第6話

 大男グレンは背中から紅色の魔剣、『紅魔剣』をスパッと引き抜き、片手に構える。

 すると、紅魔剣は細剣のから突如、大剣へと変化した


「おぉ、驚いたか? この『紅魔剣』には特別な力があってな、【形態変化】が自由自在なんだ」


 グレンは丁寧にも『紅魔剣』の性能を教えてくれる。俺はグレンに「それは凄いな」と告げる。


 さらにツラツラとグレンは『紅魔剣』について語る。

 グレンの説明からすると『紅魔剣』には【形態変化】意外にも【炎纏】という力があるとのことだ。


 

「色々と教えてくれてありがとな。敵にそんな事教えっちゃっても良いのか?」


 俺がグレンに言うと、


「ぁあ? 敵ってのは誰のこと言ってるんだぁ? どこに敵がいるんだよぉ、ハハハハハハ」


 『紅魔剣』を担いで大声で笑うグレン。

 グレンは俺を敵とは認識していないようだった。


「………………」


 俺はここまで傲慢なグレンには最早感動する。

 

 そして、グレンは『紅魔剣』を構えて「お喋りはもうここまでだ。行くぜ、クソガキ」と『紅魔剣』を横流しに構えて、俺へと『紅魔剣』を一閃させる。



 俺はグレンの突然の攻撃に、身を翻して躱す。

 そして、紅魔剣の軌道上に炎が勢いよく、立ち上がる。

 

 俺は突然出現した炎に驚きを隠せない。


 (なるほどな、【炎纏】ってのはこういう能力なのか。確かに魔剣たる資格はあるようだな……)


 突然の炎に鎖帷子を貫通して、シャツが焼け焦げたが、シャツの効果もあってすぐに再生した。


 俺もようやく決闘開始とばかりに持ち前のオンボロ刃毀れ剣を正眼に構える。


 闘いの意思をグレンに見せると、グレンは憎い表情を俺にぶつけてくる。


「オメェ、俺に勝てるとでも思ってんのかぁ?」


 俺はただグレンの攻撃に備えて「………………」オンボロの剣を構えて、グレンの動きを探る。


 俺の勝てる道はただ一つ、グレンの『紅魔剣』を破壊することだ。

 あの巨漢の膂力から放たれるグレンの攻撃を喰らったら、死にはしないだろうが、完全に無事では済まないだろうと思う。


 オンボロ刃毀れ剣にかなり高い能力は付与してあるが、自分自身の身体能力が多少上がるだけで、大幅に変わったわけではない。


 それはグレンの攻撃を避ける際に気づいた。


 反射速度はおおよそ現代の時よりは上昇していたが、格段に変わったという実感はなかった。

 となると俺が仮にも『Aランク冒険者のグレン』を強力な剣で倒すというのは、考えられない。


 となると、今回俺が勝利する為に、付け加えた勝利条件の『武器破壊』というのを達成する以外に方法はない。


 武器破壊の為の効果的な能力が、『オンボロ刃毀れ剣』にはあるので、俺は『紅魔剣』の武器破壊だけに集中することにする。


 グレンは俺の思考を他所に、『紅魔剣』をさらに俺の胴体を切り裂くように一閃する。


 俺は咄嗟にオンボロ剣で、『紅魔剣』を受け止めるが巨漢のグレンの力には勝てずに、訓練場へと跳ねるように転がり落ちる。


 だが防具の効果もあって、痛みはそれほど感じはしない。


 剣と剣の衝突に衝突に手応えを感じたグレンは


「よし、これでお前のボロボロの剣も粉々に……………」


 紅魔剣の一撃を直接に受けたボロボロの剣が粉々になったと予想したグレンであったが、グレンの予想は完全に外れた。


「イタタタタタ………流石に力の差はあるみたいだな」


 俺はボロボロの剣を杖にして立ち上がる。

 その剣はボロボロの剣のまま、粉々にはなっていない。

 

 俺が剣を杖にして立ち上がると、冒険者からは「そんな事をしたら折れちまうじゃねえか、負けちまうぞ」と不安な声が上がる。


 当の俺はというと、その心配は一切ない。

 なんたって俺がこの剣を持つ限りは【不壊】であるのだから。


 武器を破壊することに失敗したグレンは


「オメェ、すっげえ運がいいらしいなぁ。そんな運があったら俺に目をつけられなくても済んだかもしんないな、ハハハハ」


 剣が折れなかったのを運が良かったと感じているらしく、俺としてもこの勘違いには助かった。


 というのも、グレンはまだ気が付いていないが、『紅魔剣』には俺はオンボロ剣と衝突した時に生じた傷が生じていたのを俺は確認した。


 俺はその好機を逃さず、


「はははは、本当に運が良いみたいだよ。次は流石にぶっ壊れてしまうかもしれないな」


 グレンはその言葉を聞いて、『紅魔剣』を強く握りしめる。


 そして、トドメと言わんばかりにグレンは怒涛の勢いで俺の元へと飛び込み、紅の炎を纏った大剣を胴元へと一閃させる。


「これで終わりだァァァァァァァァ」


 『紅魔剣』は俺の胴元を切り裂くかのように鋭いスピードで襲いかかる。


 それと、同時に俺はオンボロの剣を大剣の勢いに抗うように鋭く一閃させる。


 力の限りをオンボロの剣へと宿して、


「そっちがなぁぁぁ」

 

 巨漢のAランク冒険者のグレンの炎を纏った魔剣の重い一振りと新人Eランク冒険者のオンボロ剣の軽い一閃が衝突する。


 

 そして、衝突と同時に冒険者ギルドの訓練場に激しい砂埃が舞い上がる。




 誰もがその瞬間、少年の負けを予想した。


 誰もが次の瞬間、少年のボロボロの剣が重い魔剣の一振りによって粉砕されるところを予想した。


 ギャラリーの冒険者達は砂埃に巻き込まれ、咄嗟に目を瞑り、土埃を吐き出すように咳き込む。


 そして、砂埃が落ち着き、目を開けた際に目の当たりにしたのは。驚く光景だった。


 グレンの膂力に吹き飛ばされながらも、オンボロの剣を杖にして立ち上がろうとする少年。


 そして、吹き飛ばすことに成功したのにも関わらず、『紅魔剣』の刃先は地面へと突き刺さり、柄だけになった紅魔剣を持つグレン。


 そして、次の瞬間、訓練場にはギャラリーによる大きな歓声が巻き起こった。



 そして、冒険者ギルドの立会人の職員が俺の勝利を宣言する。


「勝者ぁぁぁ、Eランク冒険者ソウタぁぁ」



 俺は吹き飛ばされながらも、剣を杖にして立ち上がる。

 防具のお陰で大怪我にはならなかったが、多少打撲はしているみたいだ。

 だがその痛みも、服の効果により徐々に引いていくのを感じる。


「イタタタタタ…………これで勝ったみたいだな……」


 俺が立ち上がろうとすると受付嬢のシーラさんが勢いよく俺の元へと駆けつけてきた。


「ソウタさん、大丈夫ですか? 私なんかの為にこんな無理をして……」

 

 シーラさんが瞳に涙を溜めて、突然、俺をぎゅっと抱きしめる。

 シーラさんはかなり良いものをお持ちのようで、俺はその柔からさを一時の間堪能することにした。


 一方、自慢の『紅魔剣』をボロボロの剣によって砕かれたグレンは、柄を握ったまま茫然自失。


 そして、我に返ったグレンは開口一番。


「貴様ァァァァァァ、一体どんなズルをしたァァァァ! 俺の『紅魔剣』がこんなボロボロの剣に砕かれるなんてあってはならない。あるはずがない……


 こんなのはあってはならない。あるはずがない。

 と、魂が抜けたようにグレンは現実を認められないように呟く。


「俺の『紅魔剣』が破れるはずなんてそんなはずはない……あぁ、そうか……そうに違いない……あの『ボロボロの剣』が特別なんだ、そうに違いない」


 グレンは負けた理由を探し、結論としてボロボロの剣が何らかの魔剣に違いないと予想した。


「おい、貴様ぁ、その剣は一体何の剣なんだ! 聖剣か? それとも魔剣か?」


 グレンはボロボロの剣の正体を確かめるように、自分の力が及ばなかった事を剣のせいにしようとする。


 そして、俺はトドメと言わんばかりにグレンに告げた。



「聖剣? 魔剣? そんなわけないじゃないか。ただの刃毀れの剣だよ。そんなんに負けるなんて『紅魔剣』も大した事ないみたいだな」



 俺は自分が持っていたオンボロの剣をグレンの元へと投げ捨てる。


 するとオンボロの剣は地面へと突き刺さり、その衝撃によって、ピキピキピキと剣にヒビがはいる。


 そして、グレンの目の前でオンボロの剣が粉々になった。


 それを目にしたグレンは瞳から力を失い、『紅魔剣』の柄をポトリと落として、項垂れるようにして倒れた。


 

 そして、更なる冒険者の歓声が訓練場を包み込んだ。


 こうして、俺はAランク冒険者の『紅魔剣のグレン』の『紅魔剣』を『オンボロ刃毀れ剣』によって粉砕する事でグレンとの決闘に勝利を果たした。

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