第27話 なぜこんな事になってしまったんだ【後編】~リアム視点~

月日は流れ、僕達は14歳になった。貴族学院入学の年だ。シャーロットは老若男女問わず人気が高い。とにかく、学院に入学してからも極力シャーロットの側に居て、男たちが近づけない環境を作らなくては!



僕はそう決意し、入学式を迎えた。そんな決意も虚しく、僕はあの忌まわしい女、エミリー・コックスに出会ってしまったのだ。



「リアム殿下、少しよろしいでしょうか?」


入学して数日が経ったある日、男爵令嬢のエミリー・コックスに呼び出された。男爵令嬢ごときが、僕を呼び出すなんて、なんて図々しい女だ。僕は早くシャーロットの元に行きたいんだ。



「僕に何か用かい?」


ぶっきらぼうにそう言ったのだが、彼女にある水晶の様なものを見せられてから、急に彼女が愛おしくてたまらなくなってしまった。



それからは、もうエミリーの事で毎日頭がいっぱいになった。



「リアム様、私実はシャーロット様に酷いことをされているのです。昨日は階段から突き落とされました」


エミリーが泣きながら僕に訴えてくる。シャーロット、なんて女なんだ!僕の可愛いエミリーをイジメるなんて。



そんなある日、シャーロットからエミリーの事で文句を言われた。僕の大事なエミリーをイジメている分際で、僕に文句を言うなんてなんて女だ!



次第にシャーロットに対するいら立ちが増す。そして、僕はついにシャーロットに手をあげてしまった。そこからはもう止まらない。傍らには常にエミリーを置き、シャーロットに暴言を吐きながら、蹴りつけた。



最初は泣いて訴えていたシャーロットだったが、次第に何も言わなくなった。その表情が、さらに僕を苛立たせる。



そんなある日



「私は実は聖女なの」


エミリーが急に、聖女と名乗りだした。そうか、エミリーが言うなら間違いない。エミリーを我が国の聖女に認定しよう。



よく考えたら我が国に聖女なんて存在しない。でも、その時の僕は本当にいかれていたのだろう。



僕は早速エミリーを父上に会わせた。最初は難色を示していた父上も、エミリーに会うとあっさり彼女が聖女と認めてくれた。これで、エミリーの地位もグッと上がった。喜ぶエミリーを見ていると、僕まで嬉しくなる。



後はさっさとシャーロットとの婚約を破棄し、エミリーを新しい婚約者にすれば完璧だ。そう思っていたのだが、僕達の前に立ちはだかったのは母上だ。



母上はシャーロットを常にかばい、僕には

「リアム、目を覚ましなさい!あなたの婚約者はシャーロットちゃんよ」

と、事ある事に行ってくる。



母上はどんな時もシャーロットを大切に思っているようだ。シャーロットがどんなにひどい女とも知らずに。



そんな日々が続いたある日。エミリーから黒い石が付いたネックレスを渡された。これを母上にあげてほしいと言われたのだ。自分から渡すと、きっと付けてもらえないから、僕から渡して欲しいとの事。



エミリーの事を毛嫌いしている母上にまでプレゼントを渡すなんて、なんて優しい女性なんだ。僕はすぐに母上にエミリーからもらったネックレスをプレゼントした。



母上も思いがけない僕からのプレゼントに喜んでつけてくれた。でも、それから母上は起き上がれないほど体調を崩してしまった。



正直僕は、ラッキーだと思った。母上が病気の今、さっさとシャーロットとの婚約を破棄し、エミリーと婚約を結んでしまおうと考えたのだ。



そんな時、エミリーから、シャーロットがエミリーを殺そうとしているとの情報が入る。なんて恐ろしい女なんだ!もう生かしてはおけない!幸いシャーロットの父、公爵もシャーロットを毛嫌いしだしており、娘を勘当すると言ってくれた。



エミリーの要望で、シャーロットを公開処刑することに決めた。シャーロットの婚約破棄と公開処刑の知らせは、近々行われるダンスパーティーで発表することになった。




そして迎えたダンスパーティー当日、僕はもちろんエミリーをエスコートして参加した。そして、シャーロットに婚約破棄と明日公開処刑を行うことを伝える。



泣き叫ぶかと思っていたが、意外とあっさり受け入れたシャーロット。その姿に苛立ちを覚えた。



無事ダンスパーティーも終わり、エミリーを客間に待たせ、僕は急いで着替えを済ます。この後、エミリーと二人で婚約記念のお祝いをする為だ。



その時、僕の側近が話しかけていた。



「殿下、シャーロット様を処刑するとは本当ですか?彼女の公開処刑を知って、民たちが反対のデモを起すと言った話も聞こえてきています。どうか、もう一度考え…」



「うるさい!これは決定事項だ!お前もとやかく言うなら、ただじゃおかないぞ!」


僕は側近の話を遮り、怒鳴りつけた。



忌まわしいシャーロットめ。どれだけ味方が居るんだ。早く明日にならないかな。あいつがみんなの前で、みじめったらしく死ぬところが早く見たい!



「エミリー、待たせたね!さあ、僕達の婚約記念のお祝いをしよう」



僕がそう言った時だった。国中を物凄い光が包み込んだ!何なんだこの光は…



パリーン


ん?今何か割れる音が聞こえた。


しばらくすると光は落ち着いた。




「リアム様、何なんですか、あの光は?」


エミリーが僕にすり寄ってくる。ものすごい嫌悪感が体中を襲った。


「離せ!」


とっさにエミリーを突き飛ばした。僕は、一体何をしていたんだ。そうだ…シャーロット、僕が心から愛していたのは、ここに居る女じゃない。シャーロットだ!シャーロット!



僕はすぐにシャーロットが捕らえられている地下牢へと向かう。シャーロット、僕は一体何をしていたんだ!愛するシャーロットをあんなひどい目に遭わせるなんて。



地下牢に向かうと、看守が倒れていた。急いで地下牢の中を覗くと、そこにいるはずのシャーロットの姿がどこにもない。



「おい、シャーロットはどうしたんだ?」


すぐに看守を叩き起こし、確認する。


「申し訳ございません、あの女、魔力を開放した様で…」



「何だって、おい、シャーロットの事をあの女呼ばわりするな!すぐに魔術師を呼べ、地下牢を調べろ」



僕は看守に指示を出す。



「リアム様、一体どうされたのですか?」


僕の後を付いてきたエミリー。この女が何かしたに違いない。僕は怒りに震える!



「この女をすぐに別の地下牢へ入れろ!後、男爵家も徹底的に調べ上げろ!」



「どうして、何で私が地下牢に!リアム様」



僕の指示で、護衛騎士たちがあの女を地下牢へと押し入れた。


そして、調査の結果、男爵家から禁断魔法でもある魅了魔法と呪いの魔法を使った証拠が出てきた。さらに、男爵家に雇われた魔術師も捕まえた。





僕が母上に渡した黒いネックレスは、どうやら呪いの魔法がかけられたものだったらしい。僕は、自らの手で母上までも殺そうとしたのか…




そして、シャーロットが居た地下牢も、魔術師によって徹底的に調べ上げられた。



「殿下、報告いたします。シャーロット様は全ての魔力を開放したと思われます。シャーロット様の腕に付けられていた魔力無力化リングも、粉々に砕けておりました。こんなことは申し上げにくいのですが…シャーロット様はもう、この世には…」



「うるさい!そんな話は聞きたくない!シャーロットが死んだと言うなら、遺体はどこにあるんだ!どうして遺体すら無くなっているんだ。シャーロットは絶対どこかで生きている。とにかく探せ!世界中回ってでも、シャーロットを探し出すんだ」



そうだ、シャーロットが死ぬなんて考えられない。きっとどこかで生きているはずだ。


僕が唯一心から愛したシャーロット。どうか、どこかで生きていておくれ!


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