第3話 解釈違い
それから3日が経過した。
はい、嘘です。盛りました、ごめんなさい。そこまで時間は立っていません。せいぜい30分から1時間といったところだと思う。
しかし、思わず数字を持ってしまうぐらい現在進行形で俺は戦い続けているのだ。
後ろから襲い掛かってきたマネキンから剣を奪う。同時に襲ってきた勢いを利用し、前にいるマネキン向けて投げ飛ばす。ぶつかり合い態勢を崩したマネキンたちに追撃として奪った剣をマネキンの頭部に投げつける。そのとき、視界の隅で左右からマネキンが剣を突き出し突進してきた。追撃の剣がうまく頭部を破壊したのを横目に、左に向かう。マネキンが突き出す剣を躱しつつ、剣にナイフを滑らせ、そのまま指を切断する。保持できずに落とされた剣を、衝突した衝撃から未だに立て直せてないマネキンに向かって蹴り飛ばし、その頭に突き刺す。一方で指を切り落としたマネキンの後ろに回り、すぐ後ろまで来ていた突き出し突進からの盾とする。剣が味方に突き刺さり硬直しているマネキンの頭部をナイフで破壊する。そのあと盾としたマネキンの頭部を掴み、床にたたきつけ破壊する。
4体のマネキンの頭部を破壊した俺はすぐさまナイフを構え、臨戦態勢にうつる。
「これでようやく50体……」
息を深く吐きながら、多少は広くなった部屋を見渡す。そこには、部屋を埋め尽くすマネキンがあった。その数は戦いを始めた当初と変わっていないようにみえる。原因は分かっている。その原因、部屋を囲む壁は今もなお自身を構成する白い何かを集め、マネキンを生み出していた。とはいえ、無尽蔵に生み出せるわけでもない。マネキンは壁を構成する何かを原料にしているため、壁が尽きればマネキンも生まれない。実際に正面の壁は白い何かが消え土がむき出しになり、マネキンは生まれなくなった。まだ、白い壁は残っているがなっ!
こちらに近づく気配を感じ、視線を正面に戻す。すると、マネキンの集団から5体前に出てきた。マネキンたちはその手に剣を持って、いや違う。槍と弓を持っている個体もいる。ここで武器種が増えるか。一度大きく深呼吸をし、マネキンたちを見据える。
そこでは槍と剣を持つマネキンがこちらに向かい、その後ろでマネキンが矢で俺を狙っていた。俺は放たれた矢を躱し、マネキンたちに向かって一歩踏み出した。
最初は良かった。相手は1体。攻撃の初動ははっきりしており、しっかり見れば避けられる程度だった。だからといって、単調という訳ではなく連撃も駆使してくる。非人間のモンスターにありがちな理不尽な挙動もなく、人型の練習相手としては最適であった。自分の動きの確認とかのために定期的に戦いたい相手であるくらいには。倒した後、マネキン2体出たときも、複数と戦うときの位置取りや攻撃の防ぎ方など確認し、とても有意義であった。
おかしいと思い始めたのは、3体同時に出てきた時だった。確かに2体の時とは戦闘の難しさは上がる。しかし、基本的な立ち回りは2体のときと変わらない。チュートリアルでわざわざ戦う意義を見出せなかった。疑問に思っていたが、その答えはすぐに示された。いや、悟さられた。壁から次々とマネキンが生み出されたことによって。あっという間に自分の周辺を残して、マネキンで埋め尽くされた現状に頬を引きつらせる他なかった。
部屋の入口もマネキンに塞がれ、逃げることもままならなかった。訂正する、逃げることは出来た。これはチュートリアル戦闘。メニューからスキップできるのは変わらない。ただ、ここで抜けるのは、
覚悟を決め、俺は戦闘を続行した。幸いというべきかマネキンの攻撃パターンが決まっており、攻撃が読みやすかったこと。加えて弱点である頭の核を潰せば一撃であること。その意味では最初の一体の方が強かった。また、同時に襲ってくる個体数は決まっており、こちらから近づかない限り襲ってこないこと。これらが分かってしまえば、マネキンの壁に近づかず、弱点を狙い一撃必殺を行うこと、途中で手に入れたスキルをフル活用することで何とか渡り合うことができた。そして―
「これで、最後っ!」
今、マネキンの頭にナイフを突き立て破壊する。最後の一体が核を砕かれ、消失する。しばらく何があっても動けるように構えつつ、壁から新たにマネキンが生まれないことを確認する。そこまで確認してから、肺の中の空気をすべて出すように大きく息を吐き、目を閉じる。
「はーっ。ようやく、終わった」
長かった、本当に長かった。全く誰だ? 真面目に戦おうなんていったのは。
……はい、俺です。それ以外いませんし。俺以外にいたら逆に怖いわ。
周りを見ると、白い壁がなくなり土がむき出しになった部屋がある。最初に比べると部屋の大きさは3倍近くなったようにみえる。白い壁がなくなった分、広がったのだろう。
戦果を確認するためメニューを開くと、レベルは1しか上っておらず、ドロップアイテムはなし、ということがわかる。予想していたことではあるが、気落ちするわぁ。ホントに。いやまあ、チュートリアルだしね。いきなり強くてニューゲームする訳にはいかないし、わかるよ。レベルが上がっているだけ良い方なんだろうけどね。それでも、落ち込むわ。
一区切りついて、気が抜けていたことは否めない。圧倒的多数との戦闘で精神的に消耗してたこともあるが、チュートリアル戦闘であるからと油断していたのは確かだ。
だから、
ついでに先程獲得したスキルの詳細を確認していると、上から何かが割れるような音がした。その音を聞いた次の瞬間には、その場を飛びのいていた。何故かは俺でも分からない。でも、その場にいたらまずい気がした。直後に何かが落ちてきて、轟音とともに着地する。上がった土煙で視界が遮られる中、かすかに天井が見えた。
中央に内側から破られたような巨大な穴がある白い天井が。
見えたときにはおおよそ察する。一体何が起きたのか、自らの失態を含めて。
「間抜けめ。もっと早く気づけただろうに」
天井は、部屋に入ったとき見ていただろう。その後のマネキン軍団も全て壁から生まれていただろう。それを考えれば、まだ戦いは終わってないって分かっただろうよ。これだから―、と今考えることではないか。
首を振ってそれ以上の考えを追い払い、前を見る。土煙が収まり、徐々に相手の姿が見えてきた。
針のようにとがった白く毛並み、高く立てられた耳、釣り上がった白目、人なんか軽く呑み込めそうなほど口にそこから見える鋭い歯。がっちりとした胴体に大きく発達した足。高く伸びた一本の太い尾。
そこにいたのは俺なんて軽くひねりつぶせそうな大狼だった。大きさは俺の何倍もある。ただ、目が真っ白なんだ。白く濁っているとかそういうレベルではなく、白一色だ。現れた場所を考えると、マネキンと同様なんだろうけど。
その狼が突如大きく吠える。尾を引くその吠え方はまるで遠吠えのような、いや遠吠えなのだろう。すると、天井から4体ほど俺と同じ大きさの何かが落ちてくる。
「いや、それは違うだろ」
マネキンがこちらに剣を構えるのを目の端に捉えながら、思わず呻いてしまう。
なんで狼がマネキン呼んでんだよ! 自分と同じ狼呼べよ! 百歩譲って来るのが獣ならいいよ。マネキンはないっ! そもそもの話、洞窟に狼っていうのもどうなんだよ。別のやつにしろや!
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