第19話 『圧巻』の守護神
できたばかりのダンジョンに街からの依頼で攻略に来ていた「紅蓮の蝶々」。
ダンジョン入口から広がっていた第1階層をレディッシュの『
「二ナの付与魔法で一定以上の熱を防いでいるからこそできる技よね」
「役に立てて良かったです」
「ベイルもう少しだ」
「この焼けた臭いが慣れぬのだ」
通常なら燃やし尽くした洞窟なんて焼けるような熱さで進むことができないが、二ナの付与魔法で耐熱を全員が得ることで難なく進むことができているのだ。
罠も全て炭になっており、すんなりと次の階層に続く階段を見つけた6人は特に気にすることなく降りていく。
階段を下りた先に広がっていたのは薄暗い天気のにある朽ち果てた街だった。
人の気配はまったくなく、そこまで広そうには見えない場所だが、人の気配を感じず、ボロボロの街並み続く様子を見て6人は少し気を引き締めた。
「ツララ」
「分身の術!」
印と呼ばれるものを結び自身と同じ幻影を作り出す技だ。
ツララは3人の分身を作り出し、エリアを把握するために探索させるために飛び出させる。
忍者と呼ばれる珍しいジョブとシーフのスキルを持つツララは敏捷性ステータスがずば抜けて高く、ある程度のエリアならば短時間で把握できてしまうのだ。
「できたばかりのダンジョンにこんな複雑なエリアがあるだなんて」
「湿っぽい廃墟塗れの街ってのが嫌な感じだ」
「埃っぽいし最悪、髪崩れたらマジ萎える」
「そよ風の付与魔法をかけておきますね」
できたばかりのダンジョンエリアは大体決まっている。
魔物もダンジョンランクに比例したようなラインナップが多く、一番奥にいるボスが強いくらいだ。
1階層がゴブリンや一角ウサギしかいない後での2階層が急にこんな複雑なエリアになれば怪しいのは当然の話だろう。
魔物が隠れやすく、冒険者側が圧倒的不利になるほど死角の多い街型のエリア。
そこそこの広さがあるので何が潜んでいるのか分からないのが怖いところだ。
少し現状報告会をしていると、ツララが作り出した分身が帰ってきた。
合流した瞬間に煙のように分身は消えてしまう。
分身は消えた瞬間に記憶を本体に引き継がせることができる恐るべき能力を持っているのだ。
「銅の装備一式をつけたスケルトンと鬼蜘蛛の子どもが集団で動いていますね。次の階層に進むには鍵型の武器を持っているスケルトンが3体いるので、それらを集めれば良さそうですね」
「こんなエリアを作ってスケルトンと子蜘蛛って少し気が抜けるわね」
「手分けしてやっちまおうぜ!」
「確かにスケルトンなら3手に分かれて行けそうかもな」
「行くとするか」
「カイル・二ナ」「ツララ・グランス」「レディッシュ・ベイル」のチームに分かれて鍵を持ったスケルトンの場所をツララから共有して向かうことに決めた。
彼らはまだこの先に訪れる絶望を知る由もなかった。
◇
グランス&ツララチームは一番近い場所だったので、すぐにスケルトンを確認。Sランクである2人からすれば銅の装備を着けていようが関係ないと言ったように攻め込んでいく。
二丁の銃から放たれる魔弾は銅の鎧ごとスケルトンを貫いていく。
ツララはスケルトンが反応する前に的確に鎧の隙間から攻撃を仕掛け仕留めていく。
難なくスケルトンが持っていた鍵型の剣を手に入れて一呼吸入れていた。
「俺たちが一番になれそーだな!」
「そうですね。でもこんなに簡単なダンジョンになんでツララたちなんでしょうね?」
「さぁーな、つかこの鍵型の剣、けっこうカッコいいな!」
「何か彫ってありますね。ヒントでしょうか?」
剣もデカデカと文字が彫り込んである。
もしかしたら鍵を集めるだけでなく、彫ってあるところにヒントが隠されており、続きがあるのではないかと感じたツララはグラントに文字を読んでもらうように頼む。
文字が解読でき何かあればすぐに他の2チームのところに分身を派遣できるように準備しようとしているのだ。
「えぇ~と。「我背負うは『無頼』の『大罪』」…なんだこれ?」
彫ってある言葉を読み上げた瞬間。
2人の足下に魔法陣が作り出され、2人が反応するよりも速く、どこかへ転移させてしまうのだった。
◇
「「っ!?」」
グラントとツララは素早く互いに背を合わせながら武器を構える。
まったく反応できなかった転移魔術によってグラントとツララはダンジョン内のどこかへと転移させられてしまい、2人は周囲の状況を確認しながら確かめ合う。
「合言葉は?」
「緑の蝶々」
「よし…どうなってんだ? Aランク以下の罠で作動する魔法は無効化できるはずだろ?」
「つまり先ほどの罠、または時空間魔法はAランク以上の仕掛けだったというわけですね」
2人の額に汗が流れる。
油断していた。
できたばかりのダンジョンで生息している魔物は自分からすれば取るに足らないスケルトン。
二ナのおかげで上位魔法以外の罠は作動しないのも相まって完全に気を抜いてしまった。
ダンジョン攻略においては最悪な状況の1つである「分断」をされてしまい、久々に危機を感じる2人であった。
――ガシャンッ! ガシャンッ!
「っ! クイックトリガー!」
「忍法 手裏剣分身の陣!」
巨大な足音が聞こえたので正体を確認する前に振り向くと同時に攻撃を放つ2人。
しかしその攻撃は巨大な鎧に当たると同時に砂のように消えてしまった。
「なんだありゃ?」
グラントが思わず情けない声をあげてしまう。
そこに居たのは白と黒が半分で分かれている配色をした3mは超えているような巨大な重鎧だった。
獅子を連想させる兜に真紅のマントを身に着け、凄まじい存在感を放っている大剣と大盾を片手で持った魔物が、2人の攻撃がまるでなかったかのように立っていた。
「分身の術! そして風弾の術!」
「フレアショットォ!」
2人の判断は速かった。
外見から速さは無いと判断し、ツララは分身の術を使用し囲みながら攻撃を繰り返す。
グラントは隙を見て強力な魔弾を叩き込む。
しかし2人の攻撃はまたして音を立てることなく、当たったか当たってないかの瞬間に光の砂のようになって散っていってしまう。
「くそ! 何のスキルだ!?」
「分かりません! 見たことありません!」
情報を交換しあいながら遠距離攻撃を続けていく2人。
そこそこの年数冒険者として活動しているが見たことのない防御スキルに動揺が隠せず、無駄に魔力を消費しているかのような錯覚に陥ってしまう。
鎧はグラントにむけてゆっくりと歩を進めているだけなので、追いつかれそうにないのが2人からすれば安心材料であった。
グラントが足を止めて魔力を集中させる。
「魔弾の嵐!!」
2発の巨大な魔弾を上空に向けて放つ。
上空で停止し巨大な魔法陣へと変化した魔弾は鎧に向けて雨のように大量の魔弾を打ち降らす!!
グラントが広範囲殲滅技として長年使用している技だ。
さすがに掠るぐらいは行くだろうと2人とも魔弾の着弾を見守るが…。
――パリンッ!
「そんなっ!?」
「くそ! これもダメなのかよ!」
最初の一発が着弾する瞬間に全ての魔弾と魔法陣ごと光の砂へと消えてしまった。
2人は魔弾だけでなく魔法陣が消えたことでスキルそのものを消滅させるスキルかアビリティだと判断はできるが解決策が見当たらない。
『罪の牢獄』が誇る『無頼』の『大罪』を司る騎士王。
その魔物の名はアヴァロン。そして2人の攻撃がまったく塵となって効いていない理由はアヴァロンが所有する1つのアビリティにある。
アビリティ:『
・1人から受ける全てのスキル又は魔法を最初の12種類まで完全に消滅させる。
・スキルでない攻撃は1とすらカウントせず無効化する。
・解除されるまでSSランク以下のアビリティ影響を無効化する。
・カウントが解除されるまで一度消滅させられたスキル又は魔法は使用不可。
・24分間ごとにスキルを受けた種類の数をリセットする。
アビリティの内容を知っていればやることは1つだが、知らない場合は困難を極めるであろう能力。
スキルや魔法が12種類ない場合はほぼ攻略不可能という防御性能を誇っているが、味方からのアビリティやスキルも無効にしてしまうデメリットがある。
「一度当てたスキルが使えません!」
「くっ! サンダーバレッド!」
攻撃が効かず、一度放ったスキルは何故か使用不可な状況に混乱を深める2人だが、鎧の動きをしっかり観察し、些細な情報も逃さないようにしている姿勢はさすが若くしてSランクになっただけはある。
逃げながらではあるがツララが5種類、グラントが8種類のスキルを当てたのだが、2人はそんなこと気にしておらず、使用できるスキルを次々と放っているだけである。
――ガシャァァンッ!
「なんだっ?」
「気を付けてください!」
アヴェロンがグラントのほうへ体を向けて大剣を地面に勢いよく突き刺し地面を軽く揺らし、さらに大盾を一旦消滅させる。
すると両手がバチバチッと雷の魔力が溢れだす。
左手である雷の魔力は巨大な弓の形に変化していき、右手にある魔力は巨大な槍のような矢へと姿を変えた。
「分身変化の術!」
グラントの周囲が煙に包まれる。
煙の中から勢いよく散っていく8人のグラント。
ツララが危険を感じ取り、自身もグラントへと変化し攪乱させようと行動を起こしたのだ。
しかし散っていく8人のグラントの誰かに狙いを定めるわけでなく、細く鋭くなっていく雷の矢を力いっぱいに放った。
――バリバリバリバリッ!!! ドシャァァァンッ!!
絶望の雷撃が常人の目には映らない速度で地面を抉りとる。
唸るような音をあげ、一瞬のうちに闘技場の壁へと着弾しまるで最初から無かったかのように消滅させていた。
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