狙われるだろうと思って作戦を立ててきた。ガラクシアから見てもビックリなほどの引っ掛かりようだし、自分の主の癖が他魔王に筒抜けなのにもビックリと笑ってしまいそうなほどである。
「女神の味方する魔王……原初に味方する勇者もいると思うって言ってたけど、よく分かんないなー??」
フワフワと宙に浮かびながら、ソウイチがよく口にしている独り言を自分なりに考えてみるガラクシア。
『七元徳』が何かしら理由があって女神側についていることが今回確定した。そして『異教悪魔』との魔王戦争で得られた情報で、もう一人大物がソウイチの敵らしく、今回もどこかしらで姿を見せてくると予測していたが、ガラクシアはその敵がどんな存在なのか教えてもらっていない。
ソウイチは魔王はこんなにもたくさん存在していなくて良いと考えている。そして今戦っているのは魔王の中でもトップ5に入るであろう存在の『七元徳』。
ガラクシアは、このまま頑張っていればソウイチの理想とする世界がそんなに遠くない未来に創れるんじゃないかと考えてしまう。
「そのためには頑張んないとね♪」
今回
シャンカラだけ勇者のおまけ付きだが、気合満々のシャンカラの発散としてはちょうどいいんじゃないかというソウイチの判断はガラクシア的にも正解だと思っているようで、どんな戦いになるのか気になるが、ウロボロスに頼んでダンジョンに戻らないと心配をかけてしまうと思い、結界を解除してウロボロスの迎えを待つことに。
「ご褒美何もらおっかな~♪」
◇
何度目か分からない……避けきれない絶望が目の前に立ちはだかっている。
この世界に来る直前の避けられぬ死。『天風の魔王』討伐道中に出会った1体の鬼。
そして今目の前に立つ、とんでもない魔力と闘気を放っている存在。
茶褐色の皮膚や髪、髭からも溢れ出る身の毛もよだつ闘気、四本の腕を組み、僕を見下しながらも湧き出ている雷魔力。
4本腕の人間型の魔物なんだろうけど……存在感は前出会った鬼以上だ。
騎士団だと思っていた人たちが天使へと姿を変え、襲い掛かっていったが、手を払う動作で巻き起こった雷嵐で、みんな消し飛んでしまった。
「さぁ……この『
とんでもなく強い鬼に見逃され、あれから勇者として情けなくなって修行に励んでいたつもりで、前より遥かに強くなった自覚があるけれど……。
戦うまでも無く感じさせられる絶望的な力の差。
一周回って少し笑っちゃうくらいだ。こんな理不尽が存在していいのかって…。
そんな僕の心情が読めているんだろうか? 『
「……負けたわけじゃない」
「………」
『神速』『刃ノ鬼』『神ノ瞳』という自慢の力をフル稼働させても勝利の尾錠が浮かんではこないが、何もせずに死ぬわけにもいかない。
勇者だから特別で……どんな魔物にも勝てる力があるっていう驕りは前に捨てたつもりだったけど、ここまで力の差がある魔物に出会ってしまう……心のどこかで勝てる力があってほしいと願ってしまう……。
「行くぞッ!」
「勇者の覚悟……見せてみるが良い」
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