第78話 魔王を倒した褒美が貰えるそうです
皆にカミングアウトした次の日、私はニッチェル伯爵家に向かった。どうしてもリリーに話したいことがあったからだ。
「リリー突然来てごめんね」
「いいのよ、学院も学期末で休みだし、ちょうど暇していたところだから」
突然来た私をリリーは喜んで迎えてくれた。
「実はね。私、魔力を使い果たした時、生と死の狭間にある洞窟に居たの。そこでマリアに会ったわ」
「えっ、マリア様に!」
私の言葉を聞き、目を丸くするリリー。
「マリアと色々話したわ。マリアはね、自分の事を話すといつか私たちに助けを求めてしまうかもしれない、その時、私たちの家族まで被害が及ぶかもしれないと思っていたんだって」
「じゃあ、自分の話をあまりしなかったのって、私たちの為?」
リリーの言葉に、私は静かにうなずいた。
「マリア様…」
「後ね、別れる間際にマリアがね、こう言ったの“もし次に生まれ変わることがあったら、また私と友達になってくれるかしら?”てね、だから私、”もちろん”て答えたわ」
私の言葉を聞いて、泣き出すリリー。
「マリア様、私も!私も絶対次生まれ変わった時も、友達になるから。絶対になるからね」
泣きながら叫ぶリリーの背中をさする。リリーもきっとマリアの事をずっと気にしていたのだろう。今日きちんと話せてよかったわ。
マリアの話が終わると、私は帰り支度を始めた。
「エイリーン様、もう帰ってしまうの?もっとゆっくりして行って!」
「ごめんね、リリー。実は王妃様に呼ばれているの。今から王宮に行く予定なのよ」
私が目覚めたことを知った王妃様から、呼び出しがかかったのだ。私の事を物凄くかわいがってくれている王妃様。もしかしたら、また叱られるのかしら。今まで沢山の人に叱られてきたけれど、こればっかりは慣れないわね。
リリーに別れを告げ、重い足取りで王宮へと向かう。気が重い時ってすぐに目的地に着くものよね。もう着いてしまったわ。
すぐにメイドに王妃様の待つ部屋へと案内された。
「エイリーンちゃん。よく来てくれたわね。さあ、座って。とっておきのお茶とお菓子を準備したのよ」
私の顔を見ると、嬉しそうに出迎えてくれる王妃様。この後叱られるのかしら?私は王妃様に促されて席に着いた。
「エイリーンちゃん、魔王討伐お疲れ様。それと…カルロを守ってくれてありがとう。カルロは王子でしょ。だから、今回の討伐参加は絶対条件だったの。
正直言うとね。カルロには魔王討伐になんて行ってほしくなかったの。過去にも沢山の王子たちが、魔王討伐に参加して命を落としてきたわ。それくらい、魔王討伐は危険なの!そんなところに、誰が息子を行かせたいものですか!でも、私は王妃。笑顔でカルロを送り出さないといけなかったの」
王妃様は遠くを見つめた。
「正直ね。あなたが魔王討伐に参加すると聞いたとき、こんな事を言っては怒られるかもしれないけれど、凄く嬉しかったのよ。カルロにとってあなたは、誰よりも大切で必要な存在でしょ。万が一カルロが命を落としたとしても、エイリーンちゃんが見届けてくれたら、きっとカルロも報われるんじゃないかってね…」
「王妃様…」
「でも、心のどこかで、何が何でも生きて帰ってきてほしいって、ずっと願っていたの。そしたら、私の願い通り生きて帰ってきてくれた。私ね、初めてあの子を思いっきり抱きしめたわ。いつの間にか私より大きくなっていたあの子をね」
王妃様も1人の母親。きっと辛い思いでカルロ様の帰りを待っていたのだろう。そう思うと、なんだか胸が締め付けられる。
「話を聞くと、エイリーンちゃんが命を懸けて、カルロを助けてくれたって聞いてね。本当に嬉しかったの。エイリーンちゃんが私の大切な息子を、私の元に戻してくれた!あなたは私とカルロの命の恩人よ!本当にありがとう」
王妃様は深々と頭を下げた。
「王妃様、頭をあげてください。私は、カルロ様を守るために、魔王討伐に参加したんです。だから、自分の使命を果たしただけなんです」
「ありがとう、エイリーンちゃん。ちょっと頼りなくて嫉妬深い息子だけれど、これからもどうかよろしくお願いします」
再び王妃様が頭を下げた。
「王妃様、本当に頭をあげてください」
焦る私。それを見た王妃様が、おかしそうに笑った。
その時。
「エイリーンおねえちゃま!」
ソフィア王女が嬉しそうに私目掛けて走ってくる。そして思いっきり抱き付いてきた。相変わらず可愛いわ!!
「エイリーンおねえちゃまがねむったままってきいて、ソフィアすごくしんぱいしたのよ。でも、げんきになったのね。」
ギューっと抱き付くソフィア王女。
「ソフィア、今エイリーンちゃんと大事な話をしているのよ。あっちに行っていなさい」
「いやよ。おかあさまだけずるい。ソフィアもエイリーンおねえちゃまとおはなしする!」
そう言うと、ソフィア王女は私の膝の上に座った。
「王妃様さえよければ、3人でお茶にしませんか?」
私の提案に、申し訳なさそうにうなずく王妃様。膝の上では「やったー」と、嬉しそうに笑うソフィア様がいた。
その後、3人で楽しいティータイムの時間を過ごした。
そして魔王討伐から1週間後、私とエイドリアンは王宮に呼ばれた。広間に向かうと、カルロ様、フェルナンド殿下、リリーがいた。後の方には各騎士団長、副騎士団長、第2騎士団一同も来ていた。その中には、カロイド様の姿もある。良かったわ、無事だったのね。
しばらくすると、国王陛下と王妃様、お父様が入ってきた。
「今日はよく来てくれたな。皆の働き、本当に素晴らしかった。そこで私から何か褒美を与えようと思っている。今日はその中でも特に頑張ってくれた、カルロ・フェルナンド・リリー・エイリーン・第2騎士団長のエイドリアンの5人の要望を聞こう!何でもいい!何がいいかな?」
褒美か。そう言えばお父様がそんなような事を言っていたな。
「陛下、私はエイリーンとの結婚を早めていただきたいです!できれば、今すぐにでも結婚したいので!」
一番最初に口にしたのはカルロ様だ。私との結婚を早めるって、まだ学生だから厳しいよね。
「却下だ!他に何か褒美が決まっているものはいるか?」
軽くあしらわれるカルロ様。
「さっき何でもいいって言ったの、父上なのに…」
小さな声で不満を漏らすカルロ様。そもそも王太子の結婚式は国を挙げて盛大に行うもの。準備を考えると、普通に無理よね。
「私は国外に遊びに行きたいわ。もちろん、エイリーン様とフェルナンド様も一緒に」
次に口を開いたのはリリーだ。
「却下だ!君は聖女だから、国から出ることは出来ん」
やっぱりね…
「それなら、王都で今大人気のお店、レ・セレーネに1年間好きなタイミングで食事に行けると言うのはどう?これなら大丈夫でしょう?」
リリー、あなたあのお店凄く気に入っていたものね。でもさすがに陛下にタメ口はダメよね…
「わかった。それなら良いだろう」
「ヤッター、エイリーン様、早速今度行きましょうね!」
めちゃくちゃ嬉しそうなリリー。私も笑顔で頷く。
「エイリーン、君は何が欲しいのだ!今回の一番の立役者と言っても過言ではない。遠慮なく言うがいい!」
陛下、急に振られても。とにかく何か言わないとね。ふと周りを見渡すと、第2騎士団の中には、怪我をしている人も多くいるのが目に付いた。そう言えばエイドリアンが言っていたわ。魔王討伐団として戦った第2騎士団は、特にけが人や死者が多かったって。そうだわ!
「国王陛下、今回の戦いで、多くの騎士団員が命を落としたり怪我をしました。民の間では、魔族に家を壊された者もいると聞きます。私の褒美は、彼らの補填に充てていただきたいです。私も私の家族も幸い怪我もなく元気です。だから私自身は、何も必要ありません。その分を、この戦いで傷ついた人達に、どうか補填してください」
大好きなカルロ様も守れた、エイドリアンやリリー、フェルナンド殿下も元気だし。これ以上何か望んだら、バチが当たるわ!
「ハハハハハハ、エイリーン、君はどれだけ株をあげれば気が済むんだ。そんなことを言ったら、今いる騎士団たちによって、一気に街中に広められるぞ」
えっ?何それ?そっと騎士団の方を見ると、皆満面の笑みで頷いている。
「でも、エイリーンの気持ちはよく分かった。ではそうさせてもらおう。他の者はどうする?」
陛下の呼びかけに対し
「じゃあ、僕も」「それなら俺も」と、カルロ様、フェルナンド殿下、エイドリアンも賛同する。
「ならばとりあえず、お前たちの褒美は決まったな。残りの者たちの褒美は後日聞くことにしよう。では、今日はここまでだ」
そう言うと、陛下と王妃様、お父様は去って行った。
「さすがエイリーン様ですわ。民の事を考えるなんて!それに比べ、王太子のカルロ殿下は」
リリーがカルロ様をジト目で見つめている。
「君だって聖女のくせに、自分の希望ばかり言っていたじゃないか!大体僕達はエイリーンに賛同したのに、君だけは自分の主張を曲げなかったね。普通あそこで、“私も”とかいうだろ!本当に図々しいな、君は!」
「なんですって!」
「やめろ2人とも。しばらく喧嘩しなくなったと思っていたのに、最近酷いぞ!」
フェルナンド殿下に怒られて、シュンとする2人。相変わらずね。
ちなみに国王陛下は、私の要望をすぐに聞き入れてくれ、怪我をした騎士たちの生活費の工面、亡くなった騎士の遺族に対する補填、家などを壊された民たちへの保障を速やかに行ってくれた。これで少しは民たちの生活も安定するわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。