第三十六話「レゼンタック」
「それでは続けていきますね」
お兄さんはホワイトボードにレゼンタックの構成図を書き始めた。
レゼンタックの主な事業は大きく分けて人材派遣、事業支援の2つに分かれているようだ。
それとは別に独自の研究機関も持っている。
その中でも元々の事業であった人材派遣には特に力を入れており、国からの依頼に関してはほとんど独占状態になっているらしい。
事業支援に関してはヒナコの宿が良い例だ。
まず、潰れそうになっている店をレゼンタックが買い取り、店の人はレゼンタックの従業員として働いてもらう。
その店をレゼンタックが運営することで安定軌道に乗せ、その後レゼンタックに4割の権利を残して店の人に返すという。
また、レゼンタックの社員はレゼンタック直轄の店で買い物をすると割引になるらしい。
お兄さんは口を濁しながら説明していたが、つまりレゼンタックは、レゼンタックの社員にレゼンタックで稼いだお金をレゼンタックのお店で使わせ、レゼンタックのアパートで寝泊まりさせるというかなり阿漕な商売をしているようだ。
ではなぜ俺のような見ず知らずの者が超大企業のレゼンタックで働くことが出来るのか。
それはレゼンタックの経営方針である『来るもの拒まず』の精神のおかげだ。
面接に通りさえすれば誰でもレゼンタックに入れるという。
その面接というのも、初めてアメリアさんに会った時点で終わっているというのだから驚きだ。
といってもほとんどの人は最初に地方に飛ばされることが多いのだが、アメリアさんの謎の力のおかげで俺は本社で働けることに決まったらしく、アメリアさんには頭が上がらない。
そして、この本社は一階に依頼の受付&配送本部、二階に研究機関、三階に生産&労働本部、四階に護衛&討伐本部があるらしい。
「ところで、アレンさんに働いてもらう部署についてなのですが……」
「本来ならば、レベル、5大ステータス、<特能>の適正から私たちが判断するのですが、なにせアレンさんは特殊でしてこちらで判断しかねるんです」
「なので、アレンさんの希望で決めたいと思うのですが、どこか希望はありますか?」
「ちなみにこれ以外にも配管工などはお勧めですよ」
お兄さんはマーカペンを置いてこちらに振り返る。
「……護衛と討伐でお願いします」
俺は少し間をおいて答えた。
というのもあの一件があってから少しモンスターに恐怖感を感じているからだ。
しかし、コビーの反応からするにアレは異常な事だったし、一人ならば逃げ切れる自信もある。
それに、スキルポイントを稼ぐにはこれが一番だろう。
それにしても、なぜ配管工がお勧めなのだろうか……
「わかりました、では護衛と討伐で登録しますね」
「一応、これで私の講習は終了しますが、なにか質問はありますか?」
お兄さんは相変わらずの笑顔で問いかけてくれる。
一応これから俺は後輩の立場に当たるのだが、これだと少しやりずらい。
「……先程、『来るもの拒まず』と言っていたのですが、それだと人が余ってしまいませんか?」
俺はあまり興味は無かったが一応後輩っぽく質問をしてみる。
「それはですね、レゼンタックの社員は独立したりスカウトされて退社することが多くてそれで釣り合っています」
「もう一つの『去る者は追わず』の精神ですね」
「この世界では言語の壁がほとんどないので海外に働きに行く人も多いですよ」
「特にギルセリアという国はかなり人気です」
「といっても特別な理由が無い限り、3年間はこの会社で働いてもらうことになります」
お兄さんは笑顔を変えずに答えてくれた。
俺は1年で辞める予定だったので、3年以内に辞めたらどうなるのか聞こうと思ったのだが、お兄さんの笑顔が少し怖かったので止めておいた。
まぁ、最悪、夜逃げしよう。
「ありがとうございます」
「それと、アメリアさんも言っていたのですが、5大ステータスってなんですか?」
俺は深堀されたくなかったので少し話を逸らす。
「それはノアさんに聞いた方が早いでしょう」
「他に質問が無ければノアさんに引き継ぎますがよろしいですか?」
お兄さんはホワイトボードを綺麗にし始める。
「はい、大丈夫です」
俺は机の上に広げた資料を手元に集めた。
「それでは4階までご案内しますね」
「そちらの資料は持ち帰ってもらって大丈夫です」
お兄さんは部屋の電気を消してドアを開けたので、俺は慌てて外に出る。
俺は『ノア』という響き、そしてアメリアさんとこのお兄さんの容姿から、美少年と美少女の姿を思い浮かべながらお兄さんの後を追った。
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