第40話:救出劇

 目の前でぴたりと閉じたマンホールにリリは手をかけると、一気に蓋をずらす。開けた瞬間に下水特有の悪臭に混じって、化学薬品臭が鼻についた。リリは真っ暗な下水道を覗き込むが、目を凝らしても下水の中は見ることが出来なかった。



(リリ、なにがあるかわからないから気をつけて)



「うん…」



 梯子に手をかけてゆっくりと闇の中を降りる。

手すりは滑り、一歩下へと降りる度に悪臭は強くなっていく。そして最後まで降り切ると足元は暗いものの、遠くにぼんやりと灯りが見える。その明かりに引き寄せられるように向かっていくと、いつの間にか足元は悪臭流れる下水道ではなく、硬い地面へと変わっていく。そして疎らに設置された照明が、薄暗くこの狭い通路を照らしていた。



(ここは)



 奏矢は思い出す。己が"改造手術"を受けた日のことを。そしてこの場所は、奏矢が改造手術を受けた直前の場所であるとも。

 胃などない奏矢であったが、人間であった頃の様にまるで胃の中のものが逆流するような気持ち悪さを感じていた。一方でリリは辺りを警戒しながらも奥へと進んでいく。



「…この声は」



 リリは通路の奥から鳴き声が響いているのに気がつく。足音を殺して奥へと向かうと、小さな扉からその声は漏れていた。



(…リリ、中から声が聞こえる。それにあの戦闘員シャドウの声も)



(うん、わかってる)




 リリは音も立てずに扉を開けると中を覗き込む。

そこには床に転がされた8人の男女―――ほとんどは見知った二宮を含むクラスメイトと、その前に立つ5人の戦闘員シャドウ。リリは手に銀の弓矢を生成すると、すぐさまそれを放つ。銀の矢は宙で5つに分かれて5体の戦闘員シャドウの喉元や額、胸を貫く。



「みんな、ここから逃げてっ!」



 リリは中に入ると、クラスメイトの1人を助け起こしながら拘束を解いていく。そして最後に1番奥に寝かされていた大人の拘束を解こうとしたときに、リリは驚きで思わず声を上げる。




「名瀬さん、どうしてここに…?」



「っ…あなた、誰? なんで、私の名前を」



「良いから、ここを出ましょう!」



 リリは未だ意識が朦朧とした名瀬に肩を貸すと、振り返ってこの部屋から出て行こうとする。だが、部屋の扉の前に通せんぼする形で白衣を着た女が立っていることに気がついた。そして扉を2回、ノックをする。



「あら、知らない顔ね〜。一体、何をしてるのかしら」



 そこに居たのはイズミ所長であった。

そしてリリへと視線を向けると、リリにニコリと微笑んだのだった。

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