最終章 第28話

拓哉の声がして振り返ると……。


「こんばんは、雪夏ちゃん。」


軽部先輩が一緒に来ていた。

これは……。


「ちょっと四人でドライブ行こうか?」


拓哉がニヤリと笑った。


「ちょ、ゆ、雪夏、どうしよう?

怒ってるかな?」


苑香が焦っている。


「大丈夫だよ。

軽部先輩、何か顔が赤いけど……。」


「何で顔が赤いの?

怒ってる?」


「怒ってないでしょ?」


「あぁ……、もうどうしよう、同じ家に帰るんだよ?」


「そうね……。

仲直りしないとね。

いや、喧嘩していないね?」


「してないけどさ。」


何だかめちゃくちゃ気まずい。

でも……行くしかない。


「ごちそうさまでした!」


「ありがとうございました。」


そそくさとカフェを出ると、苑香が私の腕にしがみついている。


「苑香ちゃん、心配しなくて大丈夫だよ。」


「でも……。」


「とりあえず、車に乗って。

雪夏、前に乗って。

軽部と苑香ちゃんは後ろね。」


拓哉の車に四人で乗る。

本当にどうしたら良いか分からない。

拓哉は車を走らせて、近くの公園行くと駐車場の隅にとめた。


「あのさ、雪夏。」


「ん?」


呼ばれて、拓哉の方を向いたとたんにキスされそうに……。


「ちょ、二人が後ろにいるじゃん!」


「うん、知ってる。

そんなの関係ねーよ。

俺らが愛し合ってる所を見せつけてやろうぜ?」


「な、何それ?」


意味が分からない……と思った。

その時に拓哉が耳元で小さな声で、


「ゴメン、俺の言う通りにして。」


そう言った。

拓哉に考えがあるんだと思う。

恥ずかしいけど……。


「雪夏、愛してる。」


「わ……私も……。」


見つめ合うだけで凄い恥ずかしい。

体が震える。

でも拓哉に任せよう……。


「拓哉!

分かった分かった、もうやめろ!

雪夏ちゃんがかわいそうだ!」


軽部先輩が叫んだ。


「何で?」


「震えてるだろ!」


「分かってるよ。」


「分かってるなら、何で?!」


軽部先輩が私の為に怒っている。


「怒っちゃダメ……。」


「え?

苑香ちゃん?

何で?」


「私達の為にしてくれてるから。」


「え?」


「私……。

雪夏達がキスしそうになるの見て……。

私もキスしたいなって思った。」


「苑香ちゃん?」


軽部先輩が動揺している。


「軽部、お前はどうしたいんだよ?」


「どうしたいって……。」


「ちゃんと思ってる事を言えよ。」


「分かった……。」


軽部先輩は何を言うんだろう?


「俺、こういうの初めてで、そりゃ勉強はしたけど、何か苑香ちゃんに無理させていそうで。」


「え?」


「俺ばかり求めちゃうのも……とか、上手に出来るかなとか……。

苦しそうに見えて、何かそういう気分にならなくなって。」


「求めて欲しい……。」


「え?」


「求められない方が苦しいよ。」


「でも上手く出来る自信ないし。

この前も痛そうだったし。」


「あれは……もう少しソフトな方が良いと言うか……。」


「そうなの?」


「うん……。」


どうにもこうにも聞いてたらいけない話に思えて来た。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る