残したもの

バブみ道日丿宮組

お題:過去の出会い 制限時間:15分

残したもの

 もしも今がないのならば、それはきっと過去ということになる。


「ねぇねぇまたアルバム見てるの?」

 首を傾げながら彼女が尋ねる。

「思い出だからね。色あせないように振り返るのさ」

「それって浮気じゃない? あたしって存在がいるのに昔の人達で心をいっぱいにするなんて」

 そういう考え方もあるのかと彼女を撫でる。

「浮気するほど僕に甲斐性はないよ。いつだって真剣さ」

「ふーん。この娘は女の子だよね? 初恋の人か恋人だったりしたの?」

 彼女が指差す場所には僕と女の子が手をつないでる写真があった。

「そういう出会いではあったかな。少なくとも今の僕がいるのは彼女との思い出があってこそだ」

 目を閉じれば記憶が戻ってくる。

 あの頃の調べ、色彩、あらゆるものが頭の中を巡る。

「やっぱ浮気じゃない」

「僕は昔しゃべることができなかったんだ。その要因をとってくれたのが彼女だった」

 そして。

「彼女はいなくなった」

「いなくなった? 引っ越しでもしたの?」

「違う」

 そう。彼女は引っ越したわけじゃない。

 どちらかといえば、消失だ。

 もう二度と手の届かない場所へといってしまった。

「泣きそうな顔してどうしたの?」

「なんでもない。ちょっと思い出しただけだよ、彼女の最後をね」

「そっか」

 彼女は何かを察したのかそれ以上あの娘の話をすることはなかった。

「アルバムもいいけどさ、今日は出かけない?」

「いいよ。君が進む道に僕という存在があるのなら」

 はいはいと彼女は僕の後ろへとまわる。

「バリアフリー化が進んでくれてあたしも楽だわ」

「車椅子は敬遠されがちだからね。僕としても街全体がそうなってると気が楽だ」

 あとは色合いとデザインで不可解な視線を浴びることもない。

 あの娘が残してくれた唯一のもの。それがこの車椅子。

「今日は海辺に行こうと思うの。花火大会の下見もしたいからね」

「どうせどこかのホテルになると思うけどな」

 こらっと彼女が頭を叩いた。

「じゃぁ行こう」

 あの娘はもうこの世界にはいないけれど、彼女が残してくれたものはある。


 今があるのならば、それはきっと未来に繋がるということだからーー。

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残したもの バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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