Re:戻生

とおりすがりのひと。

第一章 Re:

第1話Re:






今日も夫は隣で、何も知らずに寝ている。






➖➖➖11年前



「文化祭、来てよ。」


高校2年生の夏、男子校の友達のさとしから誘われた。


「さとしなんかやるの?」


「うん、バンドやるよ。4人で」


「へえ、そりゃあみたい。じゃあ、その時にCD返すね」



さとしから借りたCDを鞄の中にしまった。

さとしおすすめのアーティストのCDアルバムを5枚もってきてくれた。




女子校に通ってた私は、バンド好きなさとしとよく放課後会っていた。



私もその当時バンドにはまっていた。お互いによくCDの貸し借りをしていた。



さとしとは中学3年の時にであった。


もともと友達の紹介で知り合い、好きなバンドの系統が一緒で話が弾んだ。



「遊べるのは今年までだよなー」



ジュースをのみながらさとしは言った。



お互い進学校に通ってた私たちは受験の圧を先生から感じ始めていた。



「あー勉強嫌だ」



「一緒に勉強しようぜー」



「勉強する気になればね」



勉強しないと大人になれないと思っていた。

早く大人になってみたかったけれど、その思いとは反比例したかのように、このままでもいたかった。



この時の私は特に行きたい大学も、勉強したいことも、将来の夢も何にもなかった。




「あ、俺そろそろいかなきゃ。とりあえず文化祭は再来週の土日だから」



一緒に喫茶店をでて、駅の方向まで向かった。



「じゃあまたな。可愛い子、連れてきてよ」



「はいはい。またね」



さとしはバイトへと向かっていった。



カバンの中からMP3を取り出した私はイヤホンを耳につける。



各駅停車で40分。電車に揺られて帰りながら聴く音楽はとても心地がいい。



この時間がたまらなく好きだった。



見様見真似でやってみたギターは予想以上に難しく、自分にバンドは向いてないと高校1年のときに感じた。



聴くに限る。




頭の中でプロモーションビデオの情景を勝手に考える。言葉でも絵でも伝えられない。自分だけの頭の中の情景。



朝も帰りも、毎日同じように過ごしてたわたしが変わっていったのはもう少しあとになってからのことである。

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