第2章 第35話

「小豆沢さん、どうぞ。」


本当に一番最後に呼ばれた。

周りにいた人は、皆、帰ってしまった。


「失礼します。」


緊張しながら部屋に入ると……。


「土田さん?!

え?

あの、具合大丈夫ですか?」


さっき会社に連れて来た土田さんが座っている。


「御心配なく。」


オジサンの隣に居たのは、一階に居た社員だった。


「本当は面接する必要無いよね?」


「まぁ……そうでしょうね。」


「でも面接するんだよね?

皆と同じ質問する?」


「そうですね、一応。」


土田さんと社員が私を無視するかのように話している。

その話が終わった後、社員が私を見て話し始めた。


「小豆沢さん。」


「はい。」


「うちの面接を受けようと思った理由は?」


「地域密着型で、子供の頃からお世話になっているドラッグストアさんだからです。

そのドラッグストアで、いつか友人の作った薬を売りたいです。」


「友人の作った薬?」


「はい。

友人は誰かの命を救うような薬を開発したいと言っています。

最近流行ってる病気とか、特効薬を作りたいんですって。

そんな友人の夢の詰まった薬を自信をもってオススメしたいです。」


「友達の為?」


「違います。

私も誰かの命を救いたいと思いつつ、勉強も苦手ですし、どうやったら誰かを救えるか考えました。

友達の為であり、私の為であり、この親しみのあるドラッグストアがいいなと。」


「いつも御利用いただいているんですか?」


「はい。

今日もスポーツドリンクを買いました。

この辺りでいつも安いし、お店の中も涼しくて。

あのテーマソングって言うんですか?

あれが好きで歌いながら買い物するんです……って、何か恥ずかしい話ですみません。」


面接って、こんなだっけ?

余計な事を喋りすぎたかな……。

すると土田さんが爆笑している。

それを見た社員が、


「お義父さん、面接中ですよ。」


そう言った。

え……?

お義父さん?


「ごめんごめん。

小豆沢さんはうちの社訓を知っている?」


「社訓ですか?

ごめんなさい、歌しか……。

誰にも優しい……って歌ってるので、そういう事でしょうか?」


「そうだね。

誰にも優しい。

老若男女、立場なんかも関係なく。

薬局には体の不自由な人や病気の人も来る。

もし目の前の人が苦しんでいたら?」


「声をかけます……。」


「うん、そういうの大事にしてる会社って事。

だから、君の事は面接なんてする必要ないよ。」


「え……?」


「さっき助けてもらって、どんな人か分かったから。

本当にありがとう。」


「はい。

どういたしまして。」


こういう時は良い方に捉えたらいいか、悪い方に捉えたらいいか……?


「それでは面接をおわります。」


「ありがとうございます。」


部屋から出ると、社員もすぐ後から出て来た。


「小豆沢さん。」


「はい。」


「私は土田の娘の夫で、同じく土田と言います。」


「あぁ……それで……。」


「あの人、二日酔いで外に出たらクラっとしちゃっただけなので。

こういう事はよくあるので、心配なさらずに。」


「そうなんですね。

でも心配ですね。

倒れたりしないといいですけど。」


「そうだね。

本当にお世話になりました。

あと、これ、スポーツドリンクが無かったので、レモネードなんですが、義父からのお礼なのでお持ち帰り下さい。」


「はい。

これってドラッグストアで売ってませんよね?

初めて見ました。」


「それ、今日発売の新商品です。」


「そうでしたか!

急いでいて、うっかり……。」


「良かったら味見して下さい。」


「分かりました。

ありがとうございました。」


こうして私の面接が終わった。




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