ユースティア戦史
篠月黎 / 神楽圭
序 人の心には鬼が棲む
人の心には鬼が棲んでいる。
昔々、鬼が現れた。鬼は、雷を轟かせ、地を割り、水で飲み、火で焼き尽くし、風で切り裂き、人々を襲った。
鬼から人々を守ったのは、古来から国を守っていた精霊だった。雷、地、水、火、風の精霊は、その力を使って次々と鬼を葬った。
しかし、鬼の脅威は、鬼そのものでなく、人の心を乗っ取ることができることにあった。鬼は、人々の心を乗っ取り、人を襲った。鬼に心を乗っ取られた人は、目を血走らせ、獣のように牙を剥き、鬼と同じ力を使った。人とは思えぬ姿と力を、人々は “まるで鬼のよう”だと言った。
精霊たちは、やがて戦いに疲れ、人々に自らの力を分け与えることにした。精霊の力を得た人々は鬼と戦い続けたが、精霊の力が弱い者や、力はあっても鬼に恐怖し、満足に戦うことができない者もいた。
そんな中、精霊の力を分け与えられた人々の中で、最もその力を大きく与えられた五人の者が、人々を集め、軍隊を組織した。組織は徐々に拡大し、あちらこちらへ遠征して人々を助けた。組織の人間が通るたびに、人々は、ひれ伏し、祈り、感謝するようになった。まるで、その組織が精霊そのものであるかのように。
やがて、五人は、自らの名に精霊の名を借り、
そして、その正義の組織を「ユースティア」と名付けた。
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