第6話 『挑戦』イブリース!


 『夢幻の星ドリームスター』が拠点としている家に行き、『罪の牢獄』に本気で挑むように誘導し終えてきたけど、なかなか上手いこと言った気がする。なんだか罪悪感がほんの少しだけ沸いてくるが気にしないようにしよう。


 彼らに渡した魔道具は魔法陣内の人物をダンジョン入口まで転移させるものだが、まとめて魔法陣の上にいないといけない、条件がかなり限定された魔道具だ。

 それでも人間たちの中ではかなり人気だから面白い。時空魔法を高いレベルで使用できる魔物が少ないので、普通だと便利な緊急脱出道具になる。


 『夢幻の星ドリームスター』の面々は面白いし、何より情報をかなり持っているので個人的には説得に応じてくれるなら数名こちら側陣営としてアーク来て欲しい。さすがに9人は多すぎるので少数でいい。



「これで『夢幻の星ドリームスター』は数日以内にはダンジョン攻略にくるだろう」



 渡した魔道具は万能ではないのでパーティーをダンジョン内で分裂させるか、転移魔法を封じられる空間に身を置かせれば対策は出来る。

 かなり仲間意識は高いようなので1人でもダンジョン内に残ってしまうようなことになったら置いていけないはずだ。


 『夢幻の星ドリームスター』実力的には4Fは越えられないと思っている。



「ミネルヴァがおかしいだけで、本来ならフォルカは役に立つ」



 フォルカのおかげで事前に9人全員のジョブや能力を知れたのが大きい。

 『夢幻の星ドリームスター』の生産特化の2人、あれはぜひ欲しい。アークで専業的に働いてくれるならば命の保証もお金のことも満足してもらえるような話をしたい。



「そういえば実績記念を確認しておくか」



 一応『死霊』を倒したし、ダンジョンも盛り上がっていてLvが上がっているので何かしらの実績をクリアしているはずだと思うので、画面をタッチして確認をする。



1.10体目のEXランク魔物支配下記念 【真名上限+2 500000DE】

2.ダンジョンランクがAになった記念 【指定ダンジョンエリア×2】



 『死霊』を倒したことはあんまり関係無かったな。

 真名を付与できる合計数がこれで15体になるのか!? 今10体だから残り5体になる。名前つけるのは難しいけど、みんな喜んでくれるから嬉しい。

 次はニーズヘッグと、そろそろカーバンクルにも付けたいんだけど許可してくれるだろうか?



「まぁ…なるようになるか」



 『夢幻の星ドリームスター』に対する対応と『迷宮絶霧』への調査情報をまとめながら、ダンジョン運営をいつも通り頑張ることにした。








――『罪の牢獄』 入り口




 『夢幻の星ドリームスター』の面々はフォルカからダンジョン脱出用の高級魔道具をもらったことで1度、自分たちの現在地を知るためにも万全の準備をし、そしてダンジョンに挑むために入り口で最後の確認をしていた。


 さすがに本腰を入れた挑戦なだけあって、メンバーの表情も真剣だ。



「まずはGランクの魔物と罠が多数あるエリア、ここは何度もやってきたから問題無いわね」


「火山までは問題無いだろ? いつも通りやろうぜ!」


「でも最近もそこを突破した人が出たらしい」


「……確認」


「そうだね…油断せず行こう!」



 レオンの掛け声で7人は陣形を整えてダンジョンの中に入っていく。

 明るかった外から一気に薄暗い洞窟の中へ、辺りにはウサギとゴブリンの臭いが充満している。

 それに他の冒険者が今日もけっこう入っているようで跡がたくさんある。


 さすがに7人もいるので苦戦することも無く、罠もさすがに見慣れたような物なので的確に回避して進んでいく。


 地下1層でも特に変わることなく、銅の武装を纏ったスケルトンたちを問題なく退けている。

 タクミマンと風香、それにレオンが前線でかき乱し、豊富な後衛組が支援と火力での仕事をこなしていく。

 7人の連携のとれたチームワークの前にスケルトンたちは次々と砕け散っていく。


 7人全員が己の役割を徹底して実行することで完璧なバランスがとれており、目立つのはユニークスキルを持つ2人ではあるが、その2人を支えるように動く5人も見事な活躍をしており、地下第2層である湿地帯も難なく攻略した7人は地下第3層前の大きな階段で少し休憩タイムに入っていた。



「ここまでは余裕だな!」


「……慣れた」


「そうね。個々のLvも上がってきてスムーズに進めるようになってきたわね」


「この先にいる火の悪魔を上手く攻略出来れば大成功ですね」



 『罪の牢獄』に挑む冒険者が躓く大きなポイントである地下第3層。

 何人もの冒険者がこの階で命を散らしてきた。

 大きな2本腕をした火の悪魔が1体、地下第3層にはいるのだが、単体でエリアを守るだけあって凄まじい力を持っているのだ。

 


「事前に合わせた通りに行こう」


「はい! 頑張ります!」


「蹴り飛ばしてやるんだから!」



 一同は補給を軽く済ませて階段を降りる。

 『アイテムボックス』のおかげでアイテムを大量に持ち込めるプレイヤーはダンジョン攻略において圧倒的な有利さを持つ。

 そして7人はLv40以上であるため1度復活できる安心感もあるのでメンタル状態も今は万全だ。

 フォルカから貰った魔道具もしっかりあることを確認して一同は火山エリアに辿り着く。



「本当に暑い!」


「付与魔法! ”耐熱装甲”!」



 アルが全員に火に対する耐性を得ることが出来る付与魔法を使用する。

 火山の環境にも付与魔法で対応出来た一同は武器を構えて、この階層の主登場を待つ。


 エリア中央上空に突然火球が出現し、爆散する。

 

 飛び散る火の粉とともに現れたのは『炎腕魔王イブリース』の振りをしたメルクリウスの分裂体だが、分裂体というのは冒険者たちは知らない。

 身体は大きいわけではないが、身体よりも長く太い腕と立派な角と羽をもった火の魔王こそがイブリース。

 

 イブリースは7人にむかって灼熱の魔力を放ちながら1人1人を睨みつけていく。


 震えるような視線に後ろに下がりたくなってしまう一同だが、意を決したように各々魔力を集中させていく。



「貴様らも灰にしてやろう!」


「行くよ!」


「付与魔法! ”身体強化” ”魔法防御” ”敏捷強化”!」



 アルが全員にまとめて付与魔法を放った瞬間に前衛3人はイブリースにむけて走り出す。

 アイカは一撃で仕留める勢いで魔力を集中させ、エリはいつでも回復させれるように準備を、サキは隙があれば急所を打ち抜けるように狙いを定めている。

 タクミマンが正面、風香が右、レオンが左と前線3人は別れてイブリースに向かっていく。



「『戦士の気勢ウォークライ』! こっちだ腕デカ野郎!」


「滅びるが良い! 爆炎崩弾!」



 タクミマンが正面から『戦士の気勢ウォークライ』を使用して注意を引き付ける。

 走りながらもイブリースから放たれる火炎の弾丸を嵐を盾を上手く使いながら捌いていく。

 しかし『戦士の気勢ウォークライ』の影響が少し薄いのかイブリースは自分の左右から迫るレオンと風香にも攻撃を放つ。



「鬱陶しい小蠅どもが! 腐炎で腐り果てろ!」



 イブリースの両腕から左右の2人に対して炎が放たれる。

 この腐炎は触れた者の魔力を腐らせて肉体にもダメージを与えるイブリースの得意スキルだ。



「あの炎は避けてください! ”反射強化”」


「タクミマンさん! 癒しの波動!」


「ヴァリアブルトリガー」



 アルが的確な指示を出しながら前線3人に追加の付与魔法を放ち、ダメージを負っているタクミマンにエリが回復魔法を放つ。

 そしてサキが両腕をレオンと風香を狙うように左右に突き出した隙をみて頭部に一発放つ。



「甘いわァ! 灼風熱波!」



――ゴウゥゥゥッ!



「ぐぉっ!」


「くっ! ストライクショット!」


「あっついな! 烈風脚っ!」



 イブリースに迫ろうとしていた前線3人はイブリースから放たれる灼熱の豪風によって吹き飛ばされる。なんとかアルの付与魔法のおかげで最低限の被害で済んでいるが、ダメージは確実に蓄積されている様子。


 吹き飛ばされる直前に攻撃を放ったレオンと風香の攻撃をイブリースの豪風に掻き消される。

 耐熱の付与魔法をかけてもらっていなかったら大火傷でも負ってしまいそうなほどの技に少し怯むメンバーだがすぐに陣形を作り直す。



「アイカ! 最初の撃てる?」


「えぇ……いつでも行けるわ」


「今の連携でもう一度崩そう!」


「しゃぁ! 行くぜぇ!」



 レオンの指示で再び同じように突貫していく前線の3人。

 アルが再度付与魔法を放ち、サキは羽を狙った魔弾を、エリは光属性の攻撃魔法を放っていく。

 レオンはボウガンを走りながら放つと言う難しい芸当をこなしながら走り込んでいく。風香はメンバー1の敏捷値で迫りくる火炎弾を巧みに回避して近づいていく。



「小賢しい! 腐炎の濁流!」



 イライラの爆発したイブリースが腐炎を波のようにして地面を這わせて放つ。

 うねりをあげながら7人へ迫る触れると危険な炎が迫りゆく!

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