第4話 『屈辱』の笑い声


「もう間もなく始まりますが、覚悟しておいたほうがいいですよ」


「そんなにヤバいものなのか?」


「いえ、『原初の魔王」様による激励会みたいなものですが、ダンジョンを開かずにDEを稼いでいないソウイチ様は、他の魔王の前で指摘される可能性が大いになります」


「公開処刑ってことね」



 成績の一番悪い奴を大勢の前で晒し上げようってやつか、んなことして逆にやる気無くしたらどうするつもりなんよ。

 とりあえず俺が笑われても怒らないようにガラクシアとポラールには一言言っておく。

 同期の魔王たちが集まる会で、俺の同期は歴史上一番多いらしいから嫌なもんだな。



「まぁなるようになるな」



 少し待つとコアがクルクル回り、いつもよりも大きな画面を映し出した。

 そこには大きな会場に大量の多種多様な種族が集まっている。

 何個もあるデカいテーブルを囲み、食事をしながらコミュニケーションをとっているんだろう。

 それにしてもどんだけいるんだよ。


 画面が会場奥の舞台を映すと、そこには浮いている玉座に座っている薄汚れたローブに白い髭が目立つ人族に見える老人がいた。



『新たな芽たちよ、静まりたまえ』



 体の奥底に響くような低い声が老人から放たれる。

 大盛り上がりだった会場は一瞬にして静まり返る。



『我は『原初の魔王』、諸君らの誕生に心からの祝福を送ろう』



 心の中で毎日送ってくれるDEを100から1000にしてくれないかななんて考えながら画面を見る。



『歴史上最多の1万体もの魔王が同期である諸君ら』



 1万もいるの!? いきなり1万もダンジョンが増えても大丈夫なくらい世界は広いってことか、先輩魔王がどれだけいるのか知らないけれど、魔王ってそんなに多いもんなのかな?



『生まれて10日しか経っていないが、皆DEを得ているようで感心じゃ』



 会場が再びザワザワしはじめる、そして話の内容的に俺の心をザワザワしはじめる。

 それを分かってかガラクシアが俺の右手に抱き着いてきてくれる。

 逆にドキドキしてしまうが、バレないようにしないとな。



『それにBランク以上の『魔名』を背負う魔王がすでに500もおるのは素晴らしい』



 俺もその中に含まれるし、能力は置いといてSランクのだからかなり少ないんだろうな。

 もっと縛りの無くて高いランクの『魔名』だったら良かったのに。



『その中でも『焔の魔王アイシャ』よ、席を立つが良い』


「はい」



 燃えるような真っ赤な髪を靡かせた人族型のように見える魔王が立ち上がる。同期だってのになんという落ち着きと風格だよ。



『彼女は先輩魔王に弟子入りし、10日で50000DEを獲得しておる。これは諸君らの中で一番じゃ』



 5万!?

 どんなダンジョン作ったら10日で5万も稼げるんだ? 俺なんてプレゼント以外で1DEすら稼いでないのに。



『Aランクの魔物を呼び出し、各魔物に適した環境を作り出し、素早く運営まで持っていくその手腕見事なり』


「ありがとうございます」


『それに『天風』に弟子入りする大胆さ、素晴らしい』


「弟子入りの件は運ですわ」



 先輩魔王に出会って弟子入りしたってことか、他の魔王に会おうだなんて考えたこと無かったな。

 会ったら互いのコアを壊して経験値を得るために戦いが起こりそうな気がするからできれば会いたくないな。



『それに比べて1DEすら獲得しておらん者もおる。のう画面の向こうの『大罪』よ』



 その言葉に会場がドッと沸く。反応を見るにまったくDEを稼いでないのは俺だけっぽいな。

 自分より下の奴を見つけて大喜びって感じか。



『ふむ…なるほどGランクの魔物しか呼び出せない縛りか、それはなんとも可哀想じゃな』


「余計なこと言うんじゃねぇーよ!」



 思わず叫んでしまった。

 最悪の事態だ、自分の弱みが同期の全魔王に知られてしまった。


 爺さんの発言に会場はさらに大盛り上がりだ。



「嘘だろ! Gランクだけって終わってんじゃん!」


「そいつ探し出して実験台にしようぜ!」


「0DEってことは怖くて引きこもってたんだろ!」


『怒らせるつもりは無かったが、魔王ならどうにせんとな。だが怒らせてしまった詫びとして、少しプレゼントを『大罪』には贈っておこう』



 くそ! プレゼントによるけどデメリットのほうが圧倒的に大きすぎる。

 

 色々考えていると、左右に控えていたガラクシアとポラールから怒りの感情が伝わってくる。

 でも俺に言われたから何も言わないようにしているんだろう。

 ダメだな、2人に言っといて自分が怒りで我を失ってたら恥ずかしいな。



『ダンジョンランクが8を超えた者は、この後から配合が解禁される。各自試してみるとよい、最強の配下を作り出すのじゃ』



 ダンジョンレベルの話は聞いてないぞ! まだ3なのに!

 爺さんの一言で会場が再び静かになる。

 そして少し間を空けてから衝撃の一言が放たれる。



『1年後には2000体程生き残れば良いと思っておるからの』



 会場が一気にザワつく、単純に1年で1/5に新米魔王の数が減るということだ。

これは人間に襲撃されて命尽きるだろう予測の数なのか? それとも何かあるのか?



『1か月後より10か月以内に他魔王のダンジョンのコアを一度も破壊できなかったものは我が自ら滅ぼしに行こう』



 まさかの魔王同士で戦い競い合わせるつもりだったのか。

 これで確実に半分になるのは確定した。

 俺も1年以内に他の魔王のところに行かなきゃいけないのが決まった。



『戦争のやり方は先輩魔王から聞くのが一番早いが、可哀想じゃからこの中から1組、1か月後に魔王戦争を行なってもらうかの』



 また一気に会場が静まり返る。

 気付けば誰もが敵になりうるデスゲームが始まってしまっている。



『今なら早いもん順で対戦相手も選びたい放題じゃぞ。それに勝ったほうには我から豪華プレゼントを授けよう』


「「「「「「「オォォォォ!!」」」」」」



 一斉に会場の魔王たちが自分を選べとアピールしはじめる。

 こいつら随分アクティブだな、豪華なプレゼントがあるとは言え1か月で情報収集と戦争準備ができるってのか?



『ふむ…では『銅』よ、お主に決定しよう』


「よっしゃぁぁぁ! 相手は『大罪』でお願いします!」



 勢いよく立ち上がった茶髪で立派な銅の鎧を纏った人型魔王はデカい声で俺を指名する。

 そういうことか、俺が最弱候補って分かったから確実に勝つために全員アピールしてたってことか。


 少し驚いていると爺さんの頭上に大きな画面が映し出されて、そこに今の俺が映し出される。



「おい! サキュバスとアークエンジェルを控えさせてるぞ!」


「Gランクしか召喚できないからチケットしか頼れなかったんだろ!」


「それでもサキュバスとか戦闘力的には外れ候補だろ!」


「くそっ! 俺もやりたかったぜ!」



 こいつら随分と好き勝手言ってくれやがるな。

 自分より明確に弱いって分かった瞬間、寄ってたかってゴチャゴチャ言ってきやがって。



「ダメだよマスター、ガラクシアと一緒に我慢しよ」



 ガラクシアが俺にむかって冷静になるようにアドバイスをくれる。

 その発言が聞こえていたのか、会場がさらに盛り上がる。



「マジかよ! サキュバスに真名与えてやがるぞ!」


「Dランクに真名なんて説明聞いてなかったのかよ!」


「外見だけで選んだのか!? 引きこもって何すんだろうなぁ!」



 さっきから言わしておけば調子に乗る奴らばかりだ。

 俺は必死に目立つ声をだしてる奴の顔を覚えようと画面の端から端までしっかり見る。



「『大罪の魔王』俺との戦争受けてくれるか!? それとも一生引きこもるのか?」


「……いいだろう、魔王戦争受けてたとう」



 俺の発言を聞いて、さらに会場が盛り上がる。

 きっと挑発に乗って命を捨てた間抜けにでも映ってるんだろう。



「ポラール、すぐにでも準備をはじめよう」


「はっ!」



 会場のボルテージが上がり続けている。

 アークエンジェルにも真名を与えていることに大笑いしているんだろう。


 そうやって油断していろ、Gランクとチケットでしか魔物を召喚できず、臆病に引きこもる魔王と思ってくれるほうが俺としてもやりやすいからな。



『では戦場は戦争3日前に両者に伝える。この戦争は興味があれば先輩魔王も見に来るので頑張るが良い。他の者も準備を怠るでないぞ』



 そう言って画面は消えた。


 コアだけが動き続け、他の誰も声も発さない。

 リーナも空気を読んでいるのか、ピクリとも動かない。



「さぁ…昼ごはんでも食べながら作戦を練るか」


「頑張ろうねマスタ~!」


「はっ!」


「その意気です。ソウイチ様」



 俺の発言を待っていたかのように、俺に合わせて一斉に3人とも動き出す。

 とりあえず昼食をとりながら、ガチャタイムだな!

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