第17話 卵サンドを作ろう

カルロ様との婚約が内定してから、1年と数か月。ものすごく大変だった王妃教育にも慣れ、カルロ様とも随分仲良くなってきた。


1年以上毎日受け続けた王妃教育だったが、だいぶ覚えてきたということで今では週に2日お休みを貰えるようになったのだ。


そして、今は恒例のカルロ様とのティータイム。


「エイリーン、明日と明後日は王妃教育が休みの日だよね。僕も明後日は休みになったんだ。それで、2人でどこかへ行かないかい?」


「まあ、カルロ様とお出かけですか!ぜひ行きたいですわ!」


カルロ様と初めてのお出かけ、楽しみすぎる!ヤバい、ニヤニヤが止まらないわ。


そんな私に微笑むカルロ様。なんて尊いのかしら!


「ちなみにエイリーンは、どこか行きたいところはある?」


行きたいところか


う~ん、せっかくならカルロ様が喜んでくれるところがいいわね。


「私はカルロ様と出かけられるならどこでも嬉しいですわ。カルロ様こそどこか行きたいところは?」


「僕もエイリーンと出かけられるならどこでもいいよ」


う~ん、私は前世の記憶を思い返す。確かカルロ様は静かな場所が好きだったわね。


「ではピクニックなんていかがですか?」


「ピクニックか、それならぴったりの場所があるよ。王都の外れに小さな森があるんだ。そこにはきれいな湖もあってね。きっとエイリーンも気に入るよ」


「まあ、素敵ですわね。ではそこにしましょう」


初めてのお出かけはピクニックになった。家に帰った後も、カルロ様とのピクニックが楽しみすぎて、終始にやけっぱなしだ。


せっかくのピクニック。絶対カルロ様を楽しませたい。ピクニックと言えば、お弁当よね。料理長に頼んで美味しいお弁当を作ってもらうのもいいけれど、せっかくなら何か私が作りたいわ。


前世では一人暮らしをしていたこともあり、最低限の料理はできる。でも何を作ろうかしら。再び前世の記憶を思い出す。確かカルロ様はサンドウィッチがお好きなのよね。


ちなみにこの世界のサンドウィッチは、野菜やチーズ、ハムを挟んだだけのシンプルなもの。日本のようにカツサンドや卵サンドなどはない。



そうだわ、卵サンドを作りましょう。卵ならこの世界にもあるし。でもぶっつけ本番はちょっと心配ね。明日はお休みだし、料理長に調理場を借りて早速練習しよう。


私は明日に備え、早めに眠りについた。



早く寝たおかげか、翌朝は少し早めに目が覚めた。


家族で朝食をのんびり食べた後、私は早速厨房へと向かった。


「ちょっと厨房を貸りたいんだけど、いいかしら」


あまり厨房に顔を出さない私が現れたから、みんなびっくりしている。料理長がすぐに私のもとにやってきた。


「はい、ぜひこちらをお使いください、お嬢様」


そういって、一番広い場所を提供してくれた。


「ありがとう、後パンと卵を準備してほしいの。あるかしら?」


「もちろんありますよ」


そういいながら、料理長が近くにいた男性に指示し、すぐに準備してくれた。


私はまず準備してもらった卵を鍋に入れ、ゴトゴトと茹で始めた。


料理長も他の料理人たちも不思議そうな顔で見ている。


「あの、お嬢様、一体何を作っていらっしゃるのですか?」


「茹で卵よ」


「茹で卵?」


そうだった。この国では卵はお菓子に使うぐらいしか使用しないんだった。日本では色々な料理に使われていた卵。こんなにおいしいのに、もったいない話よね。


「そうよ、とっても美味しいのよ」


そうしている間に、卵が茹で上がった。今回は卵サンドにするので、少し硬めだ。


卵はたくさん茹でた。せっかくならみんなにも茹で卵を味見してもらおう。


「殻をむいて、塩をかけて食べるとおいしいのよ」


私は剥いた茹で卵に、塩を付けて食べてみる。


うん、おいしい。


「お嬢様がそうおっしゃるなら」


と意を決した料理長が口に含む。


それを他の料理人たちが固唾をのんで見守っていた。


「少しパサパサしますが、これはいけるな」


料理長の一言に他の料理人たちも、ゆで卵に手を取り食べ始めた。


「これはうまい」


「いけるなぁ」


口々にそんな声が聞こえてくる。


あっという間に茹で卵が無くなってしまった。


これでは卵サンドが作れないわ。


もう一度卵を茹でなおし、全ての殻をむく。


料理長も料理人たちも興味津々で私の作業を見守っていた。


黄身と白身に分け、黄身はフォークで潰し白身はみじん切りにする。次はマヨネーズで和えるっと…


んっ!!マヨネーズがない。そうだ、この世界にはマヨネーズがないんだわ。マヨネーズが無い卵サンドなんて、卵サンドじゃない!


よし!マヨネーズも手作りだ。


前世で一度だけ作ったことがあるわ。確か卵黄に油を入れながら混ぜるのよね。


塩も入れるんだったかしら。前世の記憶を頼りに、マヨネーズを作り始める。途中料理人に手伝ってもらいながら混ぜ続け、何とかマヨネーズのようなものが完成。


恐る恐る味見をしてみると、うん!マヨネーズだ。


私が満足そうにしていると、料理長が訪ねてきた。


「お嬢様、それは一体何なのですか?」


「これは、マヨネーズよ。調味料の一種ね」


「マ・ヨネーズですか?少し味見させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、いいわよ。」


そういうと、料理長にマヨネーズを差し出した。


恐る恐る口にする料理長。


「これは、うまい!お嬢様は本当に素晴らしいお人だ。こんなおいしい調味料を生み出すなんて」


そういって料理長は感動していた。


他の料理人たちも次々に味見をしていく。


おいおい…混ぜるの大変だったんだから、全部食べないでよ…


そう思いながらも、他の料理人たちも口々に絶賛してくれるので、悪い気はしない。


味見タイムも終わり、忘れかけていた、卵サンドを作り始める。


黄身と白身を合わせ、その上からさっき作ったマヨネーズ、塩こしょうを入れる。


しっかり混ぜ合わせ、パンにはさんで食べやすい大きさに切ったら完成!


随分時間がかかったけれど、何とか出来上がったわ。


せっかくだからみんなに味見してもらおう。


「皆さん、よかったらコレ食べてみて。リラも食べて」


私は出来上がった卵サンドもみんなに配る。


「これは何ですか?」


「卵サンドよ」


「卵サンド…」


見たことない食べ物だからか、みんな警戒している。


やはり今回も料理長が先陣を切って食べてくれた。


「うまい、卵とマ・ヨネーズが良くパンに合っている。こんなうまい食べ物があるなんて!」


それを聞いた他の人たちもパクリと口に含む。


「確かにうまいな」


「お嬢様、とっても美味しいです!」


「マ・ヨネーズがうまさを引き立てている」


マヨネーズなんだけどね…


みんなからは高評価だけれど、果たしてカルロ様のお口に合うかしら…


そんなことを考えていると、背後から声をかけられた。


「エイリーンこんなところにいたんだ、厨房で何してるの?」


騎士団の訓練から帰ってきたエイドリアンだ。


よし、エイドリアンにも味見してもらおう。


「卵サンドを作ったの、エイドリアンも食べてみて」


「へ~、エイリーンが作ったんだ、なんだかよくわからないけど、ありがとう」


そういうとエイドリアンはパクっと卵サンドを口に含んだ。


「うまい!なにこれ!こんなおいしいの初めて食べたよ」


そういうと、残りの卵サンドも全て食べてしまった。

私1つも食べていないんだけど…


「お嬢様、もしよろしければマ・ヨネーズのレシピを教えていただきたいのですが」


何度も言うけど、マヨネーズなんだけどね。


まあいいわ、私はマヨネーズのレシピを簡単に紙に書き、料理長に渡した。


「ありがとうございます!!!」


料理長は大喜び。


とりあえず卵サンドはうまく作れたし。明日が楽しみだわ!


ちなみに、エイリーンが教えたマ・ヨネーズのレシピは、公爵家の料理人によって王都中に広がり、塩・コショウと並ぶアレクサンドル王国を代表する調味料の1つになった。





~あとがき~

エイリーンはその後も卵料理を次々と披露していき、そのレシピは公爵家の料理人によって王都中に広まった。


卵の消費量が増えたことで、お肉用に育てられる鶏が大半だった業界が一転、雌鶏の飼育が大幅に増え、養鶏産業が盛んになったとか…


ちなみに、フィーサー家の領地は家畜産業が盛んで、養鶏産業でさらに潤ったらしい。


「鶏は卵を毎日産むから、一度大きくなったら安定的に収入が得られるのよ!これで我が家が財政難に陥り、お父様が悪事に手を染めることもないかしら」

byエイリーン

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