第三十四話「痛々しい」

「それで……、こっちに近づいてきてるけど、どうするの?」


 オニは完全にこちらに気づいているので俺も隠れるのを止め、普通に立ち上がる。


「そうだな……、俺が大きいのヤるから小さいのはアレンに任せる」


 ノアはそう言うと、槍を地面に置いてオニの方へ歩き出した。


 槍を使わないつもりか?

 やっとノアがあの槍を使っている所を見れると思ったのに……


「ノアさ、本気見せてよ」


 ノアは俺が呼び止めると少し怖い笑顔で振り返る。


「それは出来ないな」

「壁の中と城壁と国道から3キロ以内は禁止されてる」


「だれに?」


「お譲」


 ノアはそう言うと、身体からフッと力を抜いた。


 お譲って……、あぁ、アメリアさんか。


「なんで?」


「意識が飛ぶ」


「そんな<特能>あるの?」


 一応、ノアの職業が<魁傑>と知ってからスキルボードで<特能>を調べたが、そのような物はなかったはずだ。


「いや、<特能>は関係なくてな……」

「あの人のサンドバッ……、訓練するにはマトモじゃやってられなかったからな……」

「まぁ、簡単に言うとその時のクセだ!」


 そういえばコビーさんがレゼンタックをリフォームしたのって5~6年前とか言ってたような……

 さすがに関係してないと信じたい。


「でもここって一応、3キロ離れてるよ?」


「今回の相手はドラゴンじゃなくて、ただのオニだ」

「一番の目的はオニの動きをアレンに見切ってもらう事だからな!」

「それに本気なんて出したらつまらない」


 ノアはそう言うとニカっと笑い、30mほどまで迫っていた大きなオニの後ろに身体を飛ばした。

 そしてオニの後頭部を大きな手で鷲掴みし、グルンッと一回転させて真上に放り投げる。


「おぉ……」


「アレン!」

「よそ見するなよ!」


 俺は飛んでいくオニを目で追っていると、いつの間にかに小さいオニの所に移動していたノアが大声で俺を呼ぶ。

 そして、ノアは小さいオニを俺に向かって蹴飛ばしてきた。


 俺は高速でこちらに飛んでくる、既に肉塊となった3体の小さなオニに対して慌てて短剣を抜く。

 そしてバッティングセンターの要領で頭部を狙って短剣の刃を当てようとした。


「アレン、やったか?」


「2体逃した!」


 ノアは既に地上に降りてきた大きなオニの喉を踏みつけて待っている。


 俺は後ろに転がっているもう身体を動かすことのできない小さなオニの元へ駆けつけ、頭部を短剣で切り裂いた。


 一体目と二体目のオニを故意に見逃してしまった。

 モンスターと分かっていても、人型だとさすがに躊躇ってしまう。


「終わった!」


 俺がそう言うとノアは喉を踏みつけていた足を離し、オニと距離を取る。


 モンスターは核からの指令を遮断するために首を強く圧迫すれば拘束できることは知っていたが、あれはちょっと可哀そうだな……

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