第三十七話「筋肉もりもり色黒スキンヘッド男」

 俺はお兄さんの後に続いて階段を上っていく。

 一応、エレベーターもあるようだが、使っている人はほとんどいないように見えた。


 それにしても、このお兄さんの名前を聞くタイミングを逃してしまった。

 ヒナコのように名札でも下げておいてくれれば良かったのに……


 

 四階は一階と同じような造りになっていて、受付のような所とその奥に書類が積まれたデスクが並んでいるのが見える。


「おい!まじかよ!!!」


 俺とお兄さんが受付に近づくと、それを見てそこに座っていた男が突然、声を荒げた。

 その男は身体がでかく色黒で、着ている白シャツは今にもはち切れそうになっていてるし、おまけにスキンヘッドだ。


 俺はその人間離れした身体に少しファンタジーを感じた。


「アレンさんはここに所属することになったので後はお願いしますね」

「5大ステータスについて説明してあげてください」

「それと……」


 お兄さんは大男の前に書類をそっと置き、直立、笑顔で説明をしているのに対して、大男は机に突っ伏した格好でチラチラと書類を確認しながらその話を聞いている。



「ではこれで失礼します」

「アレンさん、分からない事があればノアさんに聞いてくださいね」


 そう言い残すとお兄さんは元来た道を足早に戻っていった。


「おい!トレバー!!それはないぜ!!!」

「まってくれよ!!!」


 大男は片腕をのばしてお兄さんを引きとめようとしているがお兄さんはそれを気にも留めていない。


 そしてあのお兄さんの名前はトレバーさんというらしく、この大男がノアさんらしい。



「……」


 俺とノアさんは目を合わせる。

 その哀しそうな顔から、なんだか申し訳なくもなってきた。


「俺の名前はノアだ、よろしく……」

「よし!今から試験を行う!!」「はじめまし……」

「合格できなければ違う部署に行け!!!」「え?」


 俺が自己紹介を返そうとした瞬間、ノアさん、いやノアは受付のカウンターを軽く飛び越え、俺の首根っこを掴むと受付の奥へと引きずっていった。



 そして気づいた時には俺の身体は宙に浮かんでいた。



 バコーーーン!!!!!


 四階から飛び降りたノアの重い衝撃音が空に響き渡る。


 ノアは知ってか知らずか、俺に掛かる落下の衝撃を上手く逃がしてくれたおかげでなんとか無傷だが、昨日の耳鳴りよりも酷い耳鳴りが俺を襲った。


 ノアは俺を地面にそっと放り投げる。



 急な出来事すぎて頭が追い付かない。



「ノアさん!ちゃんと階段を使ってください!」


 建物の方からアメリアさんの声が小さく聞こえる。


 しかし俺は精神的ショックからなのか、空を見上げる事しか出来ず、姿を確認できなかった。


「すみませんな、お嬢様!」


「ほら!お前も早く立て!!」


 ノアは俺の首根っこを再び掴み俺を立ち上がらせる。

 目の前には広めの空間と端に並べられた使い古されたベンチやバーベルなどの器具、そしてその前に立ち尽くす人たちの姿があった。


 おそらくここは職員用の運動場かなにかだろう。


「ほら!武器選んで来い!!」


 そう言うとノアは倉庫の前に俺を突き飛ばす。


 俺はよろけながらも自分の足で立ち、その流れで倉庫の扉を開けた。



 倉庫の中は様々な武器がズラッと並べられた夢のような空間だった。

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