第四十九話「片鱗」

 トレバーさんに挨拶も済ませ受付の方に行くと、ヒナコが待合所の椅子にチョコンと座っていた。


 やはり、この人混みでもアジア人は目立つ。



「<猫足>」


 俺は足跡を<特能>で消し、気配を自力で消しながらヒナコに後ろから近づく。


「おまたせ!」


 俺がヒナコの肩を軽く叩きながら大きめの声で驚かすと、ヒナコは腰を浮かせて肩をすくめた。


 やはりこのぐらいの反応をしてくれると面白いな……


「なんだ……アレンか……」

「もう、やめてよ!」


 ヒナコは俺のわき腹を人差し指で突き、そっぽを向いて座り直した。


「ごめん、ごめん」


 俺はテキトーに謝りながらヒナコの隣に腰を下ろす。


「……あれ?ケイちゃんは?」


 ヒナコは、辺りを一周見渡す。


 ……そう言えば、ケイはアメリアさんに連れていかれたきり姿を見ていないな。

 俺が窓ガラスを割った時はアメリアさんは一人だった。


 まぁでも、ケイなら一人でも多分なんとかなるだろう。


「多分大丈夫だよ」

「……それでさ、買い物なんだけどケイと二人で行ってくれない?」

「仕事道具、買いに行く用事できちゃった」

「買い物終わったら、俺はそのまま図書館行くけどどうする?」


 俺はズボンについていた汚れを手ではたく。


「うん……それでもいいけど」

「……じゃあ、私たちも買い物終わったら図書館に行くからそこでまた集合ね」

「お昼ご飯は一緒に食べるでしょ?」


 顔を上げるとヒナコが少し悲しそうな表情で俺の顔を覗き見ていた。


「あぁ、うん、お昼はそうする」

「<貧者の袋>」

「……それじゃあ、これでケイの買い物お願い」


 俺は財布から200ギニー札を5枚取り出し、ヒナコに渡した。


 足りるか分からないが、1000ギニーは全財産の約三分の一だ。

 これでなんとかしてもらおう。


「え!なにそれ!めっちゃ便利だね!」

「中、どうなってるの?」


 ヒナコはお金を受け取ると<貧者の袋>に手を伸ばしたので、俺は袋をヒナコに渡した。


「……これどうなってるの?」


 ヒナコが袋の中を覗こうと必死に口を広げようとしているが袋の口が開くことは無かった。


「うーん……わからない」


 スキルボードにはこのような防犯対策みたいな仕様があるとは書いていなかったので少し驚いた。



 他の<特能>にもなにか隠された使用があるのかもしれない。



「もう!」

「ん!」


 ヒナコは何とか口を開こうといろいろと試みたが、いくらやっても開かないので不機嫌そうな顔をしながら俺に<貧者の袋>を押し返してきた。


「ハハハハハ……ステイ」


 俺は苦笑いをしながら<貧者の袋>を消す。




「終わったよー!」


 ヒナコと談笑しながらしばらく待っていると、女の子の声が聞こえたので振り返る。


 すると、スキップをしながらこちらに近づいてきたケイが俺の隣にドタッと座った。

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