第28話 全部あの女のせいよ~エミリー視点~

「シャーロット、あの女さえいなければ!」


鎖に繋がれ薄暗く冷たい地下牢の中で、私は唇を嚙みしめた。




私の名前はエミリー・コックス。男爵令嬢として、それなりに何不自由ない生活を送っていた。でも、貴族界で一番下位に値する男爵家ということもあり、お茶会などでは周りの令嬢や令息に気を遣う始末。



どうして私がこんな奴らに気を遣わなければいけないのよ!ずっとそんな思いを抱いて育った。幸いお父様とお母様は一人娘でもある私を溺愛してくれている。そのため、欲しいものは何でも買ってもらえるが、それでも私のイライラは収まらない。



そんなある日、初めてあの女に会った。そう、シャーロット・ウィルソンだ。公爵令嬢で第一王子の婚約者。魔力量が多く、誰にでも優しいあの女は、貴族界でも一目置かれる存在。



どうやら庶民に無料で治癒魔法を提供しているようで、民からの人気も高い。私の欲しい物を全てを持っているあの女が、私はずっと憎かった。そう、完全な嫉妬だ。わかっている、それでも抱かずにはいられなった。



あの女の持っているもの、全て奪ってやりたい、ずっとそう思っていた。まあ、男爵令嬢の私がどう転んでも、公爵令嬢のあの女に敵うわけがない。そんな事はわかりきっていた。



そして私は14歳を迎え、いよいよ貴族学院入学の日が迫っていた。貴族学院は貴族全員入学が義務付けられている学院。男爵令嬢の私は、毎日みんなの顔色を伺いながら生活しなければならない。入学前からすでにげんなりしていたのだが…



「お嬢様、旦那様がお呼びです」


専属メイドが私を呼びに来た。お父様が?一体何の用かしら?



私はお父様が待つ書斎に行った。そこにはお父様とお母様。黒いフードを被った明らかに怪しそうな男の姿もあった。



「お父様、私に何かご用?それに、そこにいる男は誰?随分怪しそうな男ね」



「彼は優秀な魔術師だ。失礼な事を言うんじゃない!」


私の言葉に、慌てるお父様。この人が優秀な魔術師なの?随分怪しそうだけれど。



「エミリー、お前ずっとシャーロット嬢が羨ましいと言っていたな。もし、今のシャーロット嬢の地位を、お前が手に入れられるとしたらどうする?」



お父様、一体何を言っているのかしら?そう思いながらも、私は答える。


「そりゃあ、そうなれば嬉しいわ。でも、そんな事絶対無理よ」


「それはどうかな?エミリー、これが何かわかるか?」


お父様が見せてきたのは、一見ただの宝石が付いたネックレスに見える。



「ただのネックレスが何だって言うの?」



「これは、魅了魔法がかかったネックレスだ。これを付けていれば、皆お前の虜になる」



魅了魔法ですって!禁断魔法の1つで、使ったことがバレれば一族全員極刑よ。



「お父様、こんな危険な物を私に使えと言うの?バレたら殺されるわ!」



「大丈夫だよ。エミリー。魅了魔法はとても強力にできている。絶対にバレない。まあ、お前が使いたくないと言うなら、別にいいのだが…」



確かにリスクはあるが、これさえあれば、あの憎らしいシャーロットを蹴落とすことが出来るかもしれない。



「お父様、私にそれを頂戴!」



「そう言うと思ったよ、ただし、この魅了魔法は、異性にしか使えない。後、魅了魔法の期限は約3日だ。3日経つと消えてしまうから、極力3日以内に相手に会う様に心がけろ。いいな、相手が正気に戻った時、魅了魔法を使った事がバレる可能性がある。そこは気を付けろよ」



なるほどね。


「わかったわ。お父様、ありがとう」


魅了魔法を手に入れた私は、入学後隙を見て、シャーロットの婚約者、リアム様に近づき、あっという間に虜にしてしまった。



その威力はすさまじく、彼はもう私の言う事なら何でも聞いてくれるようになった。次はあの女の家族ね。



私はウィルソン公爵家を訪問した。もちろん、シャーロットの父親と兄を虜にするためだ。ただ、男爵令嬢の私に、中々会ってくれないウィルソン公爵と令息。でも、諦めないわよ。リアム様にお願いして、ウィルソン公爵と令息を呼び出してもらった。



そして、あっという間に2人も虜にした。もうこうなれば私の思い通り。私が聖女と言えば聖女にもなれたし、私がシャーロットにイジメられていると泣き付けば、皆がシャーロットを悪者にする。



殴られ暴言を吐かれて絶望の表情を浮かべているあの女を見るのが、何よりも快感ね。


後はリアム様とあの女の婚約を解消させ、私がリアム様の婚約者になれば完璧ね!


そう思っていたのだが、思わぬ障害にぶち当たる。そう、王妃だ。あの女は、シャーロットをとても可愛がっている。


私の魅了魔法は女である王妃には効かない。何とかならないかしら。


私は早速お父様に相談した。数日後、お父様に呼び出された。



「エミリー、これを王妃に身に付けさせろ」



お父様から渡されたのは、黒い水晶のネックレスだ。


「お父様、これは?」


「これは、呪いの魔法がかけられたネックレスだ。これを身に着けた者は、重い病にかかり、いずれは命を落とす」


また禁断魔法か。でも、今更どんな魔法でも驚かないわ。それに、これさえあれば、リアム様と婚約できるし、邪魔者の王妃も消すことが出来る。



でも、私が渡してもきっと王妃は受け取らないわ。ここは、リアム様から渡してもらおう。こうして、呪いの魔法がかかったネックレスを付けた王妃は、あっという間に起き上がれないほどの重い病にかかった。



「これで君と婚約出来るよ」


嬉しそうなリアム様。待てよ、せっかくならシャーロットをもっと苦しめたい。私はリアム様にシャーロットに殺されそうになっていると嘘の情報を流した。その結果、シャーロットは公爵から勘当され、公開処刑も決まった。



そして、運命のダンスパーティー当日。公爵にドレスを取り上げられたのか、随分みすぼらしいドレスを着て現れた。誰にも相手にされず、ずっと壁にもたれている。いい気味ね。



そして、リアム様から婚約破棄と公開処刑を告げられ、護衛騎士に連れられて行くシャーロット。あの女も明日みすぼらしく死ぬのね。そう思っていたのだが…



リアム様と一緒に、2人で私たちの婚約祝いを行っていた時、あり得ないほどの光に包まれた。



一体何が起こったの…


光が収まり、リアム様に甘えようとすり寄っていったのだが


「離せ」


リアム様はそう言うと、私と突き飛ばし、どこかに向かって走って行ってしまった。



何が起こっているの?私は急いでリアム様を追いかける。向かった先は、地下牢?



「リアム様、一体どうされたのですか?」


私は地下牢で何かを叫んでいるリアム様に声をかける。


次の瞬間


「この女をすぐに別の地下牢へ入れろ!後、男爵家も徹底的に調べ上げろ!」


リアム様、今なんて言ったの?


一瞬何が起こったのかわからなかった。でも、私の両脇を騎士たちが固め、あっという間に地下牢にぶち込まれた。



「どうして、何で私がこんなところに入れられなきゃいけないのよ。早く出しなさい!」


そう叫んだが、誰も私の話を聞かない。



どうして…


魅了魔法は?


そう思い、ネックレスを見たのだが、石が粉々に割れ、私の首にはチェーンのみが残っていた。


嘘…


魅了魔法が解けたということを、やっと理解したのであった。


数日後、隣の地下牢にはお父様とお母様、あの怪しげな魔術師が投獄された。


そして私の元に現れたのは、リアム様だ。



「リアム様、どうかお助け下さい」



私はリアム様にすり寄った。



「うるさい!よくも、よくもシャーロットを!」


怒りに震えるリアム様に蹴り飛ばされ、踏みつけられる。



「お前とその家族、そこにいる魔術師は明日処刑されることが決まった。お前のせいで、僕の人生はめちゃくちゃだ!お前さえいなければ!」



さらにリアム様に蹴られる。何度も何度も蹴られ踏みつけられた。



「おい、なぜこの女は牢の中で自由にしているんだ!鎖で繋いでおけ!」




そう言うと、リアム様は地下牢から出て行った。


どうしてこんなことになってしまったの!そうよ、あの女が居なければ、きっと私は今頃平和に暮らしていたわ。



シャーロット…あなたさえいなければ!



冷たい地下牢の中で、私はあの女を恨み続けたのであった。

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