第四十九話「タイムリミット」
「グッ……」
俺が重心を1mm落とした瞬間、黒騎士は持っていた盾を俺に向かってぶん投げる。
速度はクソ鳥の5倍ほど。
この痛みの中でも不規則に回転しながら迫ってくる盾を、余裕を持って避けられる思考回路はまだ俺の中に残っている。
何処ぞのヒーローの姿が頭の隅に居てくれたおかげかもしれない。
俺は右手の鞘を盾に当てるようにしながら、身体を右に捌く。
やはり、背を向けない限りは<一騎打ち>の効果は発動しないようだ。
いない?
1秒前まであそこに居たはずの黒騎士の姿が消えている。
どこにいった……?
いや、その答えは分かっている。
俺が身体をギュッと捻りながら背後に目線を向けると、黒騎士の拳が目の前まで迫ってきていた。
俺は空中にある盾に右足を引っ掛け、激痛に耐えながら軌道を黒騎士の方に90度逸らす。
バギンッ!
「ク……ゥハッ!」
俺は黒騎士の拳の一撃によって地面に強く叩きつけられる。
黒騎士の拳が盾を貫通してきた。
いや、違う。
黒騎士の拳にあたる寸前に盾が消えた。
とっさに右手の鞘で防いだつもりが、勢いを殺せずまま鍔がみぞおちにめり込んでしまった。
俺は、かすれる意識の中でなんとか膝を持ち上げて回避しようとするが、黒騎士に足を払われ、再び両手を地面に着く。
その次の瞬間には、黒騎士は再現させた盾で俺を押しつぶそうとしていた。
「ゴ……ッパン」
俺は血のシャボン玉を膨らませながら、寝た状態のまま右手で地面をグッと支え、黒騎士の膝を蹴る。
グチュンッ
「グッ……」
軌道の逸れた大盾は身体から少し離れた場所にあった右腕を圧し潰した。
俺は体勢を崩した黒騎士の肘関節に短剣を滑り込ませ、力が抜けた瞬間に右腕を引っ張り出し再び距離を取る。
逃げられるほどの隙にはなっていない。
おそらく骨にひびが入ったが、鞘を握る力は残っている。
雨で土が柔らかくなっていたのが良かった。
ユバルさん製の戦闘服を着ているおかげで、まだなんとか戦えているが、先程の拳の痛みで意識がハッキリとしない。
気を抜くと口の中に血が溜まるため、呼吸もしづらい。
医学知識は全くないが、だれがどう見たって重症だ。
肘の内側をさすっている黒騎士の後ろに、雨雲と地平線の間にある、沈んでいく太陽が見える。
日が暮れたら現状がさらに不利になる。
俺は右腕を直角に上げ、手の甲を目の前の太陽に向ける。
「小指一本分か……」
「グチュッ……ペッ!」
俺は口に溜まった血を吐き出して大きく空気を吸い込むと、重心を低くして再び構える。
タイムリミットはあと15分。
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