第二十二話「支度」

 レゼンタックに到着すると、四階まで軽い足取りで階段を上り、ノアを探す。


「遅くないか?」


「時間ぴっただよ」


 ノアの姿は見えないが、ノアの椅子の近くでハリソン君が黒いバッグを肩にかけて直立していた。


 礼儀が正しいのか悪いのか分からないな……

 ひねくれた真面目と言ったところだろうか。


「ノアは?」

「運動場?」


「トイレ」



「おう!二人とも揃ってるな!」


 しばらくノアの椅子の周りでウロウロしていると、ノアが手を濡らしながら戻ってきた。


「二人ともトイレは大丈夫か?」

「しばらく行けないぞ?」


「うん、大丈夫」「問題ないです」


「よし、じゃあついてこい!」


 ノアはそう言うと、認識票がかかっている壁の前に俺たちを案内した。


「まず、出勤したらこの認識票を首と足首に付けろ!」

「ほら、早くしろ!」


 俺とハリソン君は武器の入ったケースを床に置き、ノアに言われた通り認識票を首と足首に付けた。

 ハリソン君は信仰している神様がいるようだ。


「今日は西門から北門の見回りするからな!」

「一週間分のシフトはそこに貼ってあるから確認しておけ!」


 見回り、見回り、見回り、見回り、見回り、見回り、見回りか……

 [加勢]と[監視]がある人もいるが、俺とハリソン君は[見回り]しかない。


 なるほど……、というか週7日みっちり働くのか。

 一回の労働時間が最大でも6時間と少ないものの、休日は欲しかった。



「アレン、行くぞ!」


 ボーっとシフト表を眺めていると、いつの間にかノアとハリソン君が階段の方に移動している。



 階段を下りてレゼンタックを後にすると、ノアに続いて西門の方に足を進めた。

 ノアの歩くスピードが速く、俺とハリソン君は小走りになっている。


 レゼンタックは街のほぼ中心にあるので、どの門へ行くのにも距離は変わらないのは良い。




 30分ほど走ると壁の外に続くトンネルが見えてきた。


 一応、開閉できるようだが、西門と言いつつもトンネルにしか見えないよな。



 ノアはトンネルに入る直前で歩く速度を緩め、道を右に曲がった。


 ……外に出ないのか?


「二人とも!」

「俺たちレゼンタックの職員はここから外に出るから覚えろよ!」


 ノアは振り返ってそう言うと、トンネルのすぐ横にある壁についているドアを開けた。

 ドアの上には、[レゼンタック職員用]と書かれている。



 1mほどの幅の廊下を進んでいくと、机が並んでいる少し広い空間に出た。

 この空間は倉庫のようになっていて、段ボールと色々な備品が置いてある。


「ノアさん、そいつら新人ですか?」


「あぁ、そうだ!」

「あまり虐めるなよ!」


 部屋の端で年季の入ったおっさんがマグカップを片手に番人のように鎮座している。


 悪い人では無さそうなので、俺は軽くおっさんに会釈した。


 おそらく[加勢]の役割の人だ。



「……よし!」

「まず、ここにきたらコンパスと地図と時計をそこから取れ!」


 ノアは机の上に置いてある大小様々な箱を指差した。


 近づいて中を覗くと、箱ごとにコンパスと地図と時計が入っている。


 俺とハリソン君はそれぞれ一個づつ手に取ると、ポーチの中に入れた。


「おい、アレン!」

「時計はしまう前に、そこの時計と時間が合ってるか確認しろ!」


 ノアは壁に掛かっている時計に目線を向ける。


 俺はポーチから時計を取り出し、時間が合っていることを確認して再びしまった。

 ハリソン君は俺の事をニヤニヤと見ている。


「そしたら次に武器を取り出して空のケースをここに持ってこい!」


 俺はケースから武器を取り出してホルスターに付ける。


 その横でハリソン君は地面に置いた大きな黒いバッグから、銃をゆっくりと取り出した。

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