第六十一話「???」

「ねぇヒナコ、この四階ってどうなってるの?」


 俺は中央にある螺旋階段にいるを指差す。

 そこにいる受付のお姉さんの横にある看板には[展望読書スペース 5冊まで持ち込み可 150ギニー]と書いてある。


 この建物は入場料がかかるのと、四階に行くにもお金がかかるようだ。


「えっと四階はね、たしか全部の席が本を読む場所になっててね、窓から見える景色がすごい綺麗なんだよ!」

「私も小さいころに一回だけおばあちゃんと一緒に来ただけだからあんまり覚えてないけどね……」

「あとね!最近、四階を改修工事したみたいで、1時間か2時間に一周のペースで回るんだって!」


 ヒナコは小声ながらも興奮気味で説明してくれる。


「ふーん、すごいね」


 なるほど、だから螺旋階段なのか……


 子供の頃に回転レストランに一度だけ連れて行ってもらった事があるな……

 おそらくそれと似た仕組みだろう。


 地球ではエレベーターだったが、この世界では階段を上る労力よりも、待ち時間や混雑の方が嫌なのかもしれない。


 それにしても、誰に連れて行ってもらったのかが思い出せそうで思い出せないのが少しもどかしい。



「……え?反応薄くない?」

「もしかして前の世界でこういうの見たことあるの?」


 螺旋階段からふと正面に目を移すと、ヒナコは頬を膨らませていた。


「まぁ、そんな感じ?」


 俺はそう言いながら一冊目の本を開いた。



 [セントエクリーガの歴史地理]


 近年の「空間」への関心の増大は、人と甦人との「認知地図」の差を小さくすることが認められている。

 例えば、社会意識や過去認識の歴史の「記憶」に付随する空間的な様相が……



「……は?」


 俺は2行目で本を閉じ、二冊目の本に手を伸ばした。


 どうやら選ぶ本を間違えたらしい。



 [歴史的トラウマから語る自己選択と共同性の意味]


 事セントエクリーガでは、同性での性行為が違法とされている。

 それはなぜなのか。

 そこには歴史的トラウマに起因する現代に生きるペドフェリアに与えられた傷が……



「んーーー、ん?」


 読みたい本とたぶん違うし、なによりも難しい。


 ……三冊目はもういいか。



「……ねえ、ヒナコ」

「学生向けの本ってどこにある?」


 ケイと一緒に本を読んでいるヒナコの肩を叩いて聞くと、指を差して場所を教えてくれた。



 俺は持ってきた本を元の場所に戻し、ヒナコに教えてもらった場所で一番簡単そうな本を1冊選んで再び席に戻った。



 [歴史]


 第一章 神話


 私たちの住むこの世界の神話の多くは元を辿るとギリシャ神話、ローマ神話、エジプト神話など甦人が伝えたものに繋がる事が大半だが、独自に発達した神話も数少なく存在する。


 そのなかでも有名なのがモンスターを神や信仰対象と見立てる……



「……ふっ」


 俺は本に対して鼻で笑った。


 どうやら、俺が馬鹿になったわけではなさそうだ。



 俺は少し安心すると、椅子に深く座り直し本を読み進めた。

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