第6話 やっぱり『魔王』なんだな
女神の神託を受けた勇者から『焔天の魔王』を討伐すると発表された数時間後には出発した聖国騎士団たち。
冒険者を最前線に並べ、騎士団は勇者が乗る馬車を囲むように隊列を作って進んでいく。
道中にある数少ない村や街の困りごと、名があがっている魔物を討伐するために、すでに半数近くは離脱しているが、すでに一行は『焔天の魔王』がいるとされているダンジョン『焔輪城ホムラ』が聳え立っている迷宮都市近くまで来ていた。
街からダンジョンまでそれなりに距離があるが、勇者が使用できる結界を使用すれば確実に魔王をダンジョン内に閉じ込めることができるので、街につけばこちらのものだと一行は考えていた。
「残り1時間……予定通りですね」
「今回は聖国騎士団『
聖国騎士団。
いくつかの階級に分けられており、その中でも上位3階級と呼ばれているのが『
その中でも今回は聖国に200名ほどいる『
「街の偵察が帰還次第……いよいよですね」
「あぁ……夜ではあるが、ダンジョンは明るいので問題ないだろう。女神様よりこの時間帯が良いとの神託であったらしいからな」
「こんだけの数がいれば問題無いでしょう」
騎士たちの士気は安定していた。
『天風の魔王』を討伐してきたときと違って、今回は勇者含めた大人数で確実にダンジョンに挑めて魔王討伐を果たすことができるというモチベーション、そして険しい顔して何かを考えてはいるようだが、『
「しかもここ最近は良い夢ばっか見るんですよ! なんかやる気出ちゃいますよね! 夢の内容覚えてませんけど……」
「俺も魔王討伐が始まってから寝起きが何故か良いな……自然と心が軽くなっているのかもしれんな」
街での戦闘も考慮して戦闘準備を各自で整えながら偵察を待つ勇者御一行。
的確な指示を個人SSランク以上とも言われている聖国騎士団の『
「なんだあれ? さっきまで咲いてなかったけどなぁ…」
騎士団員の1人が勇者たちが乗っている馬車を見る。馬車の屋根には一輪の桃色の花が咲いていた。
――ブワッ!!
桃色の花から想像もできないような魔力と邪気が広がり、巨大な魔法陣がいくつも展開される。
勇者御一行は誰も反応できず、魔力と邪気の渦に飲み込まれてしまった。
◇
暁蓮に蒔いておいたデザイアの力が詰まった『種』。
『
デザイアの種は時間が経過していくことに目に見えぬ芽を出して様々な効果を発揮する。仕込まれた者は自然とデザイアに居場所を感知され、夢や記憶の奥底をデザイアに覗き込まれ、花が咲くころにはその場から広範囲に渡ってデザイアに位置をマーキングするかのような邪気を撒き散らす。
マーキングさえ出来てしまえばウロボロスとデザイアに合わせ技で勇者だろうが騎士団様だろうが、大抵の防御能力を無視して逆転移させられることができる。
「初めまして……ずっとアンタに聞きたいことがあったんだ。坂神雫」
「女神様も想定しておりましたが……本当に仕掛けてくる魔王がいるとは思いませんでした」
イデアが創り出した結界空間の1つ。
俺にイデア、メルの前に呼び出されたのは『救世の賢者・坂神雫』だ。
やっぱり予想されていたようだ。もちろんそうだろうと思って前線に出張って来たんだが、聖国騎士団のお偉い階級さんが来ているのを見て、裏で動いている2人の魔王がどっちも確定した。
1人は『異教悪魔』の記憶を頂いて判明して、今回動いてきたほうは、少し確証がなかったけど、やっとスッキリした。
「ますたー、勇者に1人魔物が隠れているよ」
「そうみたいだな……ずっと変だと思ってたんだよ。勇者の街である聖都の隣にダンジョンがあるのが……まさか女神側の魔王だったなんてな……『七元徳』さんよ」
俺が呟くと坂神雫の影から眩い光とともに赤髪の天使が現れる。
勇者の1番近くにいながら、3000年も最古の魔王として存在しているってとこから、どう考えてもおかしいと思ってたんだ。
どう考えたって、世界中の誰が見ても勇者誕生の本拠地の近くにヤバい魔王がいたら、最優先で討伐するのが普通なんだよ。
それがまるで存在しないかのように無視されており、聖国で好き放題できている時点で疑うのは普通のはずだが、聖国的には普通じゃないってのを知った時には疑っていた。
何度か『罪の牢獄』に来てもらって直接話をした時にそうかもなって思っていたし、『七元徳』ってのが『大罪』の天敵って言われた時に、敵じゃん絶対にって感覚で思ってしまっていた。どうやら正解だったみたいだけど……。
「我が主がおっしゃっていましたが……本当に現れるとは驚きです『大罪の魔王』よ」
赤髪で剣を持った天使さんが話しかけてくるが、天使さんには特に用は無いから無視して、坂神雫に声をかける。
坂神雫も天使さんも真面目そうだし、話くらい少しは聞いていてくれるだろう。
「勇者様よ……異世界からわざわざ呼ばれて、一体何の報酬目当てに世直し活動をしているんだ? 女神様にどんな約束でもしたんだ?」
「……随分物知りな魔王ですね。皮肉っぽい話し方が人間臭いですよ?」
「よく言われるんだ……人間っぽいってさ……俺も生まれて1年、前世が何だったかなんて知ったことじゃないけどな」
「なるほど……よくしゃべり、わざわざ配下ではなく、自分が前線に出てくるだけのことはありますね」
「さすが勇者様だ、頭が良いんだな。じゃぁ……覚悟してくれよ? 俺はゲームを終わらせる『覚悟』をしてきたぜ?」
「ッ!? ……貴方の配下が消し炭になっていることをですか?」
「バカ言えよ……アンタとそこの天使さんじゃ、天地がひっくり返っても、ウチの2人には敵わないよ」
「私が死んでも……女神の加護は引き継がれますよ? いつか全ての魔王を滅ぼすまで」
「……その言葉が聞けただけで収穫だ」
――ブワッッ!!
「おしゃべりは終わりです……さぁ勇者よ……協力して悪を滅ぼすのです」
「協力って…アンタも魔物じゃない」
「指摘するのはやめてやれイデア……よし! 後は任せたぞ! デザイア頼んだ!」
「任せて」
残りはイデアとメルに任せて、お邪魔無視はクールに退散するとしよう。流れ弾でも死にかねないからな!
デザイアに結界空間からだしてもらい、ダンジョンへと繋げてもらう。
『七元徳の魔王アクィナス』。
今回の件は俺が明確に自分に敵対する存在なのか確認すること、そして若い芽であるアイシャを摘んでおくこと、それに歴代最強勇者とやらが聖都にいるから、今いる勇者が用済み……など色々考えられる仕掛けだ。
各地に転移させた聖国騎士団たち……ほぼ全部『七元徳』の手が加わっていて、人間(天使魔物)ってことなんだろう。
帝国騎士の『
億単位で人間が確かいたはずなのに、帝国騎士団の地位持ちでトップ5%なわけないってさ。
『七元徳』がどれだけ『種族人間』とさせている配下がいるか分からない。
「めっちゃ啖呵切ったけど、さっきの天使もEXっぽいような気もしたんだよなぁ~」
最早クラウスさんのしょーもない嘘が笑えてくるレベルの展開になってきた。
女神と繋がる魔王、そしてもう1つは原初の魔王と繋がる勇者ってとこか……色々見えてきたが、まずはこの局面を乗り越えないとな。
俺はダンジョンに侵入してきたという公国からの使いとやらを、どう相手にするか考えながら、コアを弄り始めた。
坂神雫の引き継がれるという言葉を忘れないようにメモをしながら…。
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