第30話 30 勇者と委員総会

 五月、それは春から夏への季節の変わり目。

 新入生初々しい季節は終わり、夏の長期休みを楽しみにする者も多くいる。

 今年の夏は生徒会主催の夏祭りを開催されるとのことで、その会議を三年の教室で行われることになった。


 委員の者は強制参加である。

 勿論、植物委員のローランとルナも三年生の机を借りて座っている。

 その他に、武具管理委員でハイメの姿も見える。

 ハイメはクラスメイトだろうか、他の男の子とわいわいと話をしていた。


「多忙な中、時間を取らせてしまって申し訳ない」


 そう発言したのは生徒会副会長、マルク・フランシスである。

 アンデルセン帝国フランシス騎士団の御子息であり、戦士科三年である。

 成績優秀、スポーツ万能、他の生徒から慕われ、生徒会では副会長であり、委員のまとめ役だ。


 その横には生徒会長であり、治癒科三年、マルクが仕えるアンデルセン帝国皇女アイリスの姿が見える。

 彼女は一言も発することなく、ただ、目を閉じ静かにマルクの進行に耳を傾けている。


 そして、その横にはペンを走らせる書記、火砲科二年ライラ・ヴォグホーンの姿があった。

 彼女はリサ先生のような丸い眼鏡をかけており、茶色い髪を肩まで伸ばしている。

 クールでテキパキというよりもおっちょこちょいでドジが目立つ女の子であった。


「それでは、今回の夏祭りについてはライラが指揮者の下、取り行っていくつもりだ。ライラ、挨拶を」

「は、はい。火砲科二年のライラと申します。あの、イベントの責任者になるのは初めてで、至らぬところもありますが、よろしくお願いします」


 ライラは立ち上がると深々と頭を下げた。

 参加者から拍手が送られる。

 これは生徒会での三年生から二年生への業務の教育のようなものだ。あくまでも責任者はライラであるが、三年のマルクやアイリスがサポートするとい仕組みになっている。


「では、ライラ。後の進行は君に任せるよ」

「はい、承りました。それでは、第一回夏季休暇魔法学校夏祭りについて会議を執り行っていきます」


 マルクはそういうと席につき、資料に目を向け始める。


「夏祭りについてですが――」


 ライラの説明ではこうだ。

 今回の夏祭りの発案者はアイリスだったようだ。

 夏休み中の寮生活は退屈しがちということで、学校を巻き込んだイベントを開催したいと思い至ったらしい。


 また、アイリスはこの夏祭りを今後の学生たちに残せるよう考えている。

 具体的には幾つかの収益を生み出し、学校にその必要性を経済的にも知らしめる必要があると話す。

 ただ、長期休みは帰省する生徒もいるので、生徒たちからの収益というのは期待していないらしい。


 ただ、お祭りということで外部からも人を招き入れることで収益を増やしていきたいという話であった。


 そして、委員それぞれに仕事も割り振られた。

 例えば、ハイメのいる武具管理委員は先生と共に祭りの警備。

 治癒科の保健委員は救護班。

 そして、ローランたち植物委員は救護班用のポーション製作に使う薬草の収穫と魔法学校産のポーションも売り出すようで、そちらも薬草の手配の依頼を受けた。


 ローランは薬草の良し悪しは分からないが、ルナは問題ないと返答していたので大丈夫だろう。

 淡々と続くライラの進行は最後の目玉についての説明に入った。


「それでは、最後に『花火大会』についての説明に入ります。火砲科、お願いします」


 ライラがそういうと、立ち上がったのは図書室で出会ったルーガルーのシュッツェであった。


「火砲科二年、シュッツェです。今回の夏祭りでは最後に魔法国の郊外から打ち上げる花火で締めくくろうと思っています。私どもは去年より製作を進めておりました、ぜひ楽しみにしていてください」


 そう言えば、シュッツェと図書室で話をした際、彼は火薬についての資料を集めていた。

 もしかすると、関係があったのかもしれない。


 すると、ひとりの生徒から質問が飛んだ。


「花火となると、街にも影響が出ると思います。音とか光とか。そういったことは許可をとっているのでしょうか?」


 みなの注目がライラに集中する。

 彼女は少々慌てた様子であった。


「現在、調整中です」


 と、だけ返答する。

 その他にもいくつか彼女へ質問が飛んだが、返答は「調整中」の一言が続いた。


「なんだか、様子が変だね」


 ルナがローランに耳打ちをする。

 ローランは頷く。

 夏祭りは八月の予定だ。シュッツェの話を聞く限りでは去年からこの計画は始まっていた筈だが、それにしては準備が疎かすぎる。


「あの、いくつか問題はありますが、皆様と協力して必ずや成功に収めたいと思います。何卒、ご協力お願いします」


 ライラはそうまとめる。

 委員からはまばらな拍手が送られた。

 それは、ライラへの不審の現れだった。


 アイリスの閉じていた目がいつの間にか開いており、ライラの慌てる様子を捉えているのもまた怖い。


 正直、楽しいお祭りのための会議とは感じられぬまま、委員総会は終わったのだった。

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