激昂のラストソウル~そして悪魔になった少年が全ての悪魔を滅するまで~
夜月紅輝
第一章 悪魔殲滅までの始まり
第1話 魔力のない少年
とある世界には「悪魔」と呼ばれる存在がいる。
それは非人道的な事を行う人やずる賢い悪だくみをする人と言った比喩的な意味合いではなく、人を襲う実在する化け物のことを指す。
そんな悪魔に対抗するために作られたのが特殊任務魔術師隊――――通称“特魔隊”。
その未来の特魔隊員を育成する機関の魔法学院中等部の男子寮一角では鍛錬に励む一人の少年がいた。
「ふっふっふっ」
小刻みに息を吐き出しながら両手に持つ木刀を振り下ろして素振りしていく少年の名は【ラスト=ルーフォルト】。
季節は夏が始まりを告げる6月で十分に暑い日差しが降り注ぐ中、黒髪黒目のラストはただひたすらに同じ動作を繰り返していた。
そんな彼の姿を通りすがりの同級生三人組は嘲笑いながら通り過ぎていく。
「あいつ、まだ頑張ってるよ。鍛えたって意味ないのにな」
「それな。学校辞めなかっただけで特魔隊に入れるよう先生に直談判してやるか?」
「ハハハ、そんなこと無理に決まってるだろ。だってあいつ
この世界では魔力という力が存在し、その魔力によって自身の体に眠る一つの魔法を行使していく。
そして悪魔に対抗できるのは魔力による魔法かもしくは魔力を纏わせた武器による攻撃か。
故に、悪魔に対抗するには魔力という存在が必要不可欠なのだ。
だが、ラストにはそれがない。
されどラストが特魔隊員を育てる学校に通っているのは一つの目的のため。
「おーい、ラストー!」
ラストを見かけ度に他の生徒がバカにするように笑いながら通り過ぎていく中、一人のガッチリとした体育会系の少年が大きく腕を振りながら声をかけてきた。
その声にラスト思わず素振りを止めてその声に振り返る。
「グラート、どうしたの?」
「何、いつも相変わらず鍛錬してるお前の様子を見にな。お、少しは筋肉ついたんじゃないか?」
「そうかなぁ。でも、グラートみたいにあからさまなゴリラみたいになれない。
あ、そう言えば前に教えてもらった技出来るようになったよ」
「今ナチュラルに罵倒しなかったか?」
しかし、あまり気にしてない様子の茶髪の少年――――【グラート=フォーゲル】はそのままラストの言葉に「マジか、見せてくれ」と告げる。
身長180センチほどあるグラートを見上げるラストは木刀をそばにあった木にぶつけた。
その瞬間、木は軽く振動しそれによって木の葉がひらりひらりと舞い降りていく。
その葉をじっくりと見ながらラストは木刀を振るった。
直後、葉が真っ二つに分かれていく。
そのことにグラートは嬉しそうに笑った。
「マジか、本当に出来てる。お前、俺の技術をどんどん奪っていくな」
「教えてもらったからこそだよ。でも、この動きだって覚えるの二か月ぐらいかかったし。
ほら、その間にはもう皆次のステージに上がっちゃうし、どっちにしろ皆からは遅れてるよ」
ラストは「見てて」と告げると手のひらを上に向け、その上に球体が出来るようにイメージした。
そうすれば本来
「ほら、やっぱりこの三年間いろんな魔力復活方法を試してきたけどからっきし。
悪魔に対抗できるのは魔力がないといけないし、体術も剣術も凡才だから皆からバカにされるのは仕方ない」
「そうは言うがな? 俺はやっぱお前という男にビビってるよ。だからバカに出来ない」
「買いかぶりすぎだよ。でもありがとう」
「全くお前って奴は......さっきバカにしてた連中とすれ違ったがもう少し怒ったっていいんだぞ?
俺、お前が怒ったところなんて中等部一年で出会ってから三年間一度も見たことない」
グラートは腕を組んでふと記憶を思い返してみるもラストはいつもニコニコしてると言った感じであった。
もちろん、それ以外の感情を露わにしたこともあるがとりわけ「怒り」の感情に関して一度もない。
そんなグラートの言葉にラストは返答していく。
「怒ったって意味ないからだよ。それで突然力に目覚めるわけでもなければ、急激にパワーアップするわけでもない。
それに僕に魔力がないのは本当のことだし、それでやっぱバカにされることも仕方ないと思ってる」
「ラスト......だけど、それでもお前はなるんだろ?――――特魔隊員に」
「うん、僕には恩返しがしたい人がいるから。それにやっぱ助けられる人はカッコイイしね」
その時、少し遠くから男子生徒達の僅かな歓声が聞こえてきた。
ラスト達がその方向を見ると学年を問わず男子生徒に遠巻きに囲まれながらも、凛とした態度で歩いていく銀髪ボブの少女がいるではないか。
その少女に関してグラートは呟いていく。
「氷魔法を操る中等部最強の女子生徒【リナ=エストラクト】。相変わらずの無表情っぷりだな.....ってラスト?」
グラートがふとラストに目を向けるとラストは目を輝かせたように興奮していた。
そしてラストはグラートに向かって水色の髪をしたリナのことを熱く語っていく。
「あの太陽を反射して輝く美しい銀髪にして、男子生徒を魅了する完璧な容姿。
それだけじゃなく内在させている魔力量は学院一番で、さらには操る氷の魔法はあらゆる相手の魔法をも凌駕するほどに強く、体術でも剣術でも射撃術でもピカイチ。
やっぱああいう強くてカッコいい人に
「あ、あぁ......そうだな」
ラストの様子を見てグラートは思わずため息を吐いた。
何を隠そうラストはリナの大ファンである。
リナの取り巻きによってお近づきになったことは一度もないが、それでもリナはラストにとっての“英雄”みたいなものであった。
「しかし、どうしてあのリナさんがこんな男子寮に?」
「あぁ、それは恐らく魔法学院の推薦かもしれないな」
「推薦?」
「あぁ、お前に会う前に少しそのことで話があったんだよ。ほら、俺ってばこう見えても学年三位の実力だし?」
「パッと見脳筋にしか見えないのにね。ということはルナトリア学院に行くの?」
「今またナチュラルに罵倒したよな。ま、そうなるな」
ラストもグラートも中等部三年であり、この先の進路を決めなければいけない時期に差し掛かっている。
そしてその進路は大きく二つに分かれ、魔術師になるか技術者になるかのいずれかになる。
グラートが選択したルナトリア学院とは特魔隊員になるための登竜門と言うべき場所で、そこに行けるのはラスト達がいる学院では(受験に合格するという意味では)ほぼ上位者だけとなる。
故に、ラストは義務教育課程で通った中等部から先の進路は必然的に技術士系の学院に通うことになる。それはひとえに魔力がないから。
グラートは返答した後にすぐにラストを見る。
そのラストの表情は相変わらず微笑んでいたが、その目は確かに寂しさが映り込んでいた。
「グラート、きっとこの時期を終えたらお互い違う道に行くだろうけど、僕はまだ諦めたわけじゃないよ。
何年、何十年とかかっても僕は必ず特魔隊に入って、自分の願いを叶える。
だから、グラートは先に見ていてくれ。特魔隊がどういうものかを」
「......」
その言葉にグラートは無性に悔しさが沸き上がってきた。
それはグラートがラストという人物をすぐそばで見てきたからだ。
三年間、特魔隊員になることを目指して一身に努力していたことを。
どれだけ周りにバカにされようと、「無理だ」と言われようと諦めずに自分の夢に真っ直ぐだったことを。
だからこそ、グラートにとってラストが告げた言葉はあまりにも寂しいものでもあった。
グラートにとってラストは自分よりも劣る実力の中で唯一“脅威”になり得ると感じた人物で、その“脅威”は静かにされど今も確かに感じている。
そんなライバル的存在でもあるラストが「魔力がない」というだけで消えてしまうのはあまりに持ったないと言えよう。そこでグラートは一つの話題を持ち上げた。
「そういえば、最近妙な事件の話を聞いたことないか?」
「妙な......あー、確か街で何人か行方不明になってるって話?
確か今も行方不明者を捜索してるみたいだけど。それがどうしたの?」
「その犯人が悪魔らしいって噂なんだ。で、物は相談なんだがその悪魔を二人で倒しに行かないか?」
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