第二十一話「黒猫のペン」
「あー、ヒナコって動物、好きなの?」
俺は棚の上に置いてあったペン立てに目を向ける。
まったく、馬鹿みたいな話題だな……
「うん、好きだよ!」
「見た事は無いけどね!」
「一回ぐらい触ってみたいな……」
ヒナコは中腰になってペンを手に取った。
ペンの頭についている黒猫の頭がゆらゆらと揺れている。
「モンスターは?」
「動物と似てるよ?」
「モンスターも見た事ないよ」
「近づくの怖いし……」
「それに、そういうのは男の子の趣味だよ」
「え、モンスターも見たことないの?」
「すごーく遠くからならあるけど、小さくてよく分からなかった」
「まぁ、そうだね」
「近づかない方が懸命かもね……」
「……」「……」
間をジュースを飲んで埋めていたら、もうコップが空になってしまった。
「……あ、おかわり持ってくるね!」
「いや、いいよ」
「もう戻るから」
俺はヒナコより早く立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「そうだよね……」
「お昼ご飯11時ころでいい?」
「うん、ありがとう」
俺はヒナコの部屋を後にすると、階段を上って自分の部屋に戻った。
ケイは寝室で静かに寝ている。
……今回は拒絶反応が出なかったな。
昨日の夜、なんで嘔吐をしたのか自分でも分からない。
もしかしたら原因はヒナコではなく、あの短剣かもしれないな。
俺は部屋の端に置いてある短剣の入ったケースに手を伸ばす。
「……なんだ?」
俺のスーツから甘ったるい香りがする。
……ヒナコか。
「ケイ、お昼の時間だよ?」
「うーん……」
11時になったので、俺はケイの肩を軽くゆすって起こす。
「ケイ、大丈夫?」
「うーん……」
ケイは目を開けずにうなっている。
ケイの額に手の甲を当ててみたが熱は無い。
「先に行ってるよ?」
「ワカッタ……」
俺はケイを部屋に置いて、一回に降りて昼ご飯を食べる。
俺がお昼ご飯を食べている間にヒナコが様子を見に行ったが、首を傾げて戻ってきた。
昼ご飯を済ませると、仕事に行く支度を始めた。
脱いでいたスーツをパーカーの上から羽織り、グローブをはめて、赤い花を腰に挿す。
ポーチとホルスターは腰に着けてあるし、後は武器を持って行けば大丈夫だ。
ポーチには水の入ったペットボトルだけ入れておいた。
「ケイ、行ってくるね」
「イッテラッシャイ」
ケイは居間でおかゆを食べながら俺に小さく手を振った。
俺は階段を下りて、玄関で靴をきつく締める。
「今日は何時に帰ってくるの?」
見送りにきたヒナコが後ろから俺に話しかける。
「言われてないから分からないんだよね……」
「なるべく早く帰ってくるよ」
俺は膝に手をついて勢いよく立ち上がると、引き戸を開けた。
「いってらっしゃい!」
「いってきまーす」
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