数字文学
彌(仮)/萩塚志月
『7』
世界の大半を、7は占めていた。7は無くてもいいはずなのに、ずっとそこにあって、常に私達と共にある。私達は、まだ7を見たことが無い。学生なので。
「死ぬんかねぇ」
「なんで?」
だってほらぁぎゅうううって、と君は言った。私達の生きる空間を、風船に見立てているのかもしれない。確かに萎むな、と思った。7が無くなれば、君の顔も、私の顔も、全部ぎゅうううって萎むのだろう。丁度、今君がやって見せているように。
世界の大半を7が占めているけれど、日常を生きる私達に一番必要なのは8だ。7を吐き出す価値などなく、意味もない。目に見えないから、実感が無いから意味が無い。君の声も大半は7の振動であるはずなのに。
「見えんもののせいで死ぬのはやだな」
「そうなぁ」
「お化けに殺されて死ぬんと一緒よ」
「あ、だから七不思議って言うんかねぇ」
ふふ、と君は不気味に笑う。私もつられてニヤリと口角を上げ笑う。私達はお化けに耳打ちされて相手を聞くのか。知らぬ間に伝言ゲームをしていることに気が付く。あぁ、だから、たまに聞こえないのか。
「お化けでぎゅむぎゅむになって生きんのと、お化けがいなくなって萎むの、どっちがいいんかな」
「どっちもやだぁ」
君は、堤防に登った。高い位置で、君のポニーテールが揺れる。
「お化けになんて、なりたくないなぁ」
ブレザーを脱ぎ捨てた君の白いカッターシャツは、風を孕んでバサバサと音を立てている。確かにそれは、7が鳴らす音だった。
ざぶんと、君の身体が水に沈む音がする。私が見ずとも、7がそれを伝えた。
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