幕間 俺と私の、無関心。
俺にとって、私にとって、他人とは他人でしかなかった。
誰かの喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。そんな物は自分にとって関係の無い物だと思っていた。
それでも、学生と言う身分が、共感性と呼ばれる物を育ませる為の環境へ連れて行ってしまう。
幼い頃、ただひたすらに泣き喚く子を見かけた。理由は知らなかったが、先生を呼ぶべきとだけ判断した。
泣く子の所へ向かう先生に連れていかれ、先生の対処によって泣き止んだ子が事の顛末を話した。
お姉さんの悪口を言った。言い返した。そしたらお母さんの悪口を言った。ついに、とうとう泣き出した。悪口を言ったという子は、直ぐに何処かへ去っていた。
それは悪い事だね、あとで私が叱っておくから、貴方のお姉さんは良い子よ。貴方のお母さんも素敵よ。
―――自分の悪口を言われても居ないのに、どうしてそこまで悲しむの?
先生の後ろで、何もせず眺めていた自分は、そう思った。
中学校になると、他人への無関心を、取り繕って隠す様になった。
他人が話しかけると、笑顔を自ら作って、相槌を打ち最低限の言葉を返す。
伝えたいことがある、教えてほしいことがある、やってほしい事がある。そんな時は笑顔で頷いて、行動に移す。
そしたら皆は、こう言うのだ。
私はそんな事言ってないよ。君は間違えてるよ。それは違うよ。
聞き違え、意味を取り違え、言葉の内に含まれていない意図を汲み取れず。そんなやり取りを繰り返した果てに……笑顔を被る事を止めた。
すると一年、二年もせぬ内に、皆は自分を理解して、踏み込まなくなった。
しかしある日、クラスの担任は妙に思ったのか、自分に事情を聞こうとする。虐められているのかと、意図的にグループから除外されているのかと。どうして人と関わろうとしないのか。
「別に虐められていませんよ。何かあったんですか?」
……幾つかのやり取りを経た後、放課後を迎えて帰宅する時に、担任の行動の理由をやっと理解した。
誰とも関わらず、意思疎通を必要以上にしない人というのは、周囲と比べて異常だという事を。
きっと、その人の心配事は、虐めや仲間外れ等では無いのだ。
他人に興味を持たず、共感せず、常に他人事として眺める私の生き方を……。担任は、そういうのを止めてほしかったんだろう。
確かに、これは心配される事かもしれない。担任という立場なら、そういう生き方をする生徒は見過ごせない。
けれど自分は、このやり方以外では上手くいかない。
……そうだ、これ以外に上手くいく方法が無いのだ。
自分だって、一人が大好きという訳ではない。時々寂しく思う事がある。今はまだ、寂しさを紛らわせる方法はあるけど、それでも、誤魔化しきれない時がある。
そういう時に、自分は思い出す。
昔、” ”が自分の傍へ寄り添ってくれたことを。孤独な夜を、孤独でなくした事を……。
そして自分は、自らの額に掌を宛がうのだ。
あの時、額に感じた” ”の体温を、思い出すために……。
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