第3章 第16話
早番にやっと慣れて来た。
「ちょっと、今日も頼んでいい?」
毎日買い物に来てくれる、おばあさんがいる。
腰が曲がっていて、棚の上の方の物が取れなかったり、探すことも大変だと聞いた。
「いらっしゃいませ!
今日は何をお探しですか?」
「曾孫が来るんだけど、赤ちゃんが食べる白い御煎餅が欲しくてね。」
「なるほど。
大きいのと小さいのがあるんですけど、どうします?」
「あぁ……、本当だ。
小さいのにしようかな?」
とても軽いので持って帰るのも楽だと思う。
「あとね、綿棒はどこだったかしら?」
「綿棒はこちらですよ。
もっと細いのとか、湿った物は別の場所にあるんですけど、これで大丈夫ですか?」
「うん。
これでいい。
いつもありがとう。」
「こちらこそ。」
会計を追えたおばあさんが嬉しそうに帰って行く。
「随分、店員らしくなったじゃないか。」
背後から聞き覚えのある声がする。
「さ……佐藤先輩。」
「いらっしゃいませ!だろ?!」
「いらっしゃいませ……。」
「あのさ、喉に塗るヤツ、どこだっけ?」
佐藤先輩の声がかれている気がする。
「こちらです。
トローチも新商品入りました。
ブルーハワイ味って、何味ですかね?」
「俺に聞くなよ。
俺だって知りたい。」
「すみません……。」
「謝らなくていい。
俺って言い方キツイのか?」
「え?」
「いや、彼女に言われて、そんなら別れたら?って言ったら、水ぶっかけられた。」
「水?!」
「そう。
それで帰ったら風邪っぽくなっちまった。」
「拭かなかったの?」
「タオル持ってないし。」
「そうなんだ……。」
「ごめん、雪夏。
ちょっとクラっとする。」
佐藤先輩に腕を掴まれた。
「え?
病院行きなよ?!
家族は?」
「俺、一人暮らし。」
「ここまで、どうやって来たの?」
「歩いて。」
「じゃあ、軽部先輩呼ぼうか?」
「軽部、引越が何とかで休んでる。」
「じゃあ、奥で休んでて。
仕事終わったら一緒に病院行こう。」
「いいのか?
もう別れてるのに……。」
「ほっとけないでしょ。」
私は奥の部屋に佐藤先輩を連れて行った。
「雪夏ちゃん、どうしたの?
あっ、配送の……。」
「良子さん、すみませんが、ちょっと休ませてあげて下さい。
もうすぐ仕事上がるので、連れて帰りますから。」
「うん。
分かった。」
私は急いで仕事に戻ったけど、落ち着かなかった。
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