59092
エリー.ファー
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殺し屋としての仕事なんて。
そう、言ってしまう。
だって、つまんないし。
人を殺すだけだし。
これを繰り返して生きてきたのだから、今更難しいとか思ったりはしないのだ。冷静に考えて、キャリアが長いのだ。これは、殺しをするにあたって心が壊れてしまったとかそういう話ではない。
「そういう話ではないのですか」
「違う」
「ですが、殺しを日常的に行わない人間からすると中々、異常なことのように思うのです」
「異常ではあるだろう。それは間違いない。しかし、それは日常という基礎の上で滑ってしまっているからだ。私の言っていることはそうではない。そもそも非日常の上に乗っているということなのだ。滑っても滑らなくとも結局は同じなのだ」
「日常と非日常という、基礎的な部分の違い。よく分かりました」
「殺したことはないのか」
「ないですね。もちろん」
「珍しい」
「殺さないことは、そんなに珍しいと感じるものですか」
「厳密には違う」
「どういう意味でしょう」
「誰も殺していないと思っている。そうだろう」
「それは、そうですが」
「お前の何気ない一言で誰かが死んでいたらどうする」
「でも、それは勝手に相手が死んだだけで」
「私は、相手のこめかみに弾を打ち込んでいるだけだ。あとは相手が勝手に死ぬだけだ。私の問題ではない」
「いや、そう言われても」
「しかし、意味は同じだ」
「でも、そちらは死ぬのが明らかじゃないですか」
「明確かどうかが重要だというなら、見た目では違いが判別できない飴を用意して、一つには毒を塗る。そうして、どちらか片方を選ばせてそれを舐めさせる。そうすれば、死ぬかどうかは明らかではない」
「でも、それは明確な悪意があります」
「発言に悪意がないと、どう証明する。こんな嫌いな相手なのだから、心のどこかで死ねばいいと思いながら発言していた場合は、明確な悪意があるとあるはずだ。それは証明できないものだが、存在はしている」
「屁理屈です」
「屁理屈に聞こえてしまうのは、宗教が違うためだ」
「宗教とは」
「どんな者にも信じたい哲学があり、どんな者にも信じたくない悪魔がいる。どんな者にも生きていくために必要な指針があり、どんな者にも進むべき道がある。それと同じだ」
「はぐらかしているだけではありませんか」
「お前が、そう口にしているということは、はぐらかすという意図があろうとなかろうと、会話はずれていないということになる。お前の意見が欲しい」
「私はずっと同じことを言っています」
「何を伝えたい」
「伝えたいというか、反論しているだけです」
「私の意見にか」
「そうです」
「それで、何か分かったか」
「あなたは異常です」
「異常ではある。しかし、お前が想像するほど異常ではない」
「いえ、異常な人間は皆、そう言います」
「お前は異常か」
「異常かもしれません」
「自分を守るために疑ったのか。自分は冷静であることをアピールするために、少しだけ私に道を譲ったのか」
「そんなつもりはありません。正直に口にしただけです」
その瞬間、後ろの扉が開いた。
執事だった。
「ご主人様」
「あぁ、今行く」
「一つ質問をしても」
「構わないが」
「鏡に向かって、ずっと独り言をされておりましたが、それは何かのお遊びで御座いましょうか」
私は笑う。
「毎日、こうやって悪魔を殺している」
その夜、約五百人の命が散った。
59092 エリー.ファー @eri-far-
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