第3章 第19話
佐藤先輩の点滴が終わる前に、軽部先輩と苑香が来てくれた。
「雪夏!」
苑香が走って来た。
その姿を見た時、涙がポロポロと溢れて……。
「え?
何で?
どうしたの?」
「ごめん。
分からない……。」
「何かあったの?!」
「ちょっと……ね。」
私の中で緊張の糸がほどけたみたいになった。
「軽部先輩、ちょっと雪夏と二人で話してきていい?」
「あっちにカフェあるよ。」
「ありがとう!」
軽部先輩が指差した方に向かって、苑香と歩く。
小さなカフェがあった。
「胡桃ん家みたいに落ち着かないね。」
「うん。」
二人で『今日のオススメ』という珈琲を注文した。
「あぁ……美味しい。」
「うん。」
「どうした?」
私は佐藤先輩に言われた事を苑香に話した。
「あぁ……。
そうなんだ……。
そろそろ言ってもいいかな。」
「え?」
「女遊びしてたのは雪夏が忘れられなくて、悔しさと寂しさを埋めるみたいな?」
「え?」
「雪夏に好きな人が出来たって言われて、裏切られたような気分になったんだって。」
「……。」
「自分のそばに何があってもいてくれるって信じてたみたい。」
「……。」
「でもさ、余計に忘れられなくなっちゃったみたいね。
それでずっと雪夏の事を気にかけてた。
だから戻れない?って雪夏に思わず言っちゃった。」
「……。」
「本当に戻れない?」
「ごめん。
今は考えられない。」
「そうか。
じゃあ、仕方ないよ。
恋愛って一方通行じゃ成立しないもん。」
「うん……。」
そうか。
苑香に戻れない?って言われて喧嘩した事もあったんだっけ。
「あの時、ごめん。」
「え?」
「戻れないのって言われて怒っちゃって。」
「アハハ、覚えてたんだ?」
「うん……。」
「佐藤先輩が落ち込んでるのは、雪夏の嘘のせいって思うとね、嘘だから本当の事を言って、やり直して欲しいって思ってた。」
「……。」
「ごめん。
もっと丁寧に二人に気持ち伝えてたら良かったかな。」
「ううん。
私達がいけないんだよ。
私達の事なのに皆に心配かけたから。」
「雪夏……。」
「今は無理。
でも、ちゃんと自分で嘘だって言うから。」
「え?」
「だから、それまでごめん。」
「ううん。」
苑香が泣きそうなのに微笑むから、胸が締め付けられるような感じがした。
「苑香ちゃん!
拓哉、帰るって!
今晩、うちに泊めてもいい?」
軽部先輩がカフェに来た。
「うん。
でも私、お粥とか作れないかも?」
「俺が作るよ。
って、作った事無いけどな。」
「アハハ、ネットで調べよう?」
「ハハハ、そうだな!」
どうやら佐藤先輩は今晩は軽部先輩と苑香の家に泊まるらしい。
「雪夏ちゃん、そのまま家に帰る?」
「はい。」
「そっか。
送っていくよ。」
「いいんですか?」
「勿論。」
私達は四人で車に乗った。
私の家の前まで送ってもらう頃には、佐藤先輩は助手席で眠っていた。
起こすのは悪いから、
「ありがとうございます!」
小さな声でお礼を言って、車から降りた。
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