第38話決別




走馬灯のように、たのしかったことが思い浮かぶ。



初めて自分から動き出した恋だった。



運命だ、と思っていた。




一生、この人となら一緒にいたいとも思っていた。







でも、今日、私は終わりにしなきゃいけない。















「周平の中に、もう私いないよね」




周平と会って2日後、周平の家で口を開いた。



「わたしより他に楽しいこといろいろみつけたもんね」





周平ははっきりとも、何も言わなかった。





沈黙になってどのくらい時間が経っただろうか。




体感的には1時間ぐらい経ったかのように思えた。




息が詰まりそうだ。




あー・・・たぶん周平はこの言葉を待っているんだろうな。









私は大きく息を吸って、言った。












「別れよう」





言葉にしてしまったこの5文字。




もう訂正はできない。




意外とさらっと言えてしまった自分に驚いた。





引き止められたりはしないだろう。





「うん、わかった。」




「・・・」




「ゆいかと一緒にいて、楽しかった。」




「・・・」




「・・・ごめん」









周平はか細い声で謝った。




わたしは鞄を持ち、周平の家を出た。








最寄り駅まで15分。




後ろは振り返らなかった。




振り返る必要もなかった。




周平は、追いかけては来なかった。








充実した2年間だった。








両思いになって恋人になって。





一緒に勉強がんばったり、ライブにいったり。お互いの友達と遊んだりしていたけど。





たったの5文字で関係を終えた。





涙は出て来なかった。




そんなことを考えていたらあっという間に周平の最寄駅についた。









もうこの街にも来ることはないだろう。





渋谷で一旦降りた私は、渋谷をぶらついていた。




宛てもなくただ街を歩いていた。







ここで大喧嘩したなあ。




つい先週のことだ。





「すいません美容師の者なんですけど」




いつもなら大丈夫ですと断る美容師のキャッチだった。




「あのいまからお時間あったりしますか?カットモデルの方探していまして・・・」




「いいですよ。髪切りたかったので」











古典的ではあるが、髪をきってさっぱりとした気になりたかった。




周平と決別して、わたしは新しい道の一歩を踏み出した。











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