第12話

 『翼竜の翼』と冒険者パーティを組み、冒険者として活動し始めてから、およそ1週間程、時が経った。


 冒険者として活動するうちにメンバーともかなり親しくなり打ち解けた。

 俺たち『翼竜の翼』は現在、フィンブルド領の南西部のフィヨルドの森という場所へと足を向けていた。


 フィヨルドの森へと行く道中。

 マルゴが頭の後ろで手を組みながら、道端の小石を蹴る。


「それにしてもソウタが加入してから稼ぎがかなり増えたよな。受けられる依頼もかなり増えたし」


「そうね、マルゴの言う通りね。ソウタが入ってからは前衛の火力かなり上がったわね。それに加えてアイテムボックスが凄いわね」


 マリンの言うことにパーティメンバー皆が首を縦に振る。

 

「もうソウタなしだと考えられないねー。それにパーティとしてだけじゃなくて、もう私たちのCランクに追いついちゃうなんてねー」


 サリネが言う通り、俺は5日目で、Cランク冒険者へと昇格した。

 昇格試験も試験用に用意された職員を呆気なく倒して、晴れて『翼竜の翼』と同じCランク冒険者だ。

 

 違うところがあるとすれば、俺以外のメンバーはBランク冒険者の試験の受験資格がある事だ。


「本当に規格外過ぎて、同じ前衛の剣使いの俺が情けなくなってくるぜ……」


 ケインはフィヨルドの森を先導しながらそう自虐するが、パーティメンバーは誰しも否定しない。

 ケインを慰めるように肩を叩くマルゴ。


「ケイン……どんまい……」


 哀れな視線をケインに向けるメンバー。

 多分、それが一番傷つくやつと思うが、俺はそんな事は言いはしない。

 それが一番傷つくのだろうから。


 俺はケインの為にも話題を変える。


「そういえば、もうみんなはBランク冒険者の昇格試験受けるの?」


「その話だがな、皆で話し合ってソウタがBランク試験を受けられるようになってから一緒に受けようって話になったぞ。ソウタが居た方が確実にパーティとしても良いからな」


 ケインが森を進みながら言う。


「そこまでしなくても……」


 俺としても俺の為に待ってくれるのは良いけど足枷になるのはごめんだ。だが、実際にはそれ以上に理由があるようだ。


「違うんだよな、ソウタ……まだ皆怖いんだよ……盗賊討伐ってことは最悪の場合は殺すって事だろ……」


 ケインは神妙な面持ちを浮かべる。

 他の『翼竜の翼』のメンバーも表情が硬い。


 俺は勝手に異世界の人は人の死に慣れてるのだろうと思っていたが、そこは完全に勘違いだった。

 これは危ない、異世界ハラスメントをするところだった。


 俺も本当に人を殺す場面が訪れたら、即断で殺せるかどうかは怪しいところがある。


 そういう面では一緒にBランク試験を受験してくれるメンバーには頭が下がらない。


「皆ありがとな、俺もなるべく早く追い付けるように頑張るよ」


 俺がメンバーに言うと、「どこまで強くなるつもり?」呆れられたが、「どこまでも」と言って、その場を濁した。


 フィヨルドの森の奥へとさらに足を踏み入れる『翼竜の翼』の一向。

 

 そして、探索役のサリネとパーティリーダーであるケインの足が止まる。


 人差し指を口元に当て、静かにするよう促すサリネ。


「……………………」


 おそらく今日討伐対象であった、魔物でも見つかったのだろうと俺は推測する。


 サリネが指差した方向を見ると、そこには巨大な褐色の大蜘蛛が居た。


 グレータータラテクトという名前の魔物で、マリンによると、討伐推奨ランクはBランク相当の魔物だ。


 だが俺たちはCランクパーティなので、きちんと討伐推奨には満たしている。

 この討伐推奨というのはBランク冒険者が1人で討伐可能な魔物だということ。

 

 グレータータラテクトはその体躯で、巨大な網の巣を張っていた。

 そしてその巣には昆虫系の魔物の死骸がくっついていて、捕らわれ捕食されたのがわかった。


 昆虫系の魔物含め、グレータータラテクトの弱点は炎系。

 それも踏まえてケインが咄嗟に作戦を構築する。


「まずはアイツを網の巣から振り落とす。マリンは森に燃え移らないように風属性の魔法で切断。マルゴはマリンの詠唱の時間稼ぎを頼む。サリネはマリンと同様に巣の切断を頼む。そしてソウタは俺と一緒にアイツの牽制に入る。ソウタに関しては倒せると思ったら、仕留めても構わない。その判断はお前に任せる」


「「「「了解」」」」


 ケインの指示に首を縦に振るメンバー。

 こういう時のケインは頼りになると、俺も心から思う。

 流石はリーダーって感じだ。

 ただ倒せると思ったら、仕留めても構わないというのは指示がアバウトだからやめて欲しいものだ。


 正直、グレータータラテクトであれば確実に倒せるのである。


 というのも、この一週間に置いて数々の魔物を討伐したおかげで、SPがかなり蓄積された。

 そして、その蓄積されたSPを消費して色々と魔改造が行われた。



【固定能力付与】


『衣類付与』


【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.4】【状態異常耐性Lv.5】【怪我防止】【自動修復】



『武器付与』


[長剣]


【不壊】【斬撃強化Lv.MAX】【武器破壊】【身体強化Lv.MAX】【形態変化】【炎纏】【風纏】



『防具付与』


[帷子]


【不壊】【物理攻撃半減】【魔法攻撃半減】【身体強化Lv.MAX】【瞬動Lv.3】



 使用可能残り   SP 200



 そして、今の状態が、


_________________________________________


【アイテム:最高級の上質なシャツ】


『固有能力付与』


 効果


 【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.4】【状態異常耐性Lv.5】【怪我防止】【自動修復】


_________________________________________


【アイテム:最高級の上質なズボン】


『固有能力付与』


 効果


 【自動洗浄】【防汚】【消臭】【芳香】【自動治癒Lv.4】【状態異常耐性Lv.5】【怪我防止】【自動修復】


________________________________________


【アイテム:魔鉄の長剣】


『固有能力付与』


 効果


【不壊】【斬撃強化Lv.MAX】【武器破壊】【身体強化Lv.MAX】【風纏】


_________________________________________


【アイテム:魔鉄の鎖帷子】


『固有能力付与』


 効果


【不壊】【物理攻撃半減】【魔法攻撃半減】【身体強化Lv.MAX】【瞬動Lv.3】


________________________________________



 【風纏】だが、これはSP5000消費して入手したもので、それに【瞬動Lv.1】はSP1000消費して入手した。

 SPの使い道なのだが、SPは付与可能スキルをレベルアップさせるだけではなく、入手するのにも使えることが判明した。

 そして付与可能スキルの強さによって、SPも変わってくるとのことだ。


 【風纏】の良さなのだが、これはバレずに魔剣の性能を使えるということだ。

 風魔法が剣に纏うので基本、魔剣だとバレない。

 それによってさらに魔物の討伐が楽になった。


 こうして俺はさらに規格外の道を辿っているわけで、今ぶら下がっているグレータータラテクトも正直敵ではない。


 グレータータラテクトは敵の存在に気付いたようで


 キェェェェェ。


 歯軋りのような甲高い音を出す。

 それに思わず耳を塞ぐメンバー。


「ケイン! 本当に倒しちゃっていいんだな?」


 俺は大声でケインに確かめる。

 そうするとケインも大声で「あぁ!」という。


 そして、俺はケインの許可を貰ったので、

 思いっきり地面を蹴って宙に飛び上がる。

 その様子を見た『翼竜の翼』のメンバーは唖然として。


「飛んだ…………」


 相棒の剣を抜いて、そしてグレータータラテクトの頭部を目掛けて、【風纏】を発動させて空中で斜めで斬り裂く。

 そして【斬撃強化Lv.MAX】【身体強化Lv.MAX】によってグレータータラテクトの頭部が豆腐のように狩られてしまう。


 ポトリと大蜘蛛の首が落ちるのと同時に、地面にスッと着地をする。


 甲高い声にやられ、耳を塞いでいる間に終了した結末にただ愕然とするメンバー。


 そして、せっかくケインの出した指示は最後の方しか実行されなかったことに気づいたのは後のことだった。



 この瞬間は後に伝説となる一瞬であったが、当時の俺はそんなことは知りもしなかった。

 

 




 

  




 

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