第76話 やっぱり我が家は落ち着きます

意識を取り戻した私は、カルロ様に抱っこされ、王宮で準備された馬車へと乗り込んだ。馬車は2台準備されており、もう1つの馬車には、フェルナンド殿下に抱っこされたリリーが乗り込む。



どうやら私たちの為に急遽馬車が準備されたようだ。カルロ様の話によると、魔力を使い果たした私を、リリーが聖女の力で助けてくれたらしい。リリーには後でお礼を言わなきゃね。




「それにしてもエイリーン、魔力を全て使い切るなんて。本当に死んでしまったかと思ったんだぞ。二度とあんなことはしないでくれ!!」




「はい、ごめんなさい」




私は馬車の中で、カルロ様からお叱りを受けた。まあ、仕方がないことだが。ただありがたかったのは、魔力をほぼ使い果たしていた私。馬車に乗ってすぐに、再び意識を飛ばしたことだ。




そのおかげで、一言怒られたところで終わった。私の体って意外と空気が読めるのね。そして、次に目が覚めた時は、懐かしい天井が目に入った。




そう、公爵家の私の部屋だ。




「お嬢様、お目覚めになったのですね?」




部屋でずっと待機していたアンナに、思いっきり抱きしめられた。




「お嬢様、今回の件、殿下から聞きました!なんてご無理をなさったのですか?助かったから良かったものを!本来なら命を落としていたのですよ!」




「はい、ごめんなさい」


アンナからも叱られてしまった。この感じだと、間違いなくお父様とお母様、エイドリアンからも叱られるだろう。




まあ、私が悪いんだけれどね…




「すぐに旦那様と奥様、お坊ちゃまを呼んでまいりますね」




「待ってアンナ、ちなみに私、どれくらい眠っていたのかしら?」


走って皆を呼びに行こうとしたアンナを引き留めて、気になったことを聞いてみる。




「丸3日でございます。では、一旦失礼いたします」




3日も眠っていたのね!でもそのおかげで、体はすっかり元気になったわ。



バタバタバタ



バーーン



「エイリーン、やっと目覚めたのね」


お母様とお父様に抱きしめられた。後ろではエイドリアンが安心した顔をしている。




「あなたって子は、魔力を使い果たすなんて何を考えているの!」




「そうだぞエイリーン、もうこれからは魔力量アップの訓練は禁止する!いいな?」




「魔族がいなくなって、慌てて洞窟へ行ったら、エイリーンが目を覚まさないって泣きじゃくるニッチェル嬢とカルロ殿下を見て本当にびっくりしたよ。殿下の腕の中のエイリーンは、青白い顔で口からは血を流していたし、本当に生きた心地がしなかったんだからな!」




「はい、ごめんなさい」


3人にまとめて叱られた。一気に終わってラッキーという心の声は、黙っておこう!お父様から魔力量アップの訓練禁止令が出たが、もう魔力を高める必要もないから別に痛くもかゆくもない。でもきっと私に対するバツなのだと思うから、こちらも黙っておこう。




「とにかく目が覚めてよかったわ」


涙ぐむお母様に再び抱きしめられた。本当に、生きて戻ってこれて良かった。




「そうだわ、エイリーン。お腹空いてるでしょ。ちょうどお昼の時間だから、すぐに食事にしましょう。」




確かに丸3日何も食べていない。お腹ペコペコだわ。今はお昼?




「お父様、王宮にお仕事に行かなくていいの?」




「ああ、魔王が封印されたから、1週間休みをもらったんだ。そうだ、今回討伐に参加した者には、陛下から褒美が出ることになっている。特にエイリーンやエイドリアンには、凄い褒美があるぞ。きっと」




お父様が私たちに向かってウインクをする。




「後1ヶ月後に、魔王封印のお祝いが行われる。今回魔王封印に貢献した第2騎士団初め、カルロ殿下・フェルナンド殿下・聖女のリリー嬢、そしてエイリーン。君たちが主役だ。パレードもあるから、しっかり準備をしておくんだぞ」




「私もそのパレードに出るの?」




「当たり前でしょ!今回の件で、あなたの素晴らしい活躍が噂になっているのよ。カルロ殿下の為に命を懸けて戦ったこと。魔力不足で命の危機に瀕していたカロイド第2副騎士団長の様子にいち早く気づき、休ませたことなどなど。今回洞窟に同行した第2騎士団たちが、色々と話を広めているようなの」




「それって守秘義務違反なんじゃ…」




本来騎士たちは、貴族や王族の事で、自分たちが見たり聞いたりしたことを人に話してはいけないことになっている。もし破ると、厳しく罰せられるらしい。




「その件なんだけれどね。報告を受けた王妃様が、ぜひエイリーンの活躍を皆に広めてほしいと騎士たちに話したそうよ。それで騎士たちが、喜んで噂を広めたって訳」




「なるほど、そんなことが起きていたのね…」




「命を懸けて婚約者を守ったエイリーンは、今や女性の鑑として全国民から崇められているくらいよ」


笑いながら話すお母様。崇められるって…




「だからと言って、今回の事は決して褒められたことじゃないからな!二度とこのようなことはしてはいけないよ!分かったね、エイリーン」




「はい、お父様!」


また叱られてしまった。でも、魔王を倒したのは聖女のリリーなのに、何で私の方が有名になっているのかしら?なんだかリリーに申し訳ないわね…




「いけない、つい話し込んでしまったわね。エイリーン、立てる?みんなでお昼ご飯にしましょう」


お母様の言葉で、食卓に向かう。3日間ずっと眠っていた私の為に、消化が良く栄養たっぷりの野菜スープが準備されていた。




「エイリーン、食べられそうならパンも食べなさい」




お母様が焼きたてのパンを勧めてくれる。久しぶりに家族4人で食べる食事。私、本当に生きて戻ってこれたのね。そう実感する瞬間でもあった。




家族団らんの食事を終え、4人でティータイムをしている時、カルロ様・フェルナンド様・リリーが訪ねて来た。




どうやら私が目覚めたことを知って、すぐに様子を見に来てくれたようだ。





「エイリーン、やっと目が覚めたんだね。良かったよ。それにしても、今回の件、まだ僕は怒っているんだよ。二度とあんなことはして欲しくない!わかっている?エイリーン!」




「本当ですよ!こんな器の小さな男の為に命を懸けるなんて、今後絶対やめてください」



来てすぐにカルロ様とリリーに叱られた。



「はい、ごめんなさい」



本日3回目になるごめんなさいを言った。




「ニッチェル嬢、器の小さい男とは相変わらず失礼だね」




「あら、本当の事でしょ」


久しぶりに始まった。2人の喧嘩。フェルナンド殿下、いつも通り止めてください。私がフェルナンド殿下に目配せしたのだが…




「器が小さいとかそんなことはどうでもいい!エイリーン嬢、君は本当に何を考えているんだ!もっと自分を大切にしないといけないよ!」




まさかのフェルナンド殿下にも叱られてしまった。




「はい、ごめんなさい」


本日4度目ね。カルロ様とリリーもまさかフェルナンド殿下が怒るとは思っていなかったようで、目を丸くしている。



「まあ、元気そうでよかったよ」



「そうそう、エイリーン様、ヒロインって一体何ですか?」







~あとがき~

ー魔王が封印された後の民たちの話ー


「魔王が無事封印されて良かった!これでまた安心して暮らせるな!」


「おい、聞いたか。王太子殿下の婚約者、エイリーン様の話」



「もちろん聞いたわよ、自慢げに第2騎士団の連中が話していたもの。それにしてもエイリーン様は凄いわね。婚約者の殿下を守る為、全魔力を放出するなんて!もちろん、死を覚悟していたって聞くじゃない。中々出来ないわよ!」



「本当よね、それも魔力を放出する時、皆に被害が及ばないよう、バリア魔法もかけたって言うじゃない。凄い気配りよね」



「そうそう!カロイド様もエイリーン様に命を救われたって噂よ。魔力が尽きかけた時に、エイリーン様によって休まされたって聞いたわ」



「おい、それだけじゃないぞ。いち早く魔王を聖女が倒せるよう、大量の魔族が現れた洞窟から、フェルナンド殿下と聖女を逃がしたそうじゃないか!そのおかげで魔王が早く封印できたらしいぞ」



「そうだったの!さすがエイリーン様ね」



「護衛騎士の話では、本来エイリーン様は公爵令嬢だ。討伐メンバーには当初含まれていなかったらしい。それを本人が陛下に直談判したらしいぞ。自分の連れて行ってくれって!」



「それ本当?貴族は我先に安全な場所に逃げる者も多いのに!本当にエイリーン様は女神様だわ!」



「本当よ。女性の鏡!エイリーン様が王妃様になる頃には、さらにこの国も発展するんでしょうね」



「ねえ、知っている?魔王討伐に行く際のエイリーン様と王太子殿下の絵が売り出されているのよ。ほら、私買っちゃった!」



「私も欲しいわ。どこに売っていたの」



「「「「「私(俺)も」」」」



「市場に売っていたわ。凄い人気だから早く行かないと無くなるわよ!」


その話を聞き、急いで市場に行く民たち。



こうしてエイリーンは民から絶大な人気を得たのであった。

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