第3話 フェミニア王国の国王陛下はとても若い男性でした

フェミニア王国で目覚めた私は、美味しいご飯と睡眠のおかげで、順調に魔力が回復している。そう、フェミニア王国の食事は毎日見たこともない、お米料理が沢山出るのだ。


そもそもゾマー帝国にはお米という物が存在しない。主食はパンだ。でも、このお米、とてもおいしくてどんな料理にも合う。そしてフェミニア王国の料理には、魚や貝と呼ばれる、海でとれる食材が多く使われている。


これも初めて食べるが、とても美味しい。毎日何もせず食べるか寝るだけの日々に、申し訳なく感じるが、優しいオルビア様は「気にしないで」と言ってくれる。


ついつい私もその言葉に甘えてしまうのだが…


そんな日々も今日で5日目を迎えた。


「シャーロット様、ご機嫌はいかがですか?」


そうそう、オルビア様が私に専属のメイドまで付けてくれた。伯爵令嬢のフェアラ様だ。彼女はオルビア様と同じ18歳で、学院からのお友達だそうだ。彼女もまた、とても親切にしてくれる。



「フェアラ様、いつもありがとうございます。今日はとても体調が良くて」


「シャーロット様、私はメイドです。様はいらないと何度も申し上げたでしょう?」


そうは言っても、私は居候の身。それもお父様から勘当されたから爵位もない。ただのシャーロットなのだ。


困惑する私に気づいたのか


「まあ、シャーロット様がそう呼びたいなら良いですよ」


ついにフェアラ様から許可が下りた。


「ありがとうございます。フェアラ様!」


私はフェアラ様に微笑みかける。少し頬を赤くしたフェアラ様が、「コホン」と咳払いをして、また話し始めた。



「随分と体調も良いみたいなので、今日は国王陛下に会っていただきますが、よろしいですか?」



「ええ、もちろんです。私も国王陛下に会って直接お礼を言いたいと思っていたの。嬉しいわ!やっと会えるのね」


「それは良かったです。では、早速陛下に会うための準備に取り掛かりましょう。まずは湯あみから」


フェアラ様はそう言うと、私を浴室に連れて行ってくれた。恥ずかしながら、ずっと公爵令嬢として育ったため、1人で体が洗えない…


「あなた、本当は高貴な身分の貴族なんでしょう?こんなことも出来ないなんて、おかしいわ」


と、ここに来たばかりの頃言われたが、私は頑なにただのシャーロットだと言い張った。私があまりに必死に訴えるので、彼女もそれ以上は聞いてこなかった。とにかく今はまだ私の正体を話したくない…


話して皆に嫌われたら嫌だし。


湯あみを手伝ってもらい、奇麗なドレスを着せられる。久しぶりにこんな豪華なドレスを着るわ。エミリー様が現れて以来、ほとんどドレスも取り上げられてしまったからね。


髪もハーフアップにしてもらった。


「あの、こんなことを申し上げたら失礼かもしれませんが、あなたはどこかの国の妖精かなにかですか?」


え?フェアラ様が突拍子もないことを言い出した。


「妖精?フェアラ様、一体どうしてしまったの?」


「ごめんなさい。あまりにもお美しいのでつい…」


頬を赤らめたフェアラ様。一体何なんだろう…


コンコン


「シャーロット、準備は出来た?あらまあ、美しいとは思ったけれど、あなた本当に女神様みたいに奇麗ね!」


私の部屋にやって来たオルビア様もまた、変なことを言っている。今度は女神か…


「さあ、シャーロット。行きましょう!お兄様も待っているわ」


「えっ、国王陛下を待たせているのですか。それはいけません。オルビア様、急ぎましょう!」


私はオルビア様の手を取り、急いで部屋から出るが…


今日初めて部屋の外へ出る私は、どっちに行っていいのかわからない。


「シャーロット、お兄様は心が広いから多少待たせても大丈夫よ」


クスクス笑うオルビア様。いけないわ、先走ってしまったようね。


護衛騎士たちに案内され、オルビア様と一緒に国王陛下の待つ部屋へと向かう。


なぜか騎士たちが私の方をちらちら見ている。なんだか顔が赤い気がするけれど、熱でもあるのかしら?熱があるなら私の治癒魔法で簡単に治せるわ。


そう思って、オルビア様に騎士の事を話したのだが…


「ああ、あれは熱じゃないから大丈夫よ!それにしても、男ってイヤね。本当に」


と、なぜか騎士たちをジト目で睨んでいる。


あれ?私、何かいけない事を言ったかしら!


「こちらで少々お待ちください」


立派な扉の前で立ち止まると、護衛騎士が先に中に入っていった。どうやら陛下に中に入っていいか確認をしているようだ。


「お待たせいたしました。中へどうぞ」


先にお部屋に入っていくオルビア様に続いて、私も中に入る。


中には若い男性が2人待っていた。


1人は青い髪に金色の瞳をした美しい男性だ。年は、20歳前後ってところかしら。もう一人は金色の髪に緑色の瞳をしている。こちらも20歳前後ってところね。あれ?国王陛下は?


辺りを見渡しても陛下らしき年配(失礼)の男性は見当たらない!


それに2人とも口をポカンと開けて私を見ているわ。顔も赤いし。私の恰好、どこか変だったかしら。


私は服装をチェックするが、特に変わったところはない。一体どうしたのかしら?


「お兄様、アルテミルも。いつまで固まっているの!シャーロットが来ているのよ。失礼でしょ!」


オルビア様の言葉で、ハッとしたのか青い髪の男性がこっちに近づいてきた。


「挨拶が遅れてすまない。私はこの国の国王でオルビアの兄、アイラン・ロス・ファミニアだ」


えっ!この若くてかっこいい男性が国王なの。ゾマー帝国やその近隣諸国は、大体国王と言うと30~50歳くらいの男性が一般的。どう見ても20歳そこそこよね。ちょっと若すぎない?


て、いけない。私も挨拶をしないと。


「こちらこそ、助けていただきありがとうございます。国王陛下。私はゾマー帝国より参りました、シャーロットと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」


もう無駄になってしまったが、王妃教育で培った渾身のカーテシーを決める。


あれ?国王陛下、また真っ赤な顔をして固まってしまったけれど、大丈夫なのかしら?


「ごめんね。シャーロットちゃん。こいつあんまり女になれてなくてさ。俺はプライス公爵家の嫡男で、騎士団長をしているアルテミル・プライスだ。それにしてもめちゃくちゃ奇麗な顔をしているね。アイランが固まるのもわかるよ。そうだ、シャーロットちゃんは魔法が使えるって、オルビアに聞いたんだけれど、何か使ってみてよ」



なるほど、こちらの少し軽そうな男性は、公爵令息で騎士団長をしているのね。でも、彼も若いのに騎士団長だなんて、この国は随分若い人たちが活躍しているのね。


「ちょっと、アルテミル、シャーロットが困っているでしょ。もう!」


怒るオルビア様にアルテミル様が「ごめん、ごめん」と言いながら、オルビア様の頭を撫で、さらに腰に手を回したわ。もしかして…


「あの、間違っていたら申し訳ございません。お2人は、婚約者同士なのですか?」


「婚約は訳あってしていないのだけれど、一応恋人同士なの…」



恥ずかしそうに答えるオルビア様。そうなのね。どんな訳があるのかわからないけれど、幸せそうで羨ましいわ。


「もう、お兄様、いつまで固まっているのよ。しっかりしなさい!ごめんねシャーロット。いつもはしっかりしているのだけれど、今日はちょっとおかしいみたい」


おかしい?もしかして病気とかかしら?


「あの、陛下。もし体調がすぐれないのでしたら、私が治癒魔法をおかけいたしますが」


陛下に声をかけると、真っ赤な顔をした陛下が

「病気ではない。すまない。気にしないでくれ」

と、なぜか慌てだした。


少し変わった人だけれど、良い人そうで良かったわ。そうだ、私、陛下にお願いしなければいけない事があったのだった。


「あの、国王陛下、お願いがあるのですが?」



「なんだい?なんでも言ってもらって大丈夫だ」


「あの、出来ればしばらくこの国に滞在したいのですが、よろしいでしょうか?もちろん、王宮においてほしいなんて図々しいことは言いません。後、どこか仕事を紹介してもらえると助かります」


そう、私はゾマー帝国を身一つで出てきた。他に身寄りがない。だからできればこの国で、しばらく暮らしたいと考えたのだ。



「仕事だと!君は大切なお客さんだ!働く必要はない。それに、君が居たいだけ居てくれてもいい」



「さすがに働かずにお世話になる訳には…」



「そんなことは気にしなくてもいい!そうだ、オルビアの話し相手になってやってくれないか?あいつはああ見えて寂しがり屋なんだ」



「ちょっとお兄様、誰が寂しがりやよ!でも、シャーロットが私の側に居てくれると嬉しいわ。ぜひそうして頂戴」



オルビア様も同意しているし、お言葉に甘えてもいいのかな。まあ、もし私の魔力が必要になるときが来たら、その時恩返しすればいいか!



「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてお世話になります」


私は2人に頭を下げる。


よし、これでしばらくは安定した生活が出来そうね!


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