第12話 開幕! 『焔vs水』


――『焔』vs『水』 魔王戦争戦場 天空の大地


 

 『焔』と『水』の魔王戦争開幕まで残り5分程度。

 『音霊の魔王シャープ』による実況も盛り上がっているようで、やはり四大元素同士の戦争ってのは注目されるもののようだ。


 俺は今、アイシャのダンジョンでもある『焔輪城ホムラ』のコアルームにあるモニターで戦場を確認している。

 空に浮かんでいる巨大な大地。自然豊かで凹凸が少しだけ激しいが見晴らしは良く、互いに魔物の位置を把握することが出来る戦いが予測できそうだ。

 そこそこの風が吹いているが、余程小さい魔物でもなければ影響を受けることは無さそうだが、この風を利用できる魔物がいたら面白い展開になりそうだな。


 ウチの可愛い魔物たちをアピールする場も十分ありそうだな。



「やっぱり同盟相手がまだ潜んでいたのか」



 さすがは長生きしている魔王なだけあって、まだまだ同盟相手が参戦出来たようで、先ほど『翼騎士の魔王』が参戦することが発表された。

 空に強いアイシャに対して、制空権を握らせないための助っ人に感じる。俺たち的にも誰かしらは助っ人に来るだろうと予想はしていたし、しっかり準備もしてあるので特に困ることは無い。

 

 『翼騎士』とは俺がぶつかり合って、アイシャの邪魔をさせないように徹底的に叩かせてもらう。名前的にも騎士甲冑に翼があって空を飛んでいるような魔物が中心だろうから、なんとなく相手の戦い方は想像出来る。



「ご主人様。もう間もなく開戦です」


「さぁ……俺たちも出る用意だな」



 アイシャは自軍の魔物に声をかけたり、作戦の最終確認を伝えたりと大忙しだ。

 配置についている魔物を見ている感じ、前よりも単純に平均ランクが上がったような感じで、完全に前線に出る魔物とダンジョンを守護する魔物で別れた魔物を召喚しているように感じる。


 相変わらずドラコーンの威風堂々という雰囲気は『焔』の魔物に安心感を与えているようなので、いきなり躓くなんてことはないだろう。


 アイシャのことは心配せず、『海賊』でのアピール以上に、俺という存在を知らしめる場にさせてもらおう。

 高みの見物をしている大魔王さんたちも少し警戒しなくちゃいけないような存在になるように…。



「ますたー。また考え事」


「…いかんいかん、行くとしようか」



 今回一緒に来てくれている『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の面々は『ポラール』『メルクリウス』『シンラ』『イデア』に来てもらっている。

 4人とも環境変化は苦にならないどころか、水に対してはかなりのアドバンテージを得ることが出来るのが強みだ。と言ってもポラールとシンラは全部凍らせるだけなんだけどな。


 メル以外は通常の状態で飛べるし、メルも『幾万の姿を写す神粘土アルテマ・スライム』の力を使ってドラコーンに変身するようなので、空中戦も心配することは無いだろう。とりあえず基本は俺と一緒にシンラの上で戦ってもらうことにする。



「よし! 行こうか」



 コアルームが城の上の方だから、窓を開けてそのままシンラに飛んでもらい、俺とメルはシンラに乗せてもらう。

 ポラールとイデアも周囲の状況を確認しながら空へと飛びたつ。そういえばイデアも一応『龍』なんだけど羽を出すまで忘れがちだ。



「かなりの数、気配を感じるね」


「そうですね。アヴァロンほどではありませんが、重厚感のある気配が上空に多数感じます」



 やっぱり長年生きていると相手と、こっちの差は魔物の数になってくるだろうな。質も違うだろうが、やはりダンジョンを続けているほどDEが多いのは当たり前だから、生み出せる魔物の数が絶対的に変わってくる差を改めて感じさせられる。


 ただ戦場に出しすぎても邪魔なだけだから、戦場に出ている数は常に一定と考えれば、慌てるようなことじゃないな。



「こっちは見てるだけで暑苦しい」



 メルが配置についているアイシャの魔物たちを上空から眺めながら呟く。どこかしらは燃えている魔物が多いから、見ているだけで暖かくなるってのも頷ける話だ。


 俺たちも開幕前に配置できるギリギリのところまで向かっていく。


 魔王戦争当日になってアイシャとはあまり話をしていない。かなり集中しているようだったし、俺が話しかけて変な流れにしたくなかったから、黙ってやるべき仕事をこなすことにした。



――ヒュ~~~~ンッ バァンッ!



 上空に魔王戦争開始の合図である花火が打ちあがる。

 耳が痛くなるので聞かないようにしている実況を大音量の掛け声もあったので、各軍の魔物たちが一斉に動き始める。

 かなり広い戦場なので、地上を攻める互いの魔物は、ぶつかり合うのに時間がかかるだろう。まずは俺たちが仕事をしないとな。



「ポラールとイデア、大丈夫だとは思うが頼んだぞ」


「お任せください」


「2人とも、マスターをよろしく頼んだよ」



 俺たちは3組に別れて空を制圧するために動き出す。

 四大元素でSランク同士でもある『焔』と『水』の戦い。アイシャの邪魔だけは絶対にさせるわけにはいかない。










 『さぁ! 『焔』と『水』という四大元素同士の注目戦争! ただいま開幕です! ゲストの『星魔元素の魔王クラーク』様! 改めて注目点はどういったところになるでしょうか?』


『先に環境恩恵を得られるような戦場を作ったほうが有利だろうね』



 上空に打ちあがる花火とともに『焔』と『水』の魔王戦争が開幕した。

 魔王界隈でも、かなり注目されている一戦は、多くの魔王がモニターで観戦しているだろう、しかもゲストは最古の魔王でもあり、『大魔王の頂きゴエティア』である『星魔元素の魔王クラーク』という最強の一角が解説ゲストに来ているのだ。注目度はさらに跳ね上がっていた。


 四大元素に関連する珍しい魔名を持ち、さらにSランク同士である『焔』と『水』の魔王、しかも挑む『焔』はルーキーという大胆っぷり、魔王戦争が始まる前から両者の動きが注目されるほどの一戦でもあった。


 戦争開始前に大いに魔王界を賑わせた一戦でもあり、なんと『水』の同盟であった4体の魔王が戦争数日前に何者かにやられてしまうという大事件もあったりと、常に話題を枯らすことなく本日を迎え、しかも当日参戦で『水』側に『翼騎士』、『焔』側に『大罪』が参戦することが発表されたことで、さらに大盛り上がりになる一戦になったのだ。


 メインである『焔』と『水』以上に注目されている可能性があるのが『大罪の魔王ソウイチ』だ。

 『焔』の戦争は今回を合わせて2回だが、どちらも参戦しており、今の魔王界を1番盛り上げているだろう魔王だ。

 史上初のルーキーSSランク、さらには『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号までも得た超大型新人魔王。


 しかし『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を得た魔王ではあるが、実際に魔王戦争での活躍は『海賊』との戦争で魅せた3体の圧倒的な力を持った魔物たちだった。『大罪』本体も『魔王八獄傑パンデモニウム』に選ばれるほど強く、魔物も見たことがないような強さばかりで、早くも魔王界では最強魔王論争に入るほどである。

 多くの上級魔王たちが『焔』と『水』ではなく、『大罪』の動きを把握しようとモニターに注視させるほどのルーキー、それが『大罪の魔王ソウイチ』なのである。



『なんと空を勢いよく駆けているのは『大罪』の魔物だ! 新種もいるぞ! どんな活躍をするか楽しみなところです!』


『相変わらず……馬鹿げたルーキーだ』



 囁くような声でクラークが呟く。

 ポラールとメルクリウスは直に見たことがあるクラーク、そして『海賊』との戦争で活躍していたウロボロスとデザイアもEXだろうと、クラークが予測する中で、今画面に映し出されているイデアとシンラの存在、クラークはさすがにあり得ないと思いながらも、心のどこかで出てきている魔物全てEXランクと言う可能性を捨てきれずにいた。


 そして急に画面が切り替わり、戦場中央に向かって放たれる巨大な火球と水球が映し出される。

 


――ドゴォォォォォンッ!



 巨大な爆発とともに、激しい水蒸気が辺りを覆う。

 両者が放った挨拶代わりの一撃を皮切りに、まずは上空制圧戦が幕をあげた。

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