第4話 『魔王八獄傑』


 

 魔王の強さを測るには単純に2つの方法があるそうだ。


 呼び出した魔物や配合した魔物の質が高く、

 その魔物たちでダンジョンの強度を高めて、冒険者や勇者を返り討ちにして、コアを守り抜くタイプの魔王。


 そしてもう1つは、呼び出す魔物よりも、魔王本体が圧倒的な強さを誇り、呼び出した魔物にも戦わせるが、最終的には魔王本人が圧倒的な強さでダンジョン挑戦者を葬るタイプの魔王。


 『魔王八獄傑パンデモニウム』は後者のタイプの魔王で、『原初の魔王』が定めた最強の8体に送られる称号だ。



 ソウイチが転移した先にいたのは、大きな円卓に座る3体の魔王だった。








――『魔王八獄傑パンデモニウム』の円卓



 思っていたよりも煌びやかな場所だな。魔王ってより騎士さんのほうが似合うんじゃないのか?


 俺が転移してきた場所は、どこかの城にある一室のようなところだ。

 そこには巨大な円卓が存在していて、3人の魔王が座っていた。


 それぞれ放っている圧がなかなかのものだ。

 後ろに控えてくれているポラールも気を引き締めているのが感じられる。

 確実に単体戦闘力で秀でていない俺を『原初の魔王』に頼んでか知らんが、ここに呼び寄せた魔王がいる可能性が高いからな……。



「一番手前に座るといい」



 最初に声をかけてくれたのは、七割黒、三割白というアヴァロンをリスペクトしてくれているかのような髪型をした人型魔王。

 ルジストルのようなスーツとかいう服装をした男魔王だ。雰囲気だけで強いのが分かるほどのオーラを纏っている。


 俺は言われるがままに、1番手前の席に座らせてもらう。


 ちなみに配下を連れてきているのは俺だけのようだ。なんだこいつと思われていそうだな。



「俺は『不法虐殺の魔王アザゼル』だ」



 優しく案内してくれたのは、なんとも恐ろしい魔名をした魔王だった。

 まぁSSやEXランクにまでなると唯一無二って感じの魔名だからどんなのだろうと驚きはしないけどな。


 アザゼルさんの次は大柄な男人型魔王、右手だけ異様に目立つ手甲のようなものをしていて、頭には鬼の角のようなものが4本生えている。

 かなりイカツイ感じのする魔王が俺の方に顔をむける。



「儂は『終焉之拳の魔王デッドスター』と言う』



 最後にもう一人、女人型魔王。

 長髪が完全に燃えているのが、とっても目立つけど、本人は至って落ち着いて瞑想しているかのような雰囲気で座っている。

 よくみると両手も少し燃えているのが分かる。



「『神炎の魔王メビウス』」


「…『大罪の魔王ソウイチ』です」



 『大魔王の頂きゴエティア』の5人と違って、まったく穏やかじゃない空気が流れている。

 まるで誰も認め合っていないかのような不仲な空気感だ。

 せっかく新人が来たんだから和気藹々としてくれても良いだろうに…。


 そんな俺のとまどいを察したのかアザゼルさんが話を始めてくれた。



「ここに来たと言うことは『魔王八獄傑パンデモニウム』に選ばれたということだ。他の4名は来ていないが、これからは『大罪』を含めた8名で『魔王八獄傑パンデモニウム』だ」


「儂らは決して仲間なんぞではないが、己こそ最強だと自負し『原初』の爺様より認められた存在じゃ。己を証明するために戦い合うことはいつでもある」


「何が目的の集団なんです?」



 俺の質問に対して少しだけ静寂が訪れる。

 アザゼルさんが少し考えた後に、少しだけ身体を前に出しながら俺に対して視線をぶつけてくる。


 なかなかの威圧感だ。



「『大罪』が魔王として成し遂げたい理想があるように、我らにも個人の理想がある。『魔王八獄傑パンデモニウム』にいるということは自分が強いと言う証明になり、称号を持つ者を自由にしてくれる。この座を狙う魔王は多い」


「お主のように若くして選定されるのは誰振りじゃろうな」


「各々が最強を目指しているから、強いて言えば『皇龍』を最強の座から引きずり降ろすことかな。君は『大魔王の頂きゴエティア』とも仲が良いみたいだ。とても興味深い」



 なんでか知らないけれど、俺がクラウスさんたちと繋がりがあることが知られている。

 でも今の説明で、とりあえず『魔王八獄傑パンデモニウム』は称号であり、魔王界において自身の価値を証明するものなんだろうな。

 『大魔王の頂きゴエティア』の5人はEXランクの魔物を何体も配下にしているって感じの共通点があったけど『魔王八獄傑パンデモニウム』には、そんな感じの共通点はあるんだろうか? 俺が選ばれた時点でおかしなことになってそうだけど…。



「『大罪』を馬鹿にするつもりは無いけれど、称号を得るほど強いようにも見えない。君個人はまだSSランクなのだろう?」


「自分でもここに呼ばれたのは驚いています。どちらかと言えば『大魔王の頂きゴエティア』タイプの魔王だと思っていたので」


「戦い合いすぎて、『魔王八獄傑パンデモニウム』に相応しい魔王が減ってしまったということもあるのかな」


「『海賊』で見せてもらった通りじゃな」



 俺と『海賊』の魔王戦争はバッチリ観戦済みのようだ。

 個人EXランクの実力がある魔王ってのは、とんでもないもんなんだろうなって勝手に思っているけど、それに最強と呼ばせるクラウスさんも大概な化け物だな。


 それにしても誰が黒幕か全然わからんぞ……ここに来ていないメンバーの可能性もありそうな感じになってきたな。


 

「『大罪』が『魔王八獄傑パンデモニウム』になったことは、後日全魔王が知ることになるだろう。喧嘩を挑まれる準備をしておいたほうがいい、と言いたいが『海賊』との戦争を観た後で挑もうと思う魔王がどれだけ存在するか」


「逆に『魔王八獄傑パンデモニウム』である儂らくらいじゃろうな」



 つまりポラール・デザイア・ウロボロスによる蹂躙劇を見せても、全然なんとも思わない集団が『魔王八獄傑パンデモニウム』ってことか、ヤバすぎるな。

 どこまで魔王本体が強いのか分からないけど、ここに呼ばれたってことは俺にも、その強さを一応誇っても誤魔化し効くくらいの強さはあるってことかな? 黒幕の魔王さん……教えてください。



「他の連中とも会う日は遠くないだろう。この集まりは3カ月に1度くらいのペースで行われている。あまり席を外しすぎると『原初』から説教だから気をつけるといい」



 とりあえずアザゼルさんが全部説明してくれるのは非常に助かる。

 メビウスさんがまったく話をしないのは気になるけれど、性格なんて人それぞれだから別に無理に話をしてもらおうなんてしたら、とんでもないことになりそうだからスルーしておこう。



「ちなみにここは……別に戦闘禁止じゃない」



――ブワァッ!!



 正面のアザゼルさんから、凄まじい殺気が飛んできたと思ったら、後ろのポラールからも殺気やら闘気が飛んできて、相殺されて軽い衝撃波が円卓の中央で巻き起こる。

 もう少し互いに出力が大きかったら挟まれて潰れるかと思ったぞ。


 アザゼルさんとデッドスターさんは微笑んでいる。



「『海賊』との戦争で見た通りだ。恐ろしい強さの魔物だ」


「クラウス爺さんのとこの『コウリュウ』と戦ってみせてほしいもんじゃ」


「……ご主人様を不快にさせるなら、誰であろうと許すわけには行きません」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



 ポラールが羽と頭リングを出現させて、闘気を溢れさせる。

 しかし、背後からペチッと、なかなかの音を出して誰かに叩かれる。


 俺が振り返って見ると、空間の裂け目から見たことのある触手がポラールの頭を叩いている。



「デザイア、汚れるのでやめてください」


「主のことだと我を忘れるのが悪い癖じゃぞ」


「……ここには1体の配下しか来れないはずなんだがな」



 ポラールの背後から現れたデザイアとニャルに、さすがに驚いている3人の魔王。

 俺も驚いているんだけど、頑張って当たり前だって感じの表情を作っておく。


 デザイアの玉座についている触手に叩かれて、何か思うことがあったのか、展開していたものを引っ込めるポラール。

 それにしても心配して付いてきてくれたデザイアが可愛すぎるので、今すぐにでも愛でに行きたい。



「妾はこの程度で遮られるほど低俗じゃないのでのう」


「『海賊』との戦争でおった魔物じゃな」


「ダメですね…ご主人様に何かされると、すぐに怒ってしまいます。貴方も来ていますねウロボロス?」


「なるほど……ウロボロスが来れるということは色々わかることがあるな」



 デザイアが見えている裂け目の隣に、もう一つ大きめの裂け目が出来る。

 そこから見えるのはウロボロスの目だ。


 心配性な奴らだけど、そんなところが嬉しいし頼もしくて誇れるところだ。



「うちの配下が失礼しました。今日のところはこれで失礼します」


「また3カ月後に会えるのを楽しみにしておこう」


「どうせなら強い魔物を全部連れてくると面白くなりそうじゃな」



 最後までメビウスさんは自分の名以外は語らなかっいたけど、さすがに3人を見ても、まったく臆していない魔王たちをみて、なかなかヤバい集団なんだな『魔王八獄傑パンデモニウム』って思ったのと同時に、いつか本当に『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号に相応しい力が欲しいとも感じた。


 俺にこんな目立つような称号を与えてきた謎の黒幕は許さないけどな。何が目的か知らんが全力で探し出す。

 



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