第三十四話「レベルν」

「あの……これってどういう扱いになります?」


「……そうですね」


 お兄さんは脇で書類の挟まったバインダーを抱えながら右手で胸ポケットからペンを取り出した。


「Level 0, Level X, Level unknownってどれが丸く収まると思います?」


 お兄さんは開き直ったのか、意味の分からない事を聞いてきた。


 どうやら見栄えで押し通すようだ。

 しかし、どれも安直であまり面白くない。


「どうせなら普通の文字よりギリシャ文字の方が面白くないですか?」

「Levelνニューとか、levelφとか……」

「なんならラテン語でもいいですよ」


 俺はベッドから降りて、スーツを着る。


 半分冗談だが、淡い期待を乗せて一応、提案してみた。


「そうしましょうか、ではlevelνで登録しておきますね!」

「それではレベル測定はこれで終わりなのでこちらに進んでください!」


 お兄さんは俺が口を挟む隙も与えずに書類に素早く書き込むと、奥に続くドアを開けた。


 ……意外と柔軟に対応してくれるんだな。


 俺はお兄さんの後に続いて部屋を後にする。



 ドアを出るとそこは廊下になっていた。

 明かりはついているものの、人の気配がないので少し不気味な空気が漂っている。


「それではケイちゃんのレベルを測ってきますのでしばらくここでお待ちください!」


 お兄さんはそう言い残し、再び部屋の中に戻っていった。


 俺は目の前にあった二人掛け程度の大きさのソファーに腰かけた。



 コツンッ、コツンッ、コツンッ……


 足音が聞こえたので顔を上げると奥の方から女性が歩いてくる。

 ……よく見るとアメリアさんだ。


 俺は少し安心したと同時に、ケイのレベル測定がスムーズに終わるか心配になった。



「あれ、アレンさんだけですか?」


 アメリアさんは俺の前を通り過ぎることなく、俺の隣に座ってきた。


 すこしいい香りがする。


「僕が先にやったので……」

「もうすぐケイも終わると思いますよ」


 俺はレベル測定の部屋があるドアだけを見つめて答える。


 少し顔が熱い。


「そうだったんですね!」

「レベル測定は怖くありませんでした?」

「あれ、初めての方は皆さん怖がるんですよ」


 アメリアさんは上品に笑いながら話しかけてくれる。

 それがまた俺の緊張を加速させていった。


「最初は怖かったですけど途中からは逆に面白かったですね……」

「あれってどういう原理でレベルを測っているんですか?」


 俺は愛想笑いをしながらチラッとアメリアさんの方を見てみた。

 しかし、ドンピシャで目が合ってしまったので咄嗟にドアの方に視線を戻す。


「アレンさんはシナプスをご存じですか?」


「……神経のやつですよね?」


 一瞬、何のことか分からなかったが、直ぐに思い出すことが出来た。


 アメリアさんの口から『シナプス』なんていう言葉が出てくるのは驚きだ。


「そうです、そのシナプスです」

「私も詳しくは分からないんですけど、レベルとシナプスはには相関関係があって人間の反射機能を利用してシナプスの数とシナプス構造の複雑さを調べているらしいですよ」

「それに、あの装置はレベルだけではなくて5大ステータスなどの、いくつかのステータスも測ることができるんですよ」

「といってもステータスのほうには多少誤差が出てしまうんですけどね」


 ガチャ


 アメリアさんが一通り話し終わった時、レベル測定の部屋のドアが開いた。

 お兄さんの後に続いてケイが部屋から出てくる。


 俺はケイがてっきり怯えた表情で出てくるのかと思ったのだが意外とキョトンとした顔をしていた。

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