第九話「戦闘服」
「……待たせたな!」
「これが今日からアレンの戦闘服だ!!」
そう言いながらユバルさんは黒い袋に覆われたハンガーを片手に店の奥から出てきた。
ここでもユバルさんは焦らすのかよ。
……ん?
今、ユバルさん『戦闘服』って言ったか?
確かにスーツを仕事着にしようかな、とは思っていたが、ユバルさんにはスーツの手直ししか頼んでいない。
『戦闘服』にしてくれとは絶対に言っていない。
「ほら、開けてみろよ」
ユバルさんは黒い袋に覆われたハンガーを受付の上に置き、自信満々の笑顔をして腕を組んだ。
てっきり『根を詰めた』というのは武器の方かと思っていたが、本命はこの袋の中身のようだ。
「ふぅ……、じゃあ開けるよ?」
「かしこまらずに、ささっと開けろ!」
俺は袋についているジッパーをゆっくりと下ろす。
まず、明らかに生地が変わっている。
パサパサだった生地には艶が出ていて、ワイン色?のストライプ柄が薄く入っている。
そしてボタンの数が3つから2つになっている。
素人目にはこのくらいしか分からないが、元のスーツからほとんど原型を留めていない。
「着てみろよ!」
ユバルさんはそう言うと、ハンガーからスーツを取り外して俺の前に置いた。
「どこで着替えればいい?」
「誰もこないからそこで平気だ」
「……わかったよ」
俺は受付の前でズボンを脱ぎ、下からスーツを着替え始める。
上はパーカーの上から羽織ることにした。
スーツは軽くて着心地は思った通り最高だが、身体に纏わりついてくるような感覚がある。
「ほら、着たんだったら鏡の前に立ってみろ!」
「……うん」
俺は言われた通り、鏡の前に立つ。
「それで……どこをどうしたんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!」
「表地はブラック、裏地はグレー、どちらも実家から特急便で取り寄せた一級品だ!」
「耐刃防水素材で表地のベースの色はその武器に合わせてある!」
「表地にはボルドー、裏地にはホワイトのストライプを入れた!」
「そして、表地と裏地の間の中地には伸縮性素材を入れてある!」
「ちなみに中地は耐衝撃、耐熱素材にしておいた!」
「耐熱は理論上5000Kまで耐えられるようになってるぞ!」
「……裾とかが緑色に少し光ってるのは?」
「あぁ、それは重りに石を入れてある」
「身体に密着させるのと裾を払いやすいようにだ」
「……えーっと、じゃあつまりこれって新品ってこと?」
「ボタンは変わってないぞ?」
「ふぅ……、そうか」
俺は鏡の前で一回転する。
確かに、これは良いスーツだ。
ユバルさんが『戦闘服』と言っただけあり、スペックも高い。
だがしかし……
俺は今日で破産したかもしれない……
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