第11話 サーラの反省(サーラ視点)

 いろいろあったが、今日も結果オーライだ。御主人様はボスを含めて角ウサギ9体を倒した。何よりの発見は、ご主人様のキックが強いということだ。これは戦力になる。戦いの中で雷撃がレベル2になった。角ウサギを一撃で倒す威力があった。


 ただボスの石礫攻撃で顔を傷つけられた。さらに悪いのは角でわき腹を刺されてしまった。この二つは大失敗だ。


 防具をきちんとしなかった私の失敗。あれが強い魔物だったら危なかった。まず離れたのがいけなかった。離れていなければもっと早く風魔法で礫を止めていた。手が足りない。何とかパーティの人数を増やして安全を確保したい。魔物を倒すだけなら私一人で楽勝だが、それではご主人が強くなれない。


 キック強かったけどステータス上がっていないかな。鑑定してみた。

【名前】   ショウ

【種族】   ヒューマン

【年齢】  16

【職業】  なし

【ギフトスキル】 ナビゲーション

【聖魔法】  ヒールLv2

【攻撃魔法】 雷撃 Lv2

【武技】   格技Lv1

【秘匿スキル】 ネクロマンサー Lv1

【称号】   異世界の記憶を持つ男


 武技に格技が追加されていた。御主人様自身が戦うことは、将来にはないが、それでもある程度の強さは必要だ。アンデッドたちの魔法や体術のレベルはご主人様の3倍に制約されている。レベル3程度はほしい。


 武技だけでなく魔法も含めて、ご主人様に潜在している能力を全体的に開花させるのが私の方針だ。


 さしあたり魔物討伐をしながらこの世界で生きていくとすると、どんな力が必要かな。剣技や槍技、弓技それに盾技もいる。ただ楽しんでやってもらういたい。いくら必要だといっても無理やりはできない。遊びながら、そして同時に次の魔物と戦うために、能力を高めていけばいい。


 都市のダンジョンで次に出てくるのはゴブリンだ。この都市の標準ダンジョンはよく考えられていて、冒険者の教育の段階が、きちんとたどれるようになっている。2層の目的はヒト型モンスター殺戮の抵抗感を克服すること。そしてこん棒で襲ってくる相手と、剣とか槍とかの武器で戦う力をつけることだ。


 だからご主人様の次回の魔物討伐はゴブリンにする。昨日チャンバラごっこをやったので、それを継続すればいいだろう。あとサッカーをやりたそうだったから、サッカーボールをウサギ皮で作ってあげよう。

 

 ドライアドには相談がある。呼び出す。


「お嬢様。何でしょう」


「頼んであったことがあるよね」


「はい。風のアルケミスト様が死んだという噂を流すようにと、すでに一族全員に伝えてあります。鳥などを通じて徐々に伝わると思いますが、直接人間に伝えているのではないので、時間がかかりますが、その分じわじわと浸透していくと思います」


「1年くらい待てばいいかな」


「第2はどこの国の勢力も及ばない広い土地。大竜骨山脈地帯か、その南のタナルゴ砂漠しか思い至りません。正確な地図を作るまでもなく明白です」


「私も砂漠しかないと覚悟を決めた」


「3番目の有力者の動静はすでに300人ほど監視中です」


「さすが仕事が早い。考えているのは世界征服の拠点となる新国家の建設地なのよ。大竜骨山脈は民が住めないし、ドラゴンなどの支配地だから除外。そうすると砂漠しかないことになる。ここに国家を建てるには、まずこの砂漠を緑化しなくてはならない」


「御意」


「そこで雨女の木を借りたい。もちろんそれだけに頼るわけではないけれど、最初の小さな拠点を作るにはどうしても必要なの。何本か、頼めるかな」


「いきのいいのを差し向けますが、場所はどこに?」


「地図ができたら、最終決定なんだけど、砂漠の中央部から山脈寄りに二日行ったところで待機してほしい」


 さてもう一つ連絡しなければならなところがある。こちらは手紙だ。実は私は錬金術師でありながら、盗賊団の団長を兼ねていた。盗賊団と言っても子分は3人。錬金術師にとって必要な材料を集めるためにこのアリスク盗賊団はとても役に立ってくれた。300年の間に、子分は代々息子に代替わりして、もう7代目か8代目だ。


 私はそれぞれの家の男の子がどうやって生まれ、誰と恋をし結婚してまた子を産み、育てどんな仕事をして死んでいったかをつぶさに見てきた。7代か8代。一人は盗賊団の金を運用して銀行家になっている。2人目は世界中を相手にする貿易商。奴隷も扱っている。3人目は大規模な雑貨店を営む。


 みなン・ガイラ帝国の首都ビスクにいる。盗賊団の倉庫は私のマジックバッグとつながっていて、私がなにか送るとそれがなんであっても最優先で適切な処置をしてくれる。


 彼らには私は仕事のボスと言うより、代々従う神のような存在だ。しかし彼らを動かすと、私が生存していることが世間に知られる可能性がある。銀行には莫大な財産を預けてあるが、これを使うのも私の生存を知られることにつながる。


 このお金と彼らの存在は、世界征服のために不可欠だが、しばらくは彼らにも秘密で準備を進めたい。昨日は集めた薬草と鹿肉を送って塩と物々交換をした。ご主人様が人とのかかわりを避けて町の市場に行かないのなら、私は彼ら盗賊団に頼る必要がある。


 団長としての最後の手紙という形にした。後継者としてサーラを指名し、2代目団長とすること。私の財産はすべてサーラに譲渡することとした。


 2通目はサーラから。初代団長の死を報告し、2代目団長の地位を受け継いだこと。初代団長の死は秘密にすること。事情があってサーラは皆の前にしばらく姿を現すことができない事。受け継いだ財産は、しばらく厳重に保管してほしいこと。そして新たな銀行口座を作り、そこに財産を移す予定であること。


 しばらくの間貿易商ジェビックに団長代行を命ずること。また財産の運用方針。また風のアルケミストのマジックバッグは、前団長と同じく継続して使用することなどを伝えた。


 さて新国家の現有勢力を点検すると、まず国王の翔様。16歳でひきこもりで底辺魔導師。私、サーラは風魔導士の頂点にあり、最高の錬金術師でもあるが、現在魔力は制約されている。ちなみに錬金術は魔法ではなく科学なので知識は制約されていない。


 そして私に使役されているドライアドの一族約1000体。新国家建設用地は広大だがまだ砂漠だ。今、気づかれたら、世界征服どころか簡単にひねりつぶされる。ともかく我々は隠れていなくてはならない。少なくとも今のところは。おそらく10年くらい。


 この後、今日得た素材の加工をしなくてはならない。ドライアドに1000のマジックバッグを配らなくてはならない。残った肉は干し肉と燻製に。今のところ主な食料はこの肉だが、塩味で焼くだけでは飽きてしまうし、加工しておけば保存するにも便利だ。腸は処理をして、容器として使う。ソーセージなどを作る時のケースにもする。また細く裂くと丈夫な糸にもなる。


 骨を利用して数本針を作っておく。それ以外は一旦骨粉にする。まず剣を作る。骨粉に魔石粉末まぜて、錬金術で再構成する。金属の剣に比べてもろいが、ゴブリン相手なら十分使える。ゴブリンの武器は棍棒だから剣は切れ味よりある程度頑丈で重さのあるものがふさわしい。あとは防具だ。


 骨粉からは食器も作りたい。今、食器は木の実をくり抜いたものしかない。皿が4,5枚は必要だ。


 それと皮。普通になめすには時間がかかるが、腐敗と洗浄のスキル、それに乾燥の風魔法を使えばぎりぎり朝までに間に合う。それができたら腸の糸と骨の針で、サッカーボールをつくる。


 残りの皮でマジックバッグ30くらいはできるか。ドライアドに渡して、まずこれだけ配ってもらう。森の恵みが楽しみだが、それは秋のことになるのかな。


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