3-3
「あれもこれも美味しすぎます……!」
新鮮な白身魚のカルパッチョ、生ハムと様々な種類のチーズの盛り合わせ、ぷりっとした歯ごたえのエビをふんだんに使ったアヒージョ。居酒屋とはまた違うジャンルの美味な料理を前に、玲は至福のひとときを味わっていた。
クラッカーにチーズと生ハムを乗せ、にこにこと口へ運ぶ様子からは、さきほどまでの緊張はとっくに感じられない。
アルコールは控えめに、と思いオーダーしたのは瑞々しい果物と赤ワインで仕込んだ店のおすすめのサングリアだ。グラスも凝っており、ころんと両手に収まる丸っこいグラスの表面には南国を思わせる柄がプリントされている。他のテーブルを見れば、同じような柄のグラスを手にした女性も多く見受けられる。
興奮を抑えきれない様子の玲の傍らで山崎はというと、カルパッチョをつまみながら白ワインを静かに堪能している。
「山崎さんは、どうやってこんな素敵なお店を見つけてくるんですか?」
アヒージョのオリーブオイルにバケットを浸しながら玲が言う。山崎は顎に手を添えてしばし考える。
「まあ仕事で外回りすることが多いから、そのついでに気になった所を覚えておくくらいだろうな」
「外回りってことは営業のお仕事とかですか?」
「まあ」
にんにくの旨味が凝縮されたオリーブオイルが染み込んだバケットを味わいながら、玲は相槌を打つ。
「へえ……。確かに山崎さんお話聞くの上手でしたよね」
「……おい、なんで過去形なんだよ?」
「え、べ、別に意図して言ったわけではないですよ~!!」
山崎に凄まれた玲は、焦りを全開にした表情で否定する。確かに初めて話した時の印象とは別人のようだが、それが素だとわかると安心して接することができた。
ワイングラスを静かに置いて、山崎は改めて玲に向き合った。ふと真面目な表情を向けられ、玲も思わず手にしていたグラスを置く。
「この前の事、そんなに気にしてたのか?」
「それは……、当たり前ですよ。あんなに記憶無くなるまで酔っぱらったの、初めてでしたし。ほぼ初対面の人に迷惑かけちゃうし」
怒ってもう二度と会ってくれないのかと思いました。とつぶやけば、怪訝な表情で山崎が口を開いた。
「別に、酒の失敗なんて誰にでもあるだろ。逆に今まで無かったのがおかしいくらいだと思うけど」
「でも……」
玲が言い淀むと、さらに切り返される。
「失敗することが悪いんじゃなくて、それからどうするかとか、同じこと繰り返さないとか、そっちが大事なんじゃないの」
「その通りです……」
しょげた様子の玲に、少し目元を和らげると、また悪戯っ気のある笑みを浮かべて山崎は付け足した。
「まあでも男と二人きりの時はやめとけよ。俺みたいな善人で良かったな、感謝しろ」
「え?! それ自分で言っちゃうんですか」
「あんた、一歩間違ってたら持ち帰られてたかもしれないぞ?」
切れ長の射貫くような視線を前に、思わず玲はドキリとして目をそらした。
(いやいや、そんなに至近距離で見つめられると……)
玲がおそるおそる視線を戻せば、山崎はすっかり玲の事などまるで気にするそぶりも見せずに淡々と目の前の料理を食べている。
(うわ、今のドキドキ無駄にした……!!)
すっかり打ち解けた二人は、その後も酒を片手に他愛もない掛け合いが続いた。
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