悪の組織によって改造された俺は失敗作として廃棄され、魔法少女に寄生する
重弘茉莉
悪の組織に攫われて
第1話 プロローグ:悪の組織に攫われて
--身体の節々が痛む。
男は身体の痛みで意識が戻り、目を開ける前に本能から身体を動かそうとするが身体が物理的に縛られているために動くことはない。恐怖に駆られながら目を開けると、そこは薄暗い天井が広がるばかり。拘束を解こうと身体を捩り、何が自分の身に起こっているのか理解しようとする。
「はっ……はっ……」
左には湿った壁が、右にも同じように湿った壁が広がるのみ。視線を上に戻すと非常灯のような薄ぼんやりとした明かりが灯っていた。そしてなんとか首だけを自分の体に向けると、ストレッチャーに金属のチェーンでぐるぐるに固定されていた。
「なっ、なぁんだあっ!?」
焦って身体を揺するが金属のチェーンががちゃがちゃと音を立てるばかり。
「はっ……はっ……なんで、俺、どうして」
必死になって記憶を辿る。
思い出せるのは勤めていた工場からの帰り道で”何かが”道路に飛び出してきたせいで咄嗟にハンドルを切り、ガードレールが目の前に迫ってくるその直前。そこでぷっつりと記憶がなくなっていた。
(ここ、どうみても病院じゃ、ない。おかしい、何が、どうして)
まるでホラー映画の中に入り込んだかのようなこの状況。
なんとか逃げだそうとする男だが、何度藻掻いたところで結果は同じ。痛みと疲労から動けなくなる男の耳に、遠くからこつこつと靴音が近づいて来るのが聞こえてくる。その方向を目だけで見やると、少しして白衣を着た若い女が現れる。腰まである長い黒髪に、黒縁の眼鏡。白衣の下にはぱりっとした紺のスーツを着ていた。そしてその女は男の真横に立つと、落ち着かせるように口元に指を立てて『しぃー』と仕草をする。そこで少しだけ男は冷静になる。『まさか本当にホラー映画みたいにこの後殺されるわけがない、この拘束だって、もしかしたら意識のない自分が暴れたか何かで、それを押さえつけるためにしたのだろう』と。
「あ、あのすみません……ここは、どこですか? なんで俺はここに……?」
「……」
黒縁眼鏡女はニコニコと無言で微笑むばかり。
男は少しだけ不審に思いながらも言葉を続ける。
「あっ、俺は
「……」
無言のまま黒縁眼鏡女は男の足先にあるストレッチャーの手押し部に手を掛けるとゆくりとそのまま押し始める。
ここに来て奏矢はその女の異様さに恐怖を感じ始める。そして逃げだそうとあらん限りの力で身を捩り、叫ぶ。
「おいっ! ここはどこなんだ!!? これ、早く解けよっ!!! おいっ、アンタのこと警察に通報してやるからな!! おいっ、聞いてんのか!!!?」
暗い通路をストレッチャーに乗せられながら叫び喚く奏矢の横を、”蛇の顔”をした男が通り過ぎる。思わず奏矢は口を閉じてその蛇男をまじまじとみやる。首からは上は作り物とは思えぬほど精巧な蛇であり、首から下も鮮やかな鱗が光を鈍く緑色に光っていた。その蛇の取り巻くように真っ黒な、目も口もない人間が2人連れ立って歩いていく。
さらにその後ろを今度は蛾のような羽が生えて、胴体部に大きな目のついた生き物が続いて通り過ぎていく。もはや人間とは思えぬその異形たち、そしてその蛾人間を見て奏矢は思い出す。この場所に来る直前の事故で見た”何か”、それはあの蛾人間であったことを。
「おい、俺をどうする気だっ!? おいっ!!」
女は何も答えることはない。
そしてそのまま手術室そのままの場所へと運び込まれる。そこに居たのは先ほど自身を運んできた女と同じ姿をした女であった。違うところといえば、眼鏡が黒縁ではなく銀色であることぐらいであった。銀縁眼鏡女は目配せをすると、『はい、イズミ所長』と答えて奏矢を運んできた黒縁眼鏡女は奏矢の右腕のシャツを引き千切る。
「ひっ……! やめろ、やめてくれっ!!! こ、殺さないで、殺さないで!!」
「あ~、殺さないわよ?」
気怠そうに答えるイズミ。その手には蛍光色の液体が詰まった注射器が握られていた。
そして露わとなった奏矢の右腕に注射器の先が差し込まれ、蛍光色の液体が奏矢の体内へと注入される。
「ああああああぃいいあああっ!???」
「そうねぇ~、教えて上げる。ここは
「いったい、ふざけっ」
奏矢はイズミの言っている意味が分からなかった。
『怪人? シャドウ? 怪人ってさっき見た蛇とか蛾とかの化け物? シャドウってその目も口もわからない真っ黒な奴? は? は?』脳裏に色々なことが浮かんでは消えるが、すぐさまそんなことを考えている余裕はなくなる。身体中が沸騰するほど熱くなっていく。
「あっ!!? ががっがが!?」
「投与から13秒で反応、ね。少し反応が早いわねぇ~」
ぼこぼこと皮膚の下が蠢く。蠢きは右腕から始まり、そのまま胴体、首、ついには顔にまで浸食していく。
その時点で声帯までやられてしまい、奏矢は叫び声を上げることすらできなくなっていた。
「~~!?????」
段々と皮膚の色が肌色から銀色へと変っていく。そして沸騰した肉が、骨が溶けて水銀のようになり広がっていく。そして奏矢であったものは全て銀色の液体となってストレッチャーの上や床に広がっていく。
その様子を見ていた銀縁眼鏡女は大きくため息を吐く。
「まさかここまで適正がない人間が居るなんてね~。想定してなかったわ~。この”ゴミ”、すぐに捨てなきゃね~」
そういうと銀縁眼鏡女は”奏矢だった”銀の液体をかき集める。
そしてダストボックスの扉を開けると、そのままゴミための深い穴へ”奏矢だったもの”を捨てるのであった。
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