第3話 世界を守る『刃』


――聖都クリスニル 中央聖堂



 とある神を信仰し、信じる者が救われる精神が浸透している国、聖国。

 勇者やプレイヤーの始まりの地としても一部では有名である。


 聖都クリスニルにある中央聖堂には、とある人物たちが集まっていた。


 現在3人減り5人になった勇者、そのうちの4人。


 少し癖のある黒髪、シュッとしたスタイルに金と青のオッドアイをもつ青年『神速刃・暁蓮』。

 可愛らしく編み込んである黄金の髪を持ち、聖国でシスターが着る服を身に纏っている女性『救世の賢者・坂神雫』。

 橙色の長髪を靡かせ、王国の紋章が刻まれた軽鎧を身に纏う女性は『聖天對星・エルフリッド・テスタロッサ』。

 黄緑色の髪をオールバッグにした少し筋肉質な男、隣に置いてある大弓が目立つ人物『グリーンコメット・大神源輔』

 

 この4人は約20日後に発表してから行われる魔王討伐パーティの4人だ。


 実はすでに討伐する魔王は女神の神託を雫が受けているので決められており、どのようなルートで行くか? どのような物資がダンジョン内で必要か? 勇者は転移魔法ではなく、ダンジョンまでの道のりに存在している魔物を狩りながら進むのが伝統なので、道中の狩りを任せられる冒険者はどうするかといった話し合いがなされていた。



「ダンジョンに生息する魔物は……風系統の能力が多いようだ」



 ダンジョン調査員たちが調べてきた魔物に関する資料を見ながら真面目に攻略の糸口を考えている青年、彼はそこらへんの騎士では残像すら追えないほどの速さで魔物を仕留めるのを得意としている近距離型の勇者である、暁蓮。



「道中に魔物からの被害に苦しむ村も多いようですね」



 道中に出現情報がある魔物と、その被害をまとめた資料を読みながら、少し悩ましい表情をしているのは、回復魔導や付与魔法のスペシャリストであり、見る者を魅了してしまうような笑顔の持ち主、坂神雫。



「全部対応していると魔王を討伐するまでに3カ月はかかるわね」



 雫の話を聞きながら、経験をもとに旅の期間を計算して発言するのは、王国が誇る攻防にとても秀でている騎士。タンクとしてもアタッカーとしても、その状況に応じてハイレベルにこなせる人物である、エルフリッド・テスタロッサ。



「またそんなを旅するのかよ…」



 最低3カ月はかかるのは勘弁したいと思いながら、身体を伸ばしながら少し嫌そうに応えているのは、いかなる魔物だろうが撃ち貫くと言われている大弓使いである男、大神源輔。


 テスタロッサは勇者として3年目、雫は1年半で男2人は1年程度の経験でしかないメンバーだが、特に蓮と雫は歴代を見ても、かなり強力なユニークスキル持ちらしく、圧倒的な力を以って魔王や魔物を駆逐してきた実績がある。テスタロッサと源輔も、今まで存在していた勇者に引けをとらない実力者である。



「『天風の魔王』というらしい……どんな種族タイプか難しいな。常時飛んでいるとやりにくい。風系統であることは確実…的が大きいと助かるな」


「その場合は大神さんに頑張ってもらいましょう」


「そのための弓使いがいるのだから励むのだな」


「……しっかり壁になれよ」



 勇者としての使命のため、困っている人々のために活動することが義務付けられ、自分の命が幾度危機に陥ろうと諦めることが許されぬ立場でありながら4人の雰囲気は至って和やかだった。

 自分の強さからくる自信なのか、それとも勇者が4人集まることの互いへの信頼がなせるものなのかは分からないが、4人を見守る聖国の関係者たちは安堵している。


 最近は冒険者が魔王退治の最先端ではないかという迷い言を耳にするが、そんなものはこの4人が吹き飛ばすだろうと聖国の人たちは信じているのだ。


 聖国で行われる勇者による討伐魔王発表は各国も注目している。

 4人もその期待を背負っていることを重々承知しているだろう。


 圧倒的な安心感が聖国には漂っていた。










――アーク 東 居住区域



 メルがアークに俺を狙うような怪しい気配を持つ人物が紛れ込んでおり、それがなかなかの使い手なようで、まったくバレずに活動しているとメルからの報告があったので、報告をしてくれたメルと、たまたま俺とじゃれついていたリトスを連れてアークに来ている。


 居住区域では様々な種族が大喧嘩することなく、尊重し合って暮らしている。

 全ての種族が同じ場所に通う子どもむけの塾も作ったのだが、そこそこ好評だ。子どもの頃に多くの種族と仲良くすることは将来役に立つと俺は思っているからな。

 そして子どもたち同士が仲良くしているのに、親たちが固定観念に囚われて差別しあっているのはみっともないから、最初は近付かなかった種族同士も今では仲良くしている。もちろんちょっとしたトラブルはあるようだが…。



「ますたー、相手は4人。さすがに気付かれたよ」



 さすがに街中でスライムを抱えて、獣を頭に乗っけている奴がいたら目立つのは仕方ない。

 でもメルが逃がすわけないと信じてるから堂々と歩いている。

 隠密に特化したような能力持ちのようだな。どっかの国か? 魔王関係者か? それとも冒険者か? 大穴で勇者関係者か? 



「ますたーがご所望だったみたい。感情に大きく揺らぎがあって緊張に変わったよ。ますたーを調べたいみたいだよ」


「どこの誰か分かるか?」


「帝国」


「予想外なとこだな」


「きゅ~~♪」



 きっとアルカナ騎士団なんだろうが、ミネルヴァがきちんとやっていたら俺のところに来るなんてあるのか? 

 考えられるのは、どっかの師団による独断行動か、ミネルヴァが少し前にやった砦の件で危険と判断して調査させてるからのどっちかだろう。

 

 居住区でも人気の少ないところへ向けて歩いていく。

 まだ夕方にもならない時間だが、周囲の空気はどんよりとしていた。


 確認するために歩き回っているが、メルによると4人は俺に意識を向けているようだ。


 メルがいなかったらまったく分からんもんだな。怖いもんだ。



「リトス……髪の毛ボサボサなんだが」


「きゅ~~♪」


「私も頭の上がいい」


「おっ? 抱きしめ不足か?」


「うん♪」



 リトスが俺の髪で自由に遊んでいるのを羨ましくなったのか、メルが不機嫌になりそうだったのでスライム体を強く抱いて元気にしてやる。

 『枢要悪の祭典みんな』のいいところは、大体分かりやすい奴らの集まりだってこと、こんなにもやりやすい環境を作ってくれているのはありがたいことだ。

 あんまり感情を出さないシンラやウロボロスだって、必要なときは表現してくれる。唯一読めないのはデザイアのお付きであるニャルくらいかな。


 そろそろ歩き疲れたし、終わらせよう…敵の動きや目的も判ってきたとこだし。



「いつまで、かくれんぼする? 帝国騎士さん」



――ギャリギャリギャリギャリッ!



 きっと俺の発言に対して少しでも敵意を持ったんだろう。

 メルの身体から4体の『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が高速で伸びた。相変わらず意味の分からないレベルの速さで伸縮するもんだ。正直音は聞こえたけれどまったく見えなかったぞ。


 それと同時にちゃっかりだが、リトスが結界を張っている。見事な連携に思わず2人を無言で愛でてしまう。



「きゅ~~♪」


「んっ♪ ますたー、全員捕らえた。4人とも利き腕喰らっておいた。情報は聞くまでもないよ」


「さっすがメルだ」



 これで尋問する時間が限りなく速くなるし、相手の心を素早く圧し折ることができる。情報収集はメルがしてくれるが、交渉ごとの練習をこういう場所で積んでおかないと、いつまでも経験不足のままだ。


 それにしても懲りない連中だな。せっかく手伝ってやったのに、こうやって信用を崩すようなことをして何がしたいんだか…。


 もしミネルヴァの差し金ならば面白い。泳がすことでどうなるか楽しみだったが、まだ俺のことを舐めたままだったという結論で良いだろう。

 この調子なら、またノコノコとアークに来てくれるだろうから、もしこいつらがミネルヴァの関係者だったら、ミネルヴァには報いをもちろん受けてもらわないと…。


 立場のある人間についての……良いサンプルになった。


 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』たちがメルの身体に戻るように縮んでいく。

 その先端はしっかり4人を捕らえていて、全員片腕を喰われているが、そこまで痛がらずに、俺のことを見ている。雰囲気あるな…。



「帝国全体の判断か、ミネルヴァの独断かどっちだ?」



 配下以外と話をする数少ないチャンスだ。

 しっかりと人間との交渉ってやつを、今回も勉強させてもらうとしよう。


 こういうときは……どんな顔するべきなんだろうか??

 

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