短編アラカルト

冬月雨音

わが青春のまほろば駅

わが青春のまほろば駅_短編版

 数年前に発生したパンデミックによってJRの経営が厳しくなり、その余波をくらって無人駅と化した我が家の最寄り駅、まほろば駅。当時は中学生で自転車登校をしていた僕も今では高校生となって隣町まで毎日登校することになった都合、今では毎日使うようになっている。レールの廃材を利用した鉄骨と小さな木造のプレハブみたいな待合室、昔はこの小さな一部屋で駅員さんが切符を手売りしていたと思うとなにか感慨深いものがある。

 まほろば駅は無人駅だから列車に乗り込まなければ運賃は発生しない上に一応は幹線である以上、それなりの貨物列車が通過してゆくから暇つぶしとしてはちょうどよく、退屈になったら家から十分と少し歩いて駅で暇をつぶしていた。


 三連休の最初の日、何もない山の中の小さな村落に住んでいる以上何もやることもなく、とりあえずいつも通り駅のホームに通過する快速や貨物列車をただ眺めに行く。

 過去には駅員さんが手売りで切符を売っていたであろう待合室の小窓を横目にICカード用の簡易改札を通り過ぎて過去には長大な夜行列車も停車していた開放的な長いホームに出た瞬間、一陣の風が吹き流れ、僕の帽子を木造の屋根まで突き上げた。

 ついつい上に向かってしまった目が帽子は既に回収できない位置に行ってしまったことを認識すると同時に僕の視線はホーム下り方面、目の前を通過した貨物列車が去ってゆく方向に向かった。普段なら使われていない留置線、昔はここで機関車の交換が行われていたことを示す唯一の名残となったその線路に今日は珍しい機関車EF63があった。あまりにも珍しい機関車がいる、と思って軽率に近づいて運転台をのぞこうとした。小さな女の子がその運転台から足だけ出して涼んでいる姿が見えた瞬間、彼女と目が合った。

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