第十話「なすりつけ」

「……ユバルさん」

「この前、この世界では防具は必要ないって言ってましたよね?」


 ユバルさんはビクッとする。


「あぁ……なんというか、直してるうちに色々やりたくなっちゃって……」

「男のロマンってやつだ……」


 ユバルさんは小さく呟いた。


「……」


「いや、違うんだ!」

「……ほら、アレンのステータスって低いだろ?」

「防具も欲しがってたじゃないか!」

「俺はそれを心配してこれを作ったんだ!!」


 俺が冷たい目を向けると、ユバルさんは慌てて言い直す。


 確かに防具は欲しかったが、もうとっくに諦めはついていた。

 そして、その為の策も考えていた。


「一つだけ言っておきたいんだけど……」

「俺、お金あんまり持ってないよ?」


 俺はそう言いながら、うつむいてスーツのボタン外した。


「……なんだアレン、そのことをずっと心配してたのか!」

「安心しろ、これは俺の趣味だから最初からタダでやろうと思ってた!」


「なんだ、よかったぁ」


 俺は受付の上に置いてある短剣を左腰に、ポーチを後ろ腰にセットする。



 ……『思ってた』って言った?



 俺は短剣とポーチを腰に着け終わるとユバルさんに目を向けた。


 ユバルさんは口角を上げながらも申し訳なさそうな目で俺を見ている。


「……アレン!」

「お前には二つの選択肢がある!」

「一つ目は今ここで500ギニーを払う!」

「二つ目は俺の妻に一緒に謝りに行く……」

「どっちがいい?」


「……えーっと、どうして?」


「いや、一週間で仕上げようとしたら俺の小遣いじゃ足りなくてな……」

「妻の財布からこっそり拝借して、後で返そうと思ってたのがバレてしまって……」


 ユバルさんは俺に苦笑いを向ける。


「……それって俺のせいになってないよね?」


 ユバルさんは再びビクッとする。


「……大丈夫だ、俺の妻は優しいからな」

「しっかり謝れば許してくれるはずだ」


 ユバルさんの額から一筋の汗が流れた。



 ……仕方ないか。


「わかった、払うよ」

「<貧者の袋>」


 俺は財布から100ギニー札を6枚、取り出してユバルさんに渡した。


「……ありがとな」


 ユバルさんは両手で600ギニーを受け取ると、綺麗に畳んでポケットの中に入れた。



 ユバルさんは俺が着ていた服や武器の登録証、スーツハンガーなどをまとめて袋に入れてくれた。

 武器はそのままでは町中では持ち歩けないらしいので専用のケースに入れる。


 それと、ユバルさんは余った素材でスーツと同性能のハイネックインナーとネクタイも作っていてくれたようで、それも有難く頂いた。

 インナーは持ち歩くのも面倒なのでパーカーの下にささっと着替えた。



「よし、今日はこれで終わりだ!」

「一か月ぐらい経ったら武器の点検にこい!」


 ユバルさんはいつもの顔に戻っている。


 ほんと、この兄弟って調子いいな。


「分かった……けどさ」

「二十歳の男がこんなオシャレな恰好してたら発情期の鳥みたいに思われないかな?」


 俺は店から出る前にもう一度、鏡の前でターンする。


「それは誉め言葉として受け取っとくぜ!」

「だが、そうだな……パーカーの上から着ている分には大丈夫だと思うぞ!」

「ほら、時間ないんだろ?」

「早く行ってこい!」

「そして兄貴に自慢してこい!!」


 ユバルさんはそう言うと俺を店の外に追い出した。



 ってことはワイシャツじゃ分不相応ってことか……


「昼飯行くか……」


 俺はデリカサンドの方向に足を進めた。




 デリカサンドはいつも通り大繁盛している。


 俺はチーズサンドを頼んで席に座った。



「……あ!」


 時間が無かったので素早くサンドウィッチを口に頬張ったら、さっそくソースをスーツにこぼした。

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