第2章 第28話

今日は文化祭一日目。

私と苑香は文化祭の前に、採用試験の応募を済ませていた。

特に勉強する事も無いから、文化祭は思いっきり楽しめそう。


「ちょっと……あれって佐藤先輩と軽部先輩じゃない?」


窓の外を見ていた胡桃が気付く。


「あっ、本当だ。」


何故か沢山の生徒に囲まれた二人の先輩。

だからって、私は関係無い。


「あのさ、ちょっといい?」


教室に他のクラスの男子が入って来て、私に話しかけた。


「はい?」


「ちょっと来て?」


「あっ、うん。」


この男子……。

えっと、一年の時に同じクラスだった柿澤かきざわ君だ。

結構カッコいいなとは思っていたけど、話した事は無い。


「あっ、ここの教室なら、ゆっくり話せそうだな。

入って。」


連れられて来たのは視聴覚室だった。

視聴覚室に入ったとたんに、柿澤君はドアの鍵を閉めた。

ちょっと怖い……。


「あのさ、今って付き合ってる人いるの?」


「いないよ。」


ちょっと離れて話す。

だけど、離れてても密室だ。


「じゃあ、俺と付き合ってくれないかな?」


「……。」


「ダメかな?」


「ごめんなさい、今はちょっと、答えを出せない……。」


「じゃあさ……。」


柿澤君が私に近付いて来る。


「あの……ちょっと近すぎないかな?」


「いいじゃん。」


私は後退りする。

そして、部屋の奥に追い込まれていた。


「なぁ、一回ヤらせろよ?」


「いやぁ……それは無理でしょ?」


「だって、お前、佐藤とヤっただろ?!」


「え?」


「初めてじゃないなら、いいじゃん?

痛くしないぜ?」


「イヤ!

良くない、無理!」


逃げようとする私を柿澤君が離さない。


「離して!」


「黙って、ヤらせてくれたらいいんだよ!」


柿澤君が私の腕を強い力で掴む。


「痛い、やめて!」


「うるせえよ!」


やめてって言っても、やめないのは分かってる。

私……このまま逃げられないのかな?って思った瞬間に、


「何やってるんだよ!」


その声と同時に廊下側の窓が開いた。

鍵が開いていたらしい。

その窓から視聴覚室に入って来たのは、同じクラスの伊納いのう君だった。

伊納君と言えば、真面目で喧嘩も弱そうなんだけど……。


「痛い痛い、やめてくれ!」


あっと言う間に伊納君が柿澤君を押さえつけていた。


「君だって、痛いって言う彼女から手を離さなかったじゃないか!」


「……。」


「もう彼女に近付くな!」


「……。」


「返事しろ!」


伊納君が怒っているのを初めて見た。


「いてて……。」


「これ以上やったら骨折するよ?

いいの?」


「分かった分かった、もう近付かない!」


「それは良かった。

じゃあ、彼女に謝って!」


「はぁ?」


「はぁ?……じゃない!

謝らないとマジで折る!」


「わ……分かりました。

すみませんでした!」


「うん。

じゃあ、職員室行こうか?」


「え?」


「君の学校推薦取り消しになるね、おめでとう。」


「マジ勘弁して!」


「いや、もう遅いよ。

さっきの暴言録音してあるから、証拠あるし、一緒に行かなくても終わりだけど?」


「……。」


「行くよね?」


「行きます……。」


伊納君が柿澤君を連れて、視聴覚室から出て行った。

伊納君がドアの鍵を開けたとたん、視聴覚室に秋奈が飛び込んで来た。


「雪夏!」


知らぬ間に腰が抜けて座り込んでいる私に秋奈が抱きついて来る。


「良かった……無事で……。」


秋奈が泣きそうな声を出す。

それで私も泣きそうになった。




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