第13話 生命とは『創るモノ』
『突然! あまりにも突然のぶつかり合い! 火と水による、まるで挨拶のような一撃の打ち合いだ!』
戦場中央で大爆発を起こした両者の魔物による先制パンチ。
まるで合図の如く、これを機にして両ダンジョンの上空にいた魔物たちが勢い良く動き出す。
戦場東側上空では大量の『水精霊』に属する魔物と、様々な鎧に翼が生えた騎士たちが進軍を開始していた。
様々な形へと変化できる『水精霊』は多種多様な空を飛べる魔物へと姿を変えて、騎士たちに守られるように進んでいる。
そこに地面から生えるように創り出される魔物が4体。
――ギャォォォォォォォッ!!
出現したのは、まるで四大元素を表しているかのように色分けされ、尻尾の先に各属性色の火が宿っているドラコーン並みの大きさのある4体のドラゴンだった。
4体のドラゴンの出現に上空の『水』軍の魔物たちは進軍を止めてしまう。
『おぉー! なんと竜種が突然4体も出現しました! どうなっているんでしょうか!?」
『しかも各四大元素の力を宿しているようだ。見栄えは良いね』
4体のドラゴンは『水』と『翼騎士』の魔物にむかって、口を大きく開けて防がせる暇も与えずに各属性のブレスを放っていく。
――ブゴォォッ!!
4種のドラゴンが出現してからブレスを放つまで、僅か30秒足らずの出来事、上空最前線で指揮官が不在だった魔物たちが判断できるわけもなく、ブレスによって消し炭にされていく。
そんな様子をさらに上空で眺めている魔物が1体。
「数は多いけど、耐久性がある魔物は少ない感じかな……実験にもなりそうにないね」
上空で長髪を靡かせていたのは『大罪』が誇る『
龍の翼を展開し、相手の魔物を上空から徹底的に解析していくイデア、真名持ちやSランク以上の魔物も解析したが、自分が生み出した『偽竜』4体に敵うような存在がいないことを確認したところでため息をつく。
四大元素を自在に操り、変化させ、そしてそこから偽りの生命を創り出すことが出来るという戦闘と言うよりも強力な戦力を揃えることができる力を持つ魔物。
四大元素を自由自在に操れるイデアからすれば四大元素の内、火以外は揃っている「天空の大地」はイデアにとってまるで遊び場のようなところに見えていた。
――ヒュンッ ヒュンッ!
地上を進む『水の魔王』の魔物からイデアに向かって遠距離攻撃が放たれる。
水魔法や水魔導、水に関するスキルというのを認識したイデアは嘲笑うように放たれる攻撃を操って一ヵ所にまとめていく。
集められて巨大な水の球体にまでなったものを見てイデアは何をしてやろうかと考える。
――ゴウッッ!
イデアが球体に向かって手を向けると、水の球体だったものが突如炎上する。一瞬にして火の球体へと変化させたのだ。
そしてまだまだ大量に存在している上空の敵軍へと狙いを定める。
「せっかくだから火に変えていけば、後が楽かな」
水のまま放つより、火にしておけば『焔』の魔物が恩恵を受けやすいことを考えて『四元素変化・循環』の力で水を火へと変化させたのだ。
そして巨大な火球から敵軍にむけて勢いよく火槍の嵐が降り注ぐ。
――ドドドドドドドドドッ!!
火球から勢いよく放たれる火槍の嵐に次々と撃ち落されていく『水』と『翼騎士』の魔物たち。
イデアの魔力が加わったことで一気に威力を上げた火の力は『水精霊』では消すことが出来ず、火だるまとなって地上に落ちていき、草木が次々と燃え上がっていく。
しかしその嵐の中を掻い潜ってくる巨大な鎧が1体。
銀に金、そして青色が少し目立つアヴァロン以上の巨大鎧魔物。手に持つ大盾には人面が蠢いており、火槍を吸い込むようにして防ぎながらイデアへと向かっている。
イデアは4体のドラゴンにはあえて、ブレスでの一掃を止めてまで相手にさせず、自分で始末することを命じる。
「真名首を頂戴する!」
大剣を振り上げながら迫ってくる鎧に対して、イデアは少し鬱陶しそうな顔を向ける。
大盾から発せられる大声に不快感を覚えたのであろう。しかし相手も同じ真名持ちの魔物ということで、イデアもしっかり始末しようと右手を向ける。
イデアの足下に灰色の魔法陣が描かれる。
イデアの右手の先に現れたのは、クルクルと流れるように動いている水鏡。
そんなものお構いなしにと巨大騎士は大剣を振り下ろす。
「もらったぁぁぁ!」
「その心魂に救済を。”根源魔導”『ゾピアーの水鏡』」
――パキンッ!
勢いよく弾け飛んだ水鏡に映し出されるのは、弾け飛んだ水鏡と同じようにバラバラになった巨大騎士の姿。
水鏡を破壊した一撃はイデアに届くことは無く。巨大騎士は自らが破壊した水鏡と同じように光の粒となって散っていく。
相手の魂を映し出し、さらには身代わりにするという『ゾピアーの水鏡』。
自らの一撃で、己の魂を破壊してしまった巨大騎士は、音を上げることも無く消滅してしまった。
わざわざスキルを使ったのは、ソウイチに実戦で色々試すことが何かに繋がることがあるかもと言われたからである。
――ドゴォォォンッ!
イデアが創り出した4体のドラゴンたちによるブレス攻撃は止むことをしらず、薙ぎ払うように放たれているブレスに対して抵抗する術もなく散っていく魔物たち。
そんな中でも先ほど散っていった巨大騎士と同じように、ブレスの中を上手く掻い潜りながら、ドラゴンの主をイデアと認識した魔物が向かっていく。
自身を討てばドラゴンも消滅すると考えて突っ込んできている高ランクの魔物たちを見て、イデアの感情は特に揺らぐことも無かった。
最強ランク、そして最強クラスのLvを持つイデアからすれば、Sランクだろうが、SSランクであろうが、そこまで変わらない。その程度のレベルならば何体集まろうが自分を脅かすには値しないという絶対的な自信があるのだ。
それに自分に向かってくるだけで、大幅にステータスが下がっている魔物なんて、ステータスだけ見れば、ランクがかなり下がったようなものなのだ。
「それでも、自分たちの王がかかっているんだから負ける訳にはいかないね」
自身のステータスが大幅に下がりながらも向かってくる魔物たちを見て、イデアは素直に称賛の言葉を口にする。
イデアの足下に出現していた灰色の魔法陣が大きくなる。
「『
イデアが司る『
どれだけ潔白な存在であろうと、『
イデアに向かっていた魔物たちが突然、何かを思い出したかのように立ち止まっては、後ろへと振り返っていく。
「与えし偽罪は『反逆』。その罪を背負って行きなさい……疲れるけどマスターが使っておけって言うんだから仕方なくよ」
その言葉を皮切りにイデアへと向かっていた『水』・『翼騎士』の高ランク魔物たちが狂ったように仲間だった魔物たちへと突っ込んでいく。
自分たちの上司とも呼べるような高ランクの魔物たちが襲い掛かってきて、どうすればいいか分からないのか、戦場は大混乱に陥ってしまった。
Sランクの魔物では防ぎようの無かった『反逆』という罪での塗りつぶし、『反逆』をしなければいけないという思考に魂ごと塗り替えられてしまった魔物たちは、忠誠を誓った主へ向けて、仲間だったはずの魔物たちをなぎ倒して進んでいくのだった。
「良い実験にはならなかったけど、ストレス発散にはなったかも?」
地上に主戦力を投入しているのか、ポラールの方へと戦力を固めているのかは分からないが、思ったよりも手応えの無さにイデアは少し寂しさを感じていた。
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